高校受験失敗してから引きこもりニートな俺が中華風異世界で皇帝にされて、部下からモテモテ逆ハーレム状態なんですが。

篠崎笙

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一章 華胥の夢

別に天地の人間にあらざる有り

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『陛下が、記憶を失ったと……? 何ということだ……!』

宗元そうげんは、ずんずんと早足でこちらに近付いてきて。

俺が座ってる皇帝の椅子……の、やたらでかい背の部分に、ドン! と手を突いた。
壁ドンならぬ、椅子ドンである。

今ので倒れないってことは、床に固定されてるんだな、この椅子。
視線を正面に戻すと。


『……俺と、二世の愛を誓ったのも忘れたと?』

だから、知らないって言ってんだろが!
鼻先がくっつきそうなくらいがぶり寄るんじゃねえよオッサン。
びっくりしてちびりかけたわ!

『武公もか……!』
『武大夫まで!?』
『武師父!?』

三人の、悲鳴のような叫びが聞こえた。


これで自称・秘密の恋人が三人から四人に増えたわけだ。
彼女いない暦=年齢の俺なのに、快挙だね。

ただし、全員俺よりガタイのいい野郎ばっかり。
泣きたい。


*****


「じゃ、こちらの記憶もないことだし、すべて白紙に戻す、ってことで」

『却下!』

全員ハモったよ。
仲いいなあんたら。


「だって、知らない人から突然自分は恋人だとか言われても困るよ。記憶が無いってことは、共通の思い出もゼロ。今の俺は、あんたたちの知ってる朱亮じゃないんだよ? 全然違う人なんじゃない? それでも好きだって言えるの?」
俺の言葉に皆、顔を見合わせた。

『話し方に威厳が無くなった以外は、あまりお変わりなく見えますが』
マジかよ乳兄弟。しっかり見ろよ。

『ええ、王オーラが消えてるくらいで、だいたい同じですかね?』
主治医も同意見か。

だって俺、一般人だし。
ニートだし。皇帝じゃないし。王のオーラなんか出せるかよ。

たしかに皇帝にはオーラを感じたがな……。


『記憶が消えようが、その魂は同じであろう。ならば、幾度忘れられようが惚れるし、惚れられる運命にあると決まっておりましょう』
流し目を送られた。

声も渋くて格好良い。
宗元は無駄に雄フェロモン出しすぎだと思う。


『頭では忘れてても、カラダの相性は変わらないはずだしね? あっ! 抱けば思い出してくれるかも……いてっ、』
伯裕はくゆうは調子に乗って、師父、宗元に殴られている。


*****


顔が同じなら、性格も似てるものなのか?

なら。四股なんて器用な真似、この俺が、出来るわけもなく。
将来を誓い合った相手は、ただ一人だけなはずだ。

何でそれが男なんだよ、ってことはこの際、目を瞑ろう。
瞑りたくないけど。


つまり。
嘘吐きが三人いる。


何が目的だ?

皇帝の権力か?
俺自身……はどうかな。

嘘吐きの中の一人、もしくは複数が、放火犯ってことだろうか?

伯裕は、便乗だとわかりやすすぎる感じがするが。
それこそフェイクだったりするかもだ。

まだ、判断材料が足りなすぎる。


皇帝、せめて誰が恋人だったかくらいは教えてってくれればよかったのに。
俺が新しい人生を過ごす為に、あえて恋人の存在を教えなかったのか?

まあ、言われたら、気にするよな。
相手を好きになろうと、努力してしまいそうだ。俺が皇帝の立場でも、言えねえわ。


皇帝の、最後の言葉。
「余、甚だ惑う。儻しくは所謂天道、是か非か……」

その意味は。
”この世の秩序や運命は果たして、正しい者に味方しているのか”。

司馬遷しばせんだな。

殷代末期、伯夷・叔斉はくい・しゅくせいの二人の王子は、義を貫いた末に餓死したという儒教の聖人として扱われている兄弟で。
正しい人が不幸な目に遭うのを不条理に思った司馬遷が、伯夷伝について語った、史記の一節だ。


あの時は突っ込み損ねたが。
こっちの世界にも司馬遷いたのか? 姓は司馬。名は遷、字は子長。中国前漢時代の歴史家だ。
こっちの歴史とか、どうなってんだ?

うわあ、調べてえ。


*****


皆、驚いた顔をしてこちらを見ている。
何だ?


「……って、今、頭に浮かんだんだけど。心当たりない?」
と誤魔化す。

『司馬遷、ですよね』
耀は首を傾げた。

『古代より伝わっているとされる歴史書なのですが。そのような歴史は存在しないため、偽書とされてます。陛下は大変嫌ってました』

古代より!?
紀元前200年くらいだから、まあ古代か……。

こっちの世界にも司馬遷がいたのがまず驚きだけども。
それとも、あっちの本が、流れてきたとか? なら偽書扱いも仕方ないが。

偽書で、しかも嫌いだったのかよ。

何でそんなもんを、皇帝は最期にうたったんだ?
俺に何かを伝えるため?


それとも、他に何か意味があるのか?
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