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case3:客人神の島
神気顕現、地蔵菩薩
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1844年に越後に出現した”海彦”を記述した瓦版に描かれたアマビコは、頭から3本の足が生えた胴体のない形状で、人間のような耳をし、目は丸く口が突出している。
その年中に日本人口の7割の死滅を予言し、その像の絵札による救済を忠告している。
おそらくこれがアマビエの元ネタだろう。
猿みたいな顔で、足が何本もあるすごい絵だった。地味に腹筋を破壊してくる。
山童という妖怪も、このアマビコに類似した特徴をもっている。
西洋では海の生物には予知能力があるとされ、海から半人半魚のものが現れて予言を告げる伝承も珍しくない。
地震などの前兆で、深海から色々打ち上げられたりするからだろうか? リュウグウノツカイとか。
アマビエは肥後国の妖怪だが。
何故ここに像が置かれているのだろう。人魚伝説があるからか?
しかし、アマビエを人魚の一種とする見方もあるが。
妖怪というよりは神に近い存在とも言われているようだ。謎だ。
‡*‡*‡
アマビエや人魚に思いを馳せている間に、目的地付近に到着していた。
車を降り、少し歩く。
「見えました。あれが恵比須橋のようです」
視線を向けようとして。
ぞわり、と肌が粟立った。
居る、いや、……在る。
意識をしなければ、気付かなかっただろう。
その存在を知らなければ。
だが、もうそれを知ってしまった。関わってしまった。
故に。
目をつけられた。
「クシティガルバ。……地蔵菩薩だ!」
「はい!」
「憑坐に神威集い賜え、神心の分身寄り降り賜え」
「我が身に神威集い賜え、神心の分身振り降り賜え」
「オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ」
二人同じタイミングで唱え、印を結び。
義哉の身体に、神気を集める。
「神気顕現、地蔵菩薩!」
クシティは大地、ガルバは胎内・子宮の意味である。
意訳して地蔵としている。
釈迦の入滅後、56億7000万年後に弥勒菩薩が出現するまで、現世に仏が不在となるその間、六道すべての世界(地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人道・天道)に現れ衆生を救う菩薩であるとされる。
日本においては道祖神としての性格を持つと共に、小児の成長を守り、夭折した時はその死後を救い取ると信じられ、水子供養には必ず地蔵が建てられている。
その、慈愛に満ちた御姿。地蔵菩薩……降り賜うた。
‡*‡*‡
地蔵菩薩は、腐肉の寄せ集まりだったようなそれを、掬い取るように手のひらに乗せた。
それはたちまち、赤子のような姿になっていく。
このまま浄化され、転生するのだろう。
しかし。
突然、偉大なる地蔵菩薩の姿が消えた。
「義哉、何故、勝手に顕現を解いた!?」
義哉が、その手に赤子を持っている。
赤子に近いが、決してそうではないモノを。
義哉の額に、汗が滲んでいる。
義哉は、あれを吸収しているのだ。
地蔵菩薩の力により、だいぶ浄化していたとはいえ。危険すぎる。
何故、そんなことを。
「……浄化してしまったら。手がかりが、消えてしまう、でしょう?」
義哉。
思わず、善哉を抱き締め。手の中のそれを、半分引き受ける。
「僕にも、それを、寄越せ……!」
一人より、二人でなら。少しは楽になるはずだ。
‡*‡*‡
紀伊国。
と、頭の片隅に浮かんだ。
「……翼様……?」
義哉が、怪訝そうな顔で僕を見ている。
「どうした? 義哉。身体に異変はないか?」
「え、ええ。わたしは、何もございません」
なら良い。
立ち上がろうとして、気付く。
どうしたことだ。服がきつくて、動きにくいのだ。太ったか?
いや、そんな急激に太るだろうか。
だが。今にも服のボタンがはちきれそうだ。
「とりあえず、車に戻りましょう」
「……?」
何か、違和感を覚えたが。
車に向かって。
リアウインドウに映った自分の姿を見て、驚いた。
「何だこれは!?」
僕の姿が、15、6歳くらいにまで成長していたのだ。
いや、少しだけ、元に戻ったのか?
外見が小学生から、中高生くらいになっていた。
吸収したエネルギーが、あまりにも膨大すぎたものだったためか。
少しだけ、時逆の呪いを退けたのかもしれない。
その年中に日本人口の7割の死滅を予言し、その像の絵札による救済を忠告している。
おそらくこれがアマビエの元ネタだろう。
猿みたいな顔で、足が何本もあるすごい絵だった。地味に腹筋を破壊してくる。
山童という妖怪も、このアマビコに類似した特徴をもっている。
西洋では海の生物には予知能力があるとされ、海から半人半魚のものが現れて予言を告げる伝承も珍しくない。
地震などの前兆で、深海から色々打ち上げられたりするからだろうか? リュウグウノツカイとか。
アマビエは肥後国の妖怪だが。
何故ここに像が置かれているのだろう。人魚伝説があるからか?
しかし、アマビエを人魚の一種とする見方もあるが。
妖怪というよりは神に近い存在とも言われているようだ。謎だ。
‡*‡*‡
アマビエや人魚に思いを馳せている間に、目的地付近に到着していた。
車を降り、少し歩く。
「見えました。あれが恵比須橋のようです」
視線を向けようとして。
ぞわり、と肌が粟立った。
居る、いや、……在る。
意識をしなければ、気付かなかっただろう。
その存在を知らなければ。
だが、もうそれを知ってしまった。関わってしまった。
故に。
目をつけられた。
「クシティガルバ。……地蔵菩薩だ!」
「はい!」
「憑坐に神威集い賜え、神心の分身寄り降り賜え」
「我が身に神威集い賜え、神心の分身振り降り賜え」
「オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ」
二人同じタイミングで唱え、印を結び。
義哉の身体に、神気を集める。
「神気顕現、地蔵菩薩!」
クシティは大地、ガルバは胎内・子宮の意味である。
意訳して地蔵としている。
釈迦の入滅後、56億7000万年後に弥勒菩薩が出現するまで、現世に仏が不在となるその間、六道すべての世界(地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人道・天道)に現れ衆生を救う菩薩であるとされる。
日本においては道祖神としての性格を持つと共に、小児の成長を守り、夭折した時はその死後を救い取ると信じられ、水子供養には必ず地蔵が建てられている。
その、慈愛に満ちた御姿。地蔵菩薩……降り賜うた。
‡*‡*‡
地蔵菩薩は、腐肉の寄せ集まりだったようなそれを、掬い取るように手のひらに乗せた。
それはたちまち、赤子のような姿になっていく。
このまま浄化され、転生するのだろう。
しかし。
突然、偉大なる地蔵菩薩の姿が消えた。
「義哉、何故、勝手に顕現を解いた!?」
義哉が、その手に赤子を持っている。
赤子に近いが、決してそうではないモノを。
義哉の額に、汗が滲んでいる。
義哉は、あれを吸収しているのだ。
地蔵菩薩の力により、だいぶ浄化していたとはいえ。危険すぎる。
何故、そんなことを。
「……浄化してしまったら。手がかりが、消えてしまう、でしょう?」
義哉。
思わず、善哉を抱き締め。手の中のそれを、半分引き受ける。
「僕にも、それを、寄越せ……!」
一人より、二人でなら。少しは楽になるはずだ。
‡*‡*‡
紀伊国。
と、頭の片隅に浮かんだ。
「……翼様……?」
義哉が、怪訝そうな顔で僕を見ている。
「どうした? 義哉。身体に異変はないか?」
「え、ええ。わたしは、何もございません」
なら良い。
立ち上がろうとして、気付く。
どうしたことだ。服がきつくて、動きにくいのだ。太ったか?
いや、そんな急激に太るだろうか。
だが。今にも服のボタンがはちきれそうだ。
「とりあえず、車に戻りましょう」
「……?」
何か、違和感を覚えたが。
車に向かって。
リアウインドウに映った自分の姿を見て、驚いた。
「何だこれは!?」
僕の姿が、15、6歳くらいにまで成長していたのだ。
いや、少しだけ、元に戻ったのか?
外見が小学生から、中高生くらいになっていた。
吸収したエネルギーが、あまりにも膨大すぎたものだったためか。
少しだけ、時逆の呪いを退けたのかもしれない。
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