33 / 61
case4:蛇魅の社
リュウグウノツカイと人魚
しおりを挟む
客人神の島事件を解決したが。
水子と水蛭子が合体し、邪神化したものの一分を取り込んだ僕は、12、3歳ほどの姿から15、6歳くらいの姿になった。
おそらく莫大なエネルギーを取り込んだことにより、時逆の呪いを押し返したのだと思われる。
僕以上に吸収した善哉は、半分は妖魔だが、半分は人間の身体である。
どのような影響が現れるかわからないので。
一旦、事務所に戻ることにしたのだった。
‡*‡*‡
『おお、これは美しい』
事務所に帰るなり、我が事務所の守り神となった蛇神が出迎えた。
『彼の島は縄張り争いが面倒ゆえ、分身を飛ばせなかったが。どうなったのだ?』
ああ。
あそこ、150もあるからな、神社。神様にも、縄張り争いとかあるのか……。
夜叉丸に、事件をレポートにしたものを渡した。
あれは別のものに取り込まれ、自我を失っていた。辛うじて、紀伊の国、という言葉が浮かんだ、と記してある。
『……ふむ、坊主の集まる山があるところか。麓の寺に、人魚の剥製があるようだな』
夜叉丸は、いつの間にかパソコンで検索することを覚えていた。
華麗なブラインドタッチで。
そういえば、拾った結婚情報誌とか読んでたな。
新し物好きなのか。蛇神。
しかし。また人魚か。
不老不死と人魚伝説は確かに縁が深そうであるが。
夜叉丸は、どれどれ、と僕と善哉を視ている。
『嫁の見立て通り、あれの力で多少、呪いを押し返したと見える。しかし、吹き飛ばすまでには至らぬようだ』
善哉も、特に問題はないだろうとのこと。
ほっとしたが。
あんなものを取り込んでも、影響が出ないとは。善哉はどれだけ強い妖魔をその身に宿しているのか。
「では、より大きな呪いを取り込めば、時逆の呪いもを吹き飛ばせる、と?」
『可能性はあるが、止めておいた方が懸命であろう。更に厄介な呪いにかかることになりかねん』
今回は、地蔵菩薩によりほぼ浄化された状態で。害の少ないエネルギー体だけであったので、影響が少なかっただけのようだ。
やはり、そう上手くはいかないか。
‡*‡*‡
深海魚であるリュウグウノツカイやサケガシラなどが日本の人魚伝説の元ではないか、という説がある。
1805年5月、越中國富山領放生津四方浜に現れたという3丈5尺……10.5mの人魚の記述がそれに近いという。
人魚が出現するのは海の荒れた時で。体長は、人身大から10m。頭髪は長く赤くて、体色は白い。
リュウグウノツカイが漂着したという記録は、全国的にある。
打ち上げられ干乾びた姿が老婆に似ていたため供養されたという記述も見られる。
江戸時代に毛利梅園が描いた『梅園魚譜』には、表紙に人魚の絵が描かれているが、これは人魚のミイラを元に描かれたものだろう。
『北方文学』第二号にはR・H生という匿名の人物の投書した人魚の物語が載っている。
潟町に伝わる人魚塚の伝説である。
昔、佐渡の女と越後の男が恋し合い。男の住んでいる潟町の磯明神の常夜燈を目標に、女は四十五里の波を、盥を手で漕いで通っていた。
女は、鶏が鳴くと帰っていく。そうして毎夜、男の許へ通い続けた。
男は初めの内は健気な女を嬉しく思っていたが次第に女の執念が怖ろしくなり、嫌うようになった。女の情が高まるにつれ、男の心は離れ、女の手から逃れようとした。
男はある夜の真夜中、佐渡の女が沖へ出た頃を見計らい、磯明神の常夜燈の灯をこっそりと吹き消した。この夜は星も無く、海は荒れていた。唯一の標的であった常夜燈が消え、女は波間に消えた。
翌朝、前日の波の荒れようが嘘のように凪ぎ、空は晴れ上がった。
そして女の死骸が磯明神の傍の砂の上に打ちあげられていた。死体の下腹には人魚のように細かな美しい赤と銀の鱗が生えていて、美しい顔はうらめし気に真珠の歯を食い縛り、長い緑の髪は藻のように乱れていた。
磯明神の人魚塚は、この哀れな佐渡の乙女の屍体を埋めた、という話だ。
男女逆で、人魚も出ないが。
ローマの詩人オウィディウスの書簡詩集、『名婦の書簡』の『ヘーローとレアンダーの相聞歌』の内容とそっくりである。おそらく元ネタだろうと思われる。
紀元前43年~紀元後18年頃の話なので、シルクロード経由で日本に伝わったものと考えられる。
この話の死骸が、打ち上げられたリュウグウノツカイに似ているという説がある。
水子と水蛭子が合体し、邪神化したものの一分を取り込んだ僕は、12、3歳ほどの姿から15、6歳くらいの姿になった。
おそらく莫大なエネルギーを取り込んだことにより、時逆の呪いを押し返したのだと思われる。
僕以上に吸収した善哉は、半分は妖魔だが、半分は人間の身体である。
どのような影響が現れるかわからないので。
一旦、事務所に戻ることにしたのだった。
‡*‡*‡
『おお、これは美しい』
事務所に帰るなり、我が事務所の守り神となった蛇神が出迎えた。
『彼の島は縄張り争いが面倒ゆえ、分身を飛ばせなかったが。どうなったのだ?』
ああ。
あそこ、150もあるからな、神社。神様にも、縄張り争いとかあるのか……。
夜叉丸に、事件をレポートにしたものを渡した。
あれは別のものに取り込まれ、自我を失っていた。辛うじて、紀伊の国、という言葉が浮かんだ、と記してある。
『……ふむ、坊主の集まる山があるところか。麓の寺に、人魚の剥製があるようだな』
夜叉丸は、いつの間にかパソコンで検索することを覚えていた。
華麗なブラインドタッチで。
そういえば、拾った結婚情報誌とか読んでたな。
新し物好きなのか。蛇神。
しかし。また人魚か。
不老不死と人魚伝説は確かに縁が深そうであるが。
夜叉丸は、どれどれ、と僕と善哉を視ている。
『嫁の見立て通り、あれの力で多少、呪いを押し返したと見える。しかし、吹き飛ばすまでには至らぬようだ』
善哉も、特に問題はないだろうとのこと。
ほっとしたが。
あんなものを取り込んでも、影響が出ないとは。善哉はどれだけ強い妖魔をその身に宿しているのか。
「では、より大きな呪いを取り込めば、時逆の呪いもを吹き飛ばせる、と?」
『可能性はあるが、止めておいた方が懸命であろう。更に厄介な呪いにかかることになりかねん』
今回は、地蔵菩薩によりほぼ浄化された状態で。害の少ないエネルギー体だけであったので、影響が少なかっただけのようだ。
やはり、そう上手くはいかないか。
‡*‡*‡
深海魚であるリュウグウノツカイやサケガシラなどが日本の人魚伝説の元ではないか、という説がある。
1805年5月、越中國富山領放生津四方浜に現れたという3丈5尺……10.5mの人魚の記述がそれに近いという。
人魚が出現するのは海の荒れた時で。体長は、人身大から10m。頭髪は長く赤くて、体色は白い。
リュウグウノツカイが漂着したという記録は、全国的にある。
打ち上げられ干乾びた姿が老婆に似ていたため供養されたという記述も見られる。
江戸時代に毛利梅園が描いた『梅園魚譜』には、表紙に人魚の絵が描かれているが、これは人魚のミイラを元に描かれたものだろう。
『北方文学』第二号にはR・H生という匿名の人物の投書した人魚の物語が載っている。
潟町に伝わる人魚塚の伝説である。
昔、佐渡の女と越後の男が恋し合い。男の住んでいる潟町の磯明神の常夜燈を目標に、女は四十五里の波を、盥を手で漕いで通っていた。
女は、鶏が鳴くと帰っていく。そうして毎夜、男の許へ通い続けた。
男は初めの内は健気な女を嬉しく思っていたが次第に女の執念が怖ろしくなり、嫌うようになった。女の情が高まるにつれ、男の心は離れ、女の手から逃れようとした。
男はある夜の真夜中、佐渡の女が沖へ出た頃を見計らい、磯明神の常夜燈の灯をこっそりと吹き消した。この夜は星も無く、海は荒れていた。唯一の標的であった常夜燈が消え、女は波間に消えた。
翌朝、前日の波の荒れようが嘘のように凪ぎ、空は晴れ上がった。
そして女の死骸が磯明神の傍の砂の上に打ちあげられていた。死体の下腹には人魚のように細かな美しい赤と銀の鱗が生えていて、美しい顔はうらめし気に真珠の歯を食い縛り、長い緑の髪は藻のように乱れていた。
磯明神の人魚塚は、この哀れな佐渡の乙女の屍体を埋めた、という話だ。
男女逆で、人魚も出ないが。
ローマの詩人オウィディウスの書簡詩集、『名婦の書簡』の『ヘーローとレアンダーの相聞歌』の内容とそっくりである。おそらく元ネタだろうと思われる。
紀元前43年~紀元後18年頃の話なので、シルクロード経由で日本に伝わったものと考えられる。
この話の死骸が、打ち上げられたリュウグウノツカイに似ているという説がある。
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる
すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。
第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」
一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。
2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。
第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」
獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。
第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」
幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。
だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。
獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。
発情薬
寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。
製薬会社で開発された、通称『発情薬』。
業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。
社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる