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第一章
そして姫は──になり
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「本当にどんな姿にでもなれたのね」
「召喚者様の願いを叶える‥それが俺の仕事さ」
青白い月明かりが部屋に差し込み二人を照らす。男はヘラヘラしながらナディアに近づいてくるが‥‥彼女は男にその場にいるよう命じた。
「‥‥?理想の王子様なんだよね?俺」
「ええ、そうよ。"昔"のね」
「昔ぃ~?おいおい。昔の初恋相手の姿にさせられたなんて、初めてだ」
「悪いけど、知らない殿方を隣に座らせるのは淑女じゃないの」
男は軽く頷いてから──ナディアに近づく。少女は何度も止まるように命令するが「聞こえなーい」と少女を馬鹿にしてベットの前で足を止める。
ギシリ‥‥。男が少女の座っているベットに体を乗せてくる。フワリと香る甘酸っぱい香りに少女の思考は停止する。少女の耳元で男は囁く
「さて‥‥話をしようか召喚者様。」
少女はコクリと静かにうなづいた。
◇
透明なレースの向こう側には二人の男女がいる。片方は美しい相貌をした男。片方は身内に呪いをかけられた少女だ。男は少女の頬に触れる。ナディアは体をピクリと動かす。ほのかに暖かい手のひらに触れられただけで少女の心はドロドロに溶けてゆく。
「君は俺に何をして欲しい?」
「‥‥救って欲しい」
「救うていうのは具体的に?この腐った家から逃げたい‥て事?」
「ち、違うわ。ええ違う。私は‥愛が欲しいの」
「愛?」
「ええ‥ええ!!そう愛して欲しいの!!」
少女は頬に触れている男の手を強く握り返す。長い爪が男の指を傷つける。白い指から赤い鮮血が滲み出す。先程まで震えていた少女は興奮しながら自分が想像していた"救い"を話し始める。
「私は愛されたいの。それはもう花を愛でるように!!。ちゃんと「ナディア」て名前も呼んで欲しいわ。あ、だからってお父様やお母様、使用人達は許さないわ。みんな私からの愛あるお仕置きを受けて罪を精算してから‥私は愛を貰うの!!」
「ふむ。つまり‥君の考える救済てのは。逃げるではなく、現状変化て事でいい?」
「そう。そうよ。あ、でも。お兄様には"苦しんで貰うわ"」
「ほう?」
星のように輝いていた瞳から光が消える。力強く握っていた手も力無くベットに落ちた。
「お兄様は君に何か悪い事をしたのかい?」
「ええ。そう。お兄様は私を苦しめた男よ。3歳の頃いきなり才能が開花して、まるで人が変わったように優しくなりだして、聞いた事ない言葉や知識を使って私から愛を奪い去った人!!」
「でも、お兄様の事は?」
「好きよ!!愛してる!!だから、だから苦しんで欲しいの!!」
「へー‥君。壊れてたのか」
少女は壊れていた。憎しみは愛憎に、悲しみは悲愛に、呪いは呪愛《じゅあい》に他人から注がれる暴力すら愛と受け取っていた。けれど、セオドアだけは違う。純粋に彼は自分を愛してくれていた。才能がない自分を、不気味になった自分を──壊れた私を。
「お兄様に才能が発現してから、皆んなお兄様ばかり構うようになったわ。最初はそれが苦しくて、悲しくて‥でもね。あの日。お兄様に何百通もお手紙を出したの。助けて、苦しい‥て。でもお返事は返って来なかった。それで気づいたの!!《あぁこれは‥"嫉妬"なんだって》!!」
少女の瞳に光が戻る。"狂気"すら感じる輝きは見ているものの正気を削るだろう。常人ならば。目の前の男は優しい笑みを浮かべなら壊れた玩具のように喋り続ける少女を眺めている。
「あ。私たらなんてはしたない‥」
「うん?。何処が?。愛されたいと思うのは別に悪いことじゃない。愛がどんなに歪だろうとね。」
男は淡々と語る。少女は頬を染め俯く。どうやら自分の愛を理解して貰えて嬉しいようだ。男は俯いた少女の顎に触れ自分の顔を視界に入れさせる。
「じゃあ、最後の質問。"君の好きな花は?"」
「‥‥?薔薇よ、綺麗な青い薔薇。」
「ほーう‥。中々いいチョイスだ」
男は少女から手を離す。ナディアは不思議そうに男を見つめる。その姿はまるで御伽噺に出てくる王子に"恋"をした娘のようだ。
「あ、あの‥もしよか「では、契約完了。君の願い聞き届けた」
「え?あ、何、ナニナニ?!」
突然少女は頭を抱えその場にうずくまる。少女からプチプチと何かが切れる音が聞こえ始める。肌にまるで"荊"のような模様が出現し始める。
「さあ、喜べ!!召喚者!!君は世界一美しい"薔薇"になって皆んなから愛される!!!」
「嫌、ごん"な"の"い"やぁぁぁぁぁぁ!!!!」
少女の叫び声が部屋に響く。使用人達は「また悪夢を見たのか‥」と呆れながら扉に手をかけてソレを視界に焼き付けた。
少女の体を媒体にし真っ白な荊が部屋を覆っていた。荊は扉を開けた使用人達を飲み込み、屋敷に広がっていく。また一人、また一人と荊に捕まる。捕まった者は体に無数の棘が突き刺さり絶命する。白い荊はどんどん、真っ赤に染まる。荊に絡まれた器達の体からも白い荊が現れる。それは少女の荊と混ざり大きくなっていく。
静かに静かにそれは広がりそして‥‥‥‥一本の薔薇の茎になった。
屋敷を突き破った荊で出来た茎の一番上には蕾が付いている。美しい青い蕾が月に照らされている。
「綺麗だよ、召喚者様」
男は壊れた屋根の残骸に腰を下ろし巨大な薔薇を見上げていた
「召喚者様の願いを叶える‥それが俺の仕事さ」
青白い月明かりが部屋に差し込み二人を照らす。男はヘラヘラしながらナディアに近づいてくるが‥‥彼女は男にその場にいるよう命じた。
「‥‥?理想の王子様なんだよね?俺」
「ええ、そうよ。"昔"のね」
「昔ぃ~?おいおい。昔の初恋相手の姿にさせられたなんて、初めてだ」
「悪いけど、知らない殿方を隣に座らせるのは淑女じゃないの」
男は軽く頷いてから──ナディアに近づく。少女は何度も止まるように命令するが「聞こえなーい」と少女を馬鹿にしてベットの前で足を止める。
ギシリ‥‥。男が少女の座っているベットに体を乗せてくる。フワリと香る甘酸っぱい香りに少女の思考は停止する。少女の耳元で男は囁く
「さて‥‥話をしようか召喚者様。」
少女はコクリと静かにうなづいた。
◇
透明なレースの向こう側には二人の男女がいる。片方は美しい相貌をした男。片方は身内に呪いをかけられた少女だ。男は少女の頬に触れる。ナディアは体をピクリと動かす。ほのかに暖かい手のひらに触れられただけで少女の心はドロドロに溶けてゆく。
「君は俺に何をして欲しい?」
「‥‥救って欲しい」
「救うていうのは具体的に?この腐った家から逃げたい‥て事?」
「ち、違うわ。ええ違う。私は‥愛が欲しいの」
「愛?」
「ええ‥ええ!!そう愛して欲しいの!!」
少女は頬に触れている男の手を強く握り返す。長い爪が男の指を傷つける。白い指から赤い鮮血が滲み出す。先程まで震えていた少女は興奮しながら自分が想像していた"救い"を話し始める。
「私は愛されたいの。それはもう花を愛でるように!!。ちゃんと「ナディア」て名前も呼んで欲しいわ。あ、だからってお父様やお母様、使用人達は許さないわ。みんな私からの愛あるお仕置きを受けて罪を精算してから‥私は愛を貰うの!!」
「ふむ。つまり‥君の考える救済てのは。逃げるではなく、現状変化て事でいい?」
「そう。そうよ。あ、でも。お兄様には"苦しんで貰うわ"」
「ほう?」
星のように輝いていた瞳から光が消える。力強く握っていた手も力無くベットに落ちた。
「お兄様は君に何か悪い事をしたのかい?」
「ええ。そう。お兄様は私を苦しめた男よ。3歳の頃いきなり才能が開花して、まるで人が変わったように優しくなりだして、聞いた事ない言葉や知識を使って私から愛を奪い去った人!!」
「でも、お兄様の事は?」
「好きよ!!愛してる!!だから、だから苦しんで欲しいの!!」
「へー‥君。壊れてたのか」
少女は壊れていた。憎しみは愛憎に、悲しみは悲愛に、呪いは呪愛《じゅあい》に他人から注がれる暴力すら愛と受け取っていた。けれど、セオドアだけは違う。純粋に彼は自分を愛してくれていた。才能がない自分を、不気味になった自分を──壊れた私を。
「お兄様に才能が発現してから、皆んなお兄様ばかり構うようになったわ。最初はそれが苦しくて、悲しくて‥でもね。あの日。お兄様に何百通もお手紙を出したの。助けて、苦しい‥て。でもお返事は返って来なかった。それで気づいたの!!《あぁこれは‥"嫉妬"なんだって》!!」
少女の瞳に光が戻る。"狂気"すら感じる輝きは見ているものの正気を削るだろう。常人ならば。目の前の男は優しい笑みを浮かべなら壊れた玩具のように喋り続ける少女を眺めている。
「あ。私たらなんてはしたない‥」
「うん?。何処が?。愛されたいと思うのは別に悪いことじゃない。愛がどんなに歪だろうとね。」
男は淡々と語る。少女は頬を染め俯く。どうやら自分の愛を理解して貰えて嬉しいようだ。男は俯いた少女の顎に触れ自分の顔を視界に入れさせる。
「じゃあ、最後の質問。"君の好きな花は?"」
「‥‥?薔薇よ、綺麗な青い薔薇。」
「ほーう‥。中々いいチョイスだ」
男は少女から手を離す。ナディアは不思議そうに男を見つめる。その姿はまるで御伽噺に出てくる王子に"恋"をした娘のようだ。
「あ、あの‥もしよか「では、契約完了。君の願い聞き届けた」
「え?あ、何、ナニナニ?!」
突然少女は頭を抱えその場にうずくまる。少女からプチプチと何かが切れる音が聞こえ始める。肌にまるで"荊"のような模様が出現し始める。
「さあ、喜べ!!召喚者!!君は世界一美しい"薔薇"になって皆んなから愛される!!!」
「嫌、ごん"な"の"い"やぁぁぁぁぁぁ!!!!」
少女の叫び声が部屋に響く。使用人達は「また悪夢を見たのか‥」と呆れながら扉に手をかけてソレを視界に焼き付けた。
少女の体を媒体にし真っ白な荊が部屋を覆っていた。荊は扉を開けた使用人達を飲み込み、屋敷に広がっていく。また一人、また一人と荊に捕まる。捕まった者は体に無数の棘が突き刺さり絶命する。白い荊はどんどん、真っ赤に染まる。荊に絡まれた器達の体からも白い荊が現れる。それは少女の荊と混ざり大きくなっていく。
静かに静かにそれは広がりそして‥‥‥‥一本の薔薇の茎になった。
屋敷を突き破った荊で出来た茎の一番上には蕾が付いている。美しい青い蕾が月に照らされている。
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