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case4:蛇魅の社
蛇妖の封印
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「翼様、おかわりは?」
「僕はもういい」
お腹いっぱいだ。
『半妖、我はまだ足りぬぞ』
「…………」
夜叉丸にお茶碗を突き出されて。
善哉はおひつにあった残りのご飯をてんこ盛りにした。
『おお、気が利くな』
夜叉丸は普通に喜んで食べている。
だから、そういう子供っぽいいやがらせをしても無駄だって。
‡*‡*‡
宿をチェックアウトし、道成寺へ向かった。
蛇神と一緒に道成寺参りか。考えてみればすごい。
道成寺縁起堂で安珍清姫伝説の絵を見たり、道成寺鐘楼跡など見る。
安珍と共に鐘を焼かれたが、四百年ほど経った1359年の春、鐘を再興した。
二度目の鐘が完成した後、女人禁制の鐘供養をしたところ、一人の白拍子が現れて鐘供養を妨害したという。
白拍子は一瞬にして蛇へ姿を変えて鐘を引きずり降ろし、その中へと消えたという。
白拍子は清姫の怨霊だったとされる。
清姫の怨霊を恐れた僧たちが一心に祈念したところ。ようやく鐘は鐘楼に上がったが、清姫の怨念のためか、新しくできたこの鐘は音が悪い上に付近に災害や疫病が続いたため、山の中へと捨てられた。
さらに二百年ほど後、豊臣秀吉による根来攻めが行われた際、秀吉の家臣仙石秀久が山中でこの鐘を見つけ。合戦の合図にこの鐘の音を用い、そのまま京都へ鐘を持ち帰り、清姫の怨念を解くため、顕本法華宗の総本山である妙満寺に鐘を納めたという。
「そういえば、鐘も人柱を使うと音が良くなるって伝説があったよね」
確か、中国の話だったか。
「よお縁起悪いこといいなさんな……」
ここも特に何もないので。
蛇塚に向かう。
『もうし、そこなる位の高きお方』
女の声がした。
普通、アヤカシの声に応えてはいけないのだが。
『我のことか?』
夜叉丸が返事をした。
『ええ、尊きお方。貴方様でございます。どうか、我があるじをおたすけくださいまし』
蛇塚の裏から、白い蛇がひょっこりと顔を出した。
可愛いアオダイショウだ。
夜叉丸は僕を見たので、頷いてみせる。
『よし、話を聞こう』
‡*‡*‡
白蛇が訴えるには。
旅の法師が、何も害を与えていないのに、蛇妖であるというだけの理由で自分の主を封じたのだという。
眷属である自分は、たまたま使いに出ていて無事だったため、どうにか封印を解く方法を探し回っていたらしい。
『ふむ。あいわかった、と言いたいところだが。今、我はこの者の守護神である。許可なくば動けぬのだ』
白蛇はちらりとこちらを向いて。
『まあ。おかしなものを連れておいでで。……呪われものではございませぬか! しかも時逆とは』
「知ってるのか?」
詰め寄ると、白蛇は驚いたように飛び上がって。
『詳しくは、我があるじがご存知です』
「そうなると。……行ってみるしかないか」
もし邪悪なものなら、封印を固めておくべきだ。
アヤカシの”何もしていない”をそのまま信じるほど若くもない。
人間の常識とは違う次元で生きているのだから。
白蛇の案内で、奥の院の方へ向かった。
主が封じられた場所は、更にその奥だという。
木や枝は、自分から避けるようにして僕たちを通した。
夜叉丸の神力だ。
朽ち果てたような社があり、その下からアヤカシの気配がする。
特に邪気はない。
そこまで強いものでもないようだ。
‡*‡*‡
「善哉、その社どかして」
「はい」
義哉が社を持ち上げ、別の場所に置いた。
その下に、大きな石。
アヤカシを封じる文字が書いてある。……この字、見たことがあるような。
「あれ。これ、わりと最近のものだ。2,30年くらい前の封印だな」
「お爺ちゃん……、」
いや、普通は、百年単位の封印とかが多いから。
これは、実家の系統の術だ。
うちの兄弟の弟子辺りが腕試しにと手当たり次第、封じたのだろう。
しょうがないな。
「……”解”」
指で文字を撫でると。封じの文字は消えた。
「ひゃあ、それだけかいな!?」
単純な封印術だからな。
石が割れ。煙が出て。
美しい、裸体の女が現れた。
艶やかな長い黒髪。豊満な胸の下、下半身は蛇である。白蛇は慌てて服を着せている。
『そなたがわらわを助けてくれた男かえ?』
妖艶な美女は、僕の顔を覗き込んで。
『おや、時逆ではないか。これは素晴らしい。毎夜番えば、永遠の婿となるであろうな』
何か、どこかで聞いたようなことを言われる。
夜叉丸だ。
蛇というのは思考回路が似ているのだろうか。
「時逆の呪いについて何かご存知でしたら、教えてもらえると助かります」
『つれないのう、』
女の蛇妖は、赤い唇を尖らせた。
「僕はもういい」
お腹いっぱいだ。
『半妖、我はまだ足りぬぞ』
「…………」
夜叉丸にお茶碗を突き出されて。
善哉はおひつにあった残りのご飯をてんこ盛りにした。
『おお、気が利くな』
夜叉丸は普通に喜んで食べている。
だから、そういう子供っぽいいやがらせをしても無駄だって。
‡*‡*‡
宿をチェックアウトし、道成寺へ向かった。
蛇神と一緒に道成寺参りか。考えてみればすごい。
道成寺縁起堂で安珍清姫伝説の絵を見たり、道成寺鐘楼跡など見る。
安珍と共に鐘を焼かれたが、四百年ほど経った1359年の春、鐘を再興した。
二度目の鐘が完成した後、女人禁制の鐘供養をしたところ、一人の白拍子が現れて鐘供養を妨害したという。
白拍子は一瞬にして蛇へ姿を変えて鐘を引きずり降ろし、その中へと消えたという。
白拍子は清姫の怨霊だったとされる。
清姫の怨霊を恐れた僧たちが一心に祈念したところ。ようやく鐘は鐘楼に上がったが、清姫の怨念のためか、新しくできたこの鐘は音が悪い上に付近に災害や疫病が続いたため、山の中へと捨てられた。
さらに二百年ほど後、豊臣秀吉による根来攻めが行われた際、秀吉の家臣仙石秀久が山中でこの鐘を見つけ。合戦の合図にこの鐘の音を用い、そのまま京都へ鐘を持ち帰り、清姫の怨念を解くため、顕本法華宗の総本山である妙満寺に鐘を納めたという。
「そういえば、鐘も人柱を使うと音が良くなるって伝説があったよね」
確か、中国の話だったか。
「よお縁起悪いこといいなさんな……」
ここも特に何もないので。
蛇塚に向かう。
『もうし、そこなる位の高きお方』
女の声がした。
普通、アヤカシの声に応えてはいけないのだが。
『我のことか?』
夜叉丸が返事をした。
『ええ、尊きお方。貴方様でございます。どうか、我があるじをおたすけくださいまし』
蛇塚の裏から、白い蛇がひょっこりと顔を出した。
可愛いアオダイショウだ。
夜叉丸は僕を見たので、頷いてみせる。
『よし、話を聞こう』
‡*‡*‡
白蛇が訴えるには。
旅の法師が、何も害を与えていないのに、蛇妖であるというだけの理由で自分の主を封じたのだという。
眷属である自分は、たまたま使いに出ていて無事だったため、どうにか封印を解く方法を探し回っていたらしい。
『ふむ。あいわかった、と言いたいところだが。今、我はこの者の守護神である。許可なくば動けぬのだ』
白蛇はちらりとこちらを向いて。
『まあ。おかしなものを連れておいでで。……呪われものではございませぬか! しかも時逆とは』
「知ってるのか?」
詰め寄ると、白蛇は驚いたように飛び上がって。
『詳しくは、我があるじがご存知です』
「そうなると。……行ってみるしかないか」
もし邪悪なものなら、封印を固めておくべきだ。
アヤカシの”何もしていない”をそのまま信じるほど若くもない。
人間の常識とは違う次元で生きているのだから。
白蛇の案内で、奥の院の方へ向かった。
主が封じられた場所は、更にその奥だという。
木や枝は、自分から避けるようにして僕たちを通した。
夜叉丸の神力だ。
朽ち果てたような社があり、その下からアヤカシの気配がする。
特に邪気はない。
そこまで強いものでもないようだ。
‡*‡*‡
「善哉、その社どかして」
「はい」
義哉が社を持ち上げ、別の場所に置いた。
その下に、大きな石。
アヤカシを封じる文字が書いてある。……この字、見たことがあるような。
「あれ。これ、わりと最近のものだ。2,30年くらい前の封印だな」
「お爺ちゃん……、」
いや、普通は、百年単位の封印とかが多いから。
これは、実家の系統の術だ。
うちの兄弟の弟子辺りが腕試しにと手当たり次第、封じたのだろう。
しょうがないな。
「……”解”」
指で文字を撫でると。封じの文字は消えた。
「ひゃあ、それだけかいな!?」
単純な封印術だからな。
石が割れ。煙が出て。
美しい、裸体の女が現れた。
艶やかな長い黒髪。豊満な胸の下、下半身は蛇である。白蛇は慌てて服を着せている。
『そなたがわらわを助けてくれた男かえ?』
妖艶な美女は、僕の顔を覗き込んで。
『おや、時逆ではないか。これは素晴らしい。毎夜番えば、永遠の婿となるであろうな』
何か、どこかで聞いたようなことを言われる。
夜叉丸だ。
蛇というのは思考回路が似ているのだろうか。
「時逆の呪いについて何かご存知でしたら、教えてもらえると助かります」
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女の蛇妖は、赤い唇を尖らせた。
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