禍祓師・天羽翼の事件簿 ~半妖のヤンデレ弟子は夜毎師匠に精を注ぐ～

case3：客人神の島

隠の気に包まれた島

さて。Ｓ県Ｏ郡にあるＯ島であるが。

まず思い浮かぶのは、多くの貴人が島流しされた島、だろう。
承久の乱で隠岐国に配流された後鳥羽上皇が、”我こそは新島守にひじまもりよ隠岐おきの海の荒き波風なみかぜ心して吹け”、と怒りに満ちた句を詠んだことで有名である。


ぶっちゃけ僻地な上、島の人口や規模を考えれば、多すぎるほどの神社がある。
大小あわせ、現在でも150の神社があるのだ。文化財に指定されたものも少なくない。

それには、昔は良質な黒曜石が産出されていたことや、新羅などからよく舟が流れて来ていたため、砦として重要視され、国防として置かれた、という説が在る。
貴人が多く流されているのも関係がありそうである。


更に、紀元前5000年頃、縄文早期前期の遺跡もあり、約200基の古墳が存在するのだ。

日本で唯一現存する駅鈴……日本の古代律令時代に官吏の公務出張の際に朝廷より支給された鈴が保管、展示されていることもある。
歴史マニアであれば垂涎の地だろう。


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もちろん、神社好きにもたまらない。
面白いことに、現存する最古の神社名簿”延喜式”の中で最高位の名神大社に位置付けられていた宇受賀命神社うずかみことじんじゃなど、はるか昔は崖の上にあり、ご・祭・神・が・自・ら・海を渡ってくる敵から島を守っていたという逸話がある。

肝心なそのご祭神だが、その由来や歴史は、戦火で消失していて不明なのであるが。
現在は五穀豊穣、海上安全、安産のご利益があるとして、祀られている。

そのような神社が多く存在するのだ。


Ｏ郡Ｎ島の焼火神社たくひじんじゃなどは昔、山自体がご祭神であったという。

焼火山を15分ほどトレッキングして上がった先にあるが。残念ながら海風でぼろぼろだ。
腐生植物である銀竜草ギンリョウソウなどが生えていて、空気は澄み、自然は豊かだった。

同じくＯ郡Ｎ島の一之宮、由良比女神社ゆらひめじんじゃもなかなか面白い。ご朱印に、かわいいイカが捺されているのだ。何故イカなのかというと。
由良比女命が出雲大社へ出かけ、芋桶に乗り島へ帰る際、海に浸した手をイカが噛み付いて悪戯をしたため、その詫びとして毎年神社の前に広がる由良の浜にイカの大群がやってくるようになった、という由来があるためだ。


Ｏ郡Ｏ島の玉若酢命神社たまわかすみことじんじゃの社伝によると、景行天皇が皇子を各国に分置し、隠岐国に遣わされた大酢別命おおすわけのみことの御子が玉若酢命であると伝えられている。

玉若酢命は、この島の開拓にかかわる神と考えられているそうだが。
詳しくは戦火で消失し、不明である。

八百比丘尼が植えたという八百杉があるのも、この神社だ。


玉若酢命神社の前の国道をずっと行った先にある、水若酢神社みずわかすじんじゃなどもご祭神である、水若酢命みずわかすのみことどころか、配祀神の中言命なかごとのみこと・鈴御前すずのごぜんの由来もまた戦火で消失し、不明だという。

名の由来も明らかでないが。一の宮であり、国指定重要文化財である。
玉若酢に似ているため、関連性があるのではないかと思われる。


Ｏ島には他に、屋那の松原がある。
八百比丘尼が一晩で植えた松の一部と伝えられている。400mの海岸沿いに、200本余りの老松が茂っている。


一晩で何かやる系は、宮崎の一晩で鬼が積み上げた階段とか、鬼沢…鬼が一晩で水路を作ってくれたとか。大工と鬼六とか。
わりと鬼がやるケースが多いものだが。こちらは八百比丘尼か。


伝説の人物には、人では成し得ない、超人的な力を持たせたがるものなのだ。


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「この、海苔田の鼻、とか崎山鼻、とか。何で鼻なん？」
オスカーが地図を見て悩んでいる。

「そういえば、猊鼻渓げいびけいも鼻だな……」
義哉は首を傾げた。

「ゲ、ゲイビ……？」
猊鼻渓は、岩手県にある景勝だ。変な風に言うんじゃない、オスカー。


「侵食された鍾乳石が獅子の鼻に似ていることからだ。猊とは獅子のこと」
岸壁を鼻にたとえることは、わりと多い。

人間はすぐ山を人や仏にたとえたり、岩や木を顔に見立てたり。何でも身近なものにカテゴライズしたがるものだ。リンガなどもそうだが。