8 / 84
一章 華胥の夢
肝胆相照らす
しおりを挟む
……ん?
バイブの音っぽいけど。何だ?
『失礼、』
宗元が胸元を探って、スマフォっぽいものを取り出した。
上司の前では電源切っときなさい!
しかし、この古代中国風の格好や世界観に、スマフォはミスマッチ過ぎるだろ……。
この服装が、制服だと考えるしかないのだろうか。
メールだろうか。何やら操作をして。
『陛下。幽州にて問題が起きたようです。すぐに対処せねばなりませんので、失礼をお許しください』
再びそれを懐にしまった。
幽州って。
中国の北の国境辺りに、かつて存在した州といわれてる州だ。
『スミマセン、オレも呼び出しが!』
伯裕もか。
二人は手を合わせた礼をして、足早に去っていった。
*****
伯裕、少々顔色が悪かったような気がするが。
何があったんだろう?
そんな二人を、信季は妙に冷たい表情で見ていた。俺に見せる顔は、人懐っこい弟キャラっぽいのに。
何を考えているのか、さっぱりわからない。
それにしても。さすがに、予備知識ゼロはきついな。
……どいつもこいつも怪しく見えてくる。疑心暗鬼を生ず、ってやつか。何でもかんでも疑うのは、正直、疲れる。
一人くらいは味方が欲しいもんだが。
『陛下、お加減がよろしくないのでしたら、休まれたほうが……』
耀が俺の顔を見て、心配そうに言った。
考えてみれば。皇帝と俺が入れ替わる直前まで、あんな甘々な態度だったんだ。
こいつが本物の恋人だとしても、違和は感じねえんだよな。
でも、幼馴染みなら普通なのか?
わっかんねえ……。俺、友達もいなかったし。
小中学校の時は、番組収録と時事ニュースや雑学ネタの仕入れに忙しくて、遊ぶ暇もなかった。
大人も含めて、周りのやつらがアホにしか見えなかった。
実際アホばっかだったけど。特に番組ディレクターは軒並みアホだ。燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、なんて言ってたもんだ。
所詮、自分は井の中の蛙だったのにさ。
本当に賢い人間ってのは、知識をひけらかさないんだ。
目立っても、いいことなんかないし。金を稼げても、最期があれじゃな。
……思い返してみたら、くだらねえ、何にもない人生だったな。
まさに終歳乾乾として成る所無し、だ。
危うくそのまま死ぬとこだったのを、皇帝が救ってくれたんだ。
どうにか犯人みつけて、生き延びてやろうじゃないか。
そういや、こいつら全員、来世とか同じ廟とか、生まれ変わったら、とか。後ろ向きにもほどがある。
今生で幸せにしてやんよくらい言えないのかよ!
俺は来世なんかに期待しないからな!
今を楽しく生きてやる。
パリピになったろうじゃんよ。ウェーイ系パリピーポー。
いや、それは無理か。
人種が違うもん。
*****
「あ、美味しい……」
バター茶とか、名前でちょっと躊躇したけど。ほのかな塩気がいい。
ヤクのミルク使うんだっけ。優しい味なんだな。ちょっとクセがあるけど。
『そうですか。陛下はこれを大変好んで飲まれてましたよ』
耀は微笑んだ。
これは耀の、広陵一族の出身地……遊牧民が日常的に飲む物で。
天子が口にするものではないといくら周りが諌めても、気にせず飲んでいたそうだ。
「そうなんだ」
皇帝の自室に、こうやって耀専用の、バター茶をいれる道具も揃ってるし。皇帝は乳兄弟の耀を、とても大切にしていたんだろうな、と思った。
『本当に、すべて。お忘れになってしまわれたのですね』
寂しそうな笑みを浮かべている。
ごめんな。
思い出すことは、絶対にないんだ。
あんたの大好きだった皇帝は、もういない。
俺と入れ替わりに、天国へ行ったよ。
天命だって言ってさ。
色々、心残りはあっただろうに。
*****
『先程は動揺して、とんでもないことを口走ってしまいましたことをどうかお許しください。記憶を失われましても、我が忠義は何一つ変わることなく仕えましょう』
耀は深く礼をした。
すべて忘れたのなら、と。
自分の気持ちは押し殺して、臣下として仕えようとしている。
その姿を見て、確信した。
こいつは、敵ではない。
皇帝の寝所に火をかけるような真似はできないだろう。
「……信じられないだろうけど、聞いてくれるか?」
バイブの音っぽいけど。何だ?
『失礼、』
宗元が胸元を探って、スマフォっぽいものを取り出した。
上司の前では電源切っときなさい!
しかし、この古代中国風の格好や世界観に、スマフォはミスマッチ過ぎるだろ……。
この服装が、制服だと考えるしかないのだろうか。
メールだろうか。何やら操作をして。
『陛下。幽州にて問題が起きたようです。すぐに対処せねばなりませんので、失礼をお許しください』
再びそれを懐にしまった。
幽州って。
中国の北の国境辺りに、かつて存在した州といわれてる州だ。
『スミマセン、オレも呼び出しが!』
伯裕もか。
二人は手を合わせた礼をして、足早に去っていった。
*****
伯裕、少々顔色が悪かったような気がするが。
何があったんだろう?
そんな二人を、信季は妙に冷たい表情で見ていた。俺に見せる顔は、人懐っこい弟キャラっぽいのに。
何を考えているのか、さっぱりわからない。
それにしても。さすがに、予備知識ゼロはきついな。
……どいつもこいつも怪しく見えてくる。疑心暗鬼を生ず、ってやつか。何でもかんでも疑うのは、正直、疲れる。
一人くらいは味方が欲しいもんだが。
『陛下、お加減がよろしくないのでしたら、休まれたほうが……』
耀が俺の顔を見て、心配そうに言った。
考えてみれば。皇帝と俺が入れ替わる直前まで、あんな甘々な態度だったんだ。
こいつが本物の恋人だとしても、違和は感じねえんだよな。
でも、幼馴染みなら普通なのか?
わっかんねえ……。俺、友達もいなかったし。
小中学校の時は、番組収録と時事ニュースや雑学ネタの仕入れに忙しくて、遊ぶ暇もなかった。
大人も含めて、周りのやつらがアホにしか見えなかった。
実際アホばっかだったけど。特に番組ディレクターは軒並みアホだ。燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、なんて言ってたもんだ。
所詮、自分は井の中の蛙だったのにさ。
本当に賢い人間ってのは、知識をひけらかさないんだ。
目立っても、いいことなんかないし。金を稼げても、最期があれじゃな。
……思い返してみたら、くだらねえ、何にもない人生だったな。
まさに終歳乾乾として成る所無し、だ。
危うくそのまま死ぬとこだったのを、皇帝が救ってくれたんだ。
どうにか犯人みつけて、生き延びてやろうじゃないか。
そういや、こいつら全員、来世とか同じ廟とか、生まれ変わったら、とか。後ろ向きにもほどがある。
今生で幸せにしてやんよくらい言えないのかよ!
俺は来世なんかに期待しないからな!
今を楽しく生きてやる。
パリピになったろうじゃんよ。ウェーイ系パリピーポー。
いや、それは無理か。
人種が違うもん。
*****
「あ、美味しい……」
バター茶とか、名前でちょっと躊躇したけど。ほのかな塩気がいい。
ヤクのミルク使うんだっけ。優しい味なんだな。ちょっとクセがあるけど。
『そうですか。陛下はこれを大変好んで飲まれてましたよ』
耀は微笑んだ。
これは耀の、広陵一族の出身地……遊牧民が日常的に飲む物で。
天子が口にするものではないといくら周りが諌めても、気にせず飲んでいたそうだ。
「そうなんだ」
皇帝の自室に、こうやって耀専用の、バター茶をいれる道具も揃ってるし。皇帝は乳兄弟の耀を、とても大切にしていたんだろうな、と思った。
『本当に、すべて。お忘れになってしまわれたのですね』
寂しそうな笑みを浮かべている。
ごめんな。
思い出すことは、絶対にないんだ。
あんたの大好きだった皇帝は、もういない。
俺と入れ替わりに、天国へ行ったよ。
天命だって言ってさ。
色々、心残りはあっただろうに。
*****
『先程は動揺して、とんでもないことを口走ってしまいましたことをどうかお許しください。記憶を失われましても、我が忠義は何一つ変わることなく仕えましょう』
耀は深く礼をした。
すべて忘れたのなら、と。
自分の気持ちは押し殺して、臣下として仕えようとしている。
その姿を見て、確信した。
こいつは、敵ではない。
皇帝の寝所に火をかけるような真似はできないだろう。
「……信じられないだろうけど、聞いてくれるか?」
10
お気に入りに追加
306
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる