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case4:蛇魅の社

リュウグウノツカイと人魚

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客人神まろうどがみの島事件を解決したが。

水子と水蛭子ヒルコが合体し、邪神化したものの一分を取り込んだ僕は、12、3歳ほどの姿から15、6歳くらいの姿になった。
おそらく莫大なエネルギーを取り込んだことにより、時逆の呪いを押し返したのだと思われる。

僕以上に吸収した善哉は、半分は妖魔だが、半分は人間の身体である。

どのような影響が現れるかわからないので。
一旦、事務所に戻ることにしたのだった。


‡*‡*‡


『おお、これは美しい』
事務所に帰るなり、我が事務所の守り神となった蛇神が出迎えた。

の島は縄張り争いが面倒ゆえ、分身を飛ばせなかったが。どうなったのだ?』


ああ。
あそこ、150もあるからな、神社。神様にも、縄張り争いとかあるのか……。

夜叉丸に、事件をレポートにしたものを渡した。
は別のものに取り込まれ、自我を失っていた。辛うじて、紀伊の国、という言葉が浮かんだ、と記してある。


『……ふむ、坊主の集まる山があるところか。麓の寺に、人魚の剥製があるようだな』

夜叉丸は、いつの間にかパソコンで検索することを覚えていた。
華麗なブラインドタッチで。

そういえば、拾った結婚情報誌とか読んでたな。
新し物好きなのか。蛇神。


しかし。また人魚か。
不老不死と人魚伝説は確かに縁が深そうであるが。

夜叉丸は、どれどれ、と僕と善哉を視ている。


『嫁の見立て通り、あれの力で多少、呪いを押し返したと見える。しかし、吹き飛ばすまでには至らぬようだ』
善哉も、特に問題はないだろうとのこと。

ほっとしたが。
あんなものを取り込んでも、影響が出ないとは。善哉はどれだけ強い妖魔をその身に宿しているのか。


「では、より大きな呪いを取り込めば、時逆の呪いもを吹き飛ばせる、と?」
『可能性はあるが、止めておいた方が懸命であろう。更に厄介な呪いにかかることになりかねん』

今回は、地蔵菩薩によりほぼ浄化された状態で。害の少ないエネルギー体だけであったので、影響が少なかっただけのようだ。

やはり、そう上手くはいかないか。


‡*‡*‡


深海魚であるリュウグウノツカイやサケガシラなどが日本の人魚伝説の元ではないか、という説がある。

1805年5月、越中國富山領放生津四方浜に現れたという3丈5尺……10.5mの人魚の記述がそれに近いという。
人魚が出現するのは海の荒れた時で。体長は、人身大から10m。頭髪は長く赤くて、体色は白い。

リュウグウノツカイが漂着したという記録は、全国的にある。
打ち上げられ干乾びた姿が老婆に似ていたため供養されたという記述も見られる。

江戸時代に毛利梅園が描いた『梅園魚譜』には、表紙に人魚の絵が描かれているが、これは人魚のミイラを元に描かれたものだろう。


『北方文学』第二号にはR・H生という匿名の人物の投書した人魚の物語が載っている。
潟町に伝わる人魚塚の伝説である。

昔、佐渡の女と越後の男が恋し合い。男の住んでいる潟町の磯明神の常夜燈を目標に、女は四十五里の波を、盥を手で漕いで通っていた。
女は、鶏が鳴くと帰っていく。そうして毎夜、男の許へ通い続けた。

男は初めの内は健気な女を嬉しく思っていたが次第に女の執念が怖ろしくなり、嫌うようになった。女の情が高まるにつれ、男の心は離れ、女の手から逃れようとした。

男はある夜の真夜中、佐渡の女が沖へ出た頃を見計らい、磯明神の常夜燈の灯をこっそりと吹き消した。この夜は星も無く、海は荒れていた。唯一の標的であった常夜燈が消え、女は波間に消えた。

翌朝、前日の波の荒れようが嘘のように凪ぎ、空は晴れ上がった。
そして女の死骸が磯明神の傍の砂の上に打ちあげられていた。死体の下腹には人魚のように細かな美しい赤と銀の鱗が生えていて、美しい顔はうらめし気に真珠の歯を食い縛り、長い緑の髪は藻のように乱れていた。
磯明神の人魚塚は、この哀れな佐渡の乙女の屍体を埋めた、という話だ。

男女逆で、人魚も出ないが。
ローマの詩人オウィディウスの書簡詩集、『名婦の書簡』の『ヘーローとレアンダーの相聞歌』の内容とそっくりである。おそらく元ネタだろうと思われる。
紀元前43年~紀元後18年頃の話なので、シルクロード経由で日本に伝わったものと考えられる。

この話の死骸が、打ち上げられたリュウグウノツカイに似ているという説がある。
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