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case3:客人神の島

水の児に触れてはならぬ

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朝食はバイキングだった。
今はビュッフェというのか? そこで、今日の予定を伝える。

「恵比須橋、と呼ばれる場所に行ってみようと思う」

恵比須の名がつく橋。
魚がよく釣れる場所、という意味もあるが。

すなわちそれは、潮の流れの集まる場所でもある。
つまり、も多い。


おそらく、その近辺に、はいる。


‡*‡*‡


N県に、小海という地名がある。
888年ごろに八ヶ岳の爆発により千曲川がせき止められ、海ノ口から海尻にかけて大きな湖ができた。それが小海の由来である。
その地名が無ければ、過去に、海のような湖があったことなど誰も信じないだろう。

K県鎌倉の銅造阿弥陀如来坐像。
本来は大仏殿にあるべき大仏が、外にむき出しで鎮座している理由。
それは、1498年の明応地震による川津波で大仏殿が流され、現在の場所に流されたからである。高さ約13メートル、重さ121トンの大仏を押し流したのだ。

自然の力というものは、人間の予想をはるかに超える現象を引き起こすものだ。


F県O市の島にあった社を破壊し。その御神体をここ、S県O島まで流したのは台風の力である。
如何な恐るべき祟り神であろうと、自然には勝てないのかと感心する。


は、水蛭子であり、人魚であり、水子である。

生まれることができず、命を落とした”ヒトでないもの”。その集合体だ。
元々は大陸より、流されてきた水蛭子だったのだろう。

それがF県O市の島で御神体とされ、祀られることにより、神になった。
そして、周囲の供養されない水子を吸収し、大きくなっていったものと思われる。


水子というものは、自我が無い。何だろうが、手当たり次第まとわりついてくる。
知性も理性もないので、加減を知らない。
海に出れば、海中に人を引きずりこむ。
陸に出れば、相手が死ぬまでべっとりとまとわりつく。

決して同情してはいけない。
拝んではいけない。

関わったが最後、圧し潰されるまで取り憑かれてしまう。
それに理由はない。

そういうモノなのだ。

故に。
近寄れば祟る、と恐れられるようになった。


‡*‡*‡


「というわけなので。オスカーは来ないほうがいい」
「せやね……」

オスカーは、身勝手な嫉妬で人を呪い殺そうとした女にすら、同情していた。
産声を上げることなく死した憐れな存在である水子に対し、間違いなく、同情してしまうだろう。それは、命に関わる。

霊に対する優しさや同情も、時と場合によっては良いほうに流れることもあるのだが。
今回は、相性が悪すぎる。


「ほな、亜門さんや水城さんに渡すお土産でも見繕っときますわ。さざえカレーとかどないやろか」

「貝は好き好きあるからな。あご出汁味噌がいいんじゃないか? 美味しいし」
いや、観光旅行ではないというのに。


義哉の運転する車で、目的地へ向かった。

途中にはアマビエの像とかあるようだ。
アマビエは半人半魚の姿で海中から現れ、豊作や疫病などの予言をすると伝えられている妖怪だ。 

1846年4月の中旬頃、毎晩のように海中に光る物体が出現していたため、夜に町の役人が海へ赴いたところ、アマビエが現れたという。
その姿は人魚に似ているが、口はくちばし状で、首から下は鱗に覆われ、三本足だった。

役人に「海中に住むアマビエである」と名乗り、「この先6年間は豊作が続くが、もし疫病が流行することがあれば、私の姿を描いた絵を人々に早々に見せよ」と予言めいたことを告げ、海の中へと帰って行った。

この話は、当時の瓦版で人々に伝わり、アマビエの姿も瓦版に描かれて伝えられたというが。この絵がまた、小学生が描いたような絵で大変味わい深い。

しかし、この”アマビエ”という名称は、目撃記録が一つしかなく、名前の意味も不明であることから”アマビコ”という同種の妖怪の誤記ではないか、という説が有力である。

アマビコを記述した例は9件ほどあるが、いずれも海中からの出現、豊作や疫病の予言、その姿を描いた絵による除災、3本以上の足による直立、という外見が共通しているので、同種であろうと考えられている。
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