上 下
3 / 6
第一章

理想の救世主様

しおりを挟む
 ナディアは魔本を開き異世界招来の呪文を唱える。異世界招来は、女神に選定されている候補を人の手で呼び寄せる魔術だ。本来ならば、聖具と呼ばれる道具と何百人の魔術師達が力を合わせて行う大規模魔術だが

 ───ナディアはそれを一人で行おうとしている。

 聖具もなければ魔力も一般レベル。そんな彼女が召喚なんて出来る筈がない。ない筈なのだ。しかし、呪文を唱え始めた彼女の頭上には、真っ赤な魔法陣が描かれている。複雑に作られた陣は時計のような秒針のような音を立てながらナディアの願いに答える存在を探す。

 『お願い、お願いします。神様。私を‥救ってくれる。私だけの救世主様を下さい!!』

 呪文を唱えながら彼女は願う。セオドアがアカデミーに戻れば、また地獄の日々に戻ってしまう。‥‥ナディアは先程の優しい時間で"感情"が戻してしまった。
 あの日、殺したい程憎んでいた存在になった兄。セオドアが帰ってくる事を知り彼女は屋敷の外に出て門前で彼の帰りを待っていた。出会ったら日傘にかかっている呪いで呪殺しようとすら考えていたナディアを彼は─救ってしまった。

 名前を読んで貰えたから?

 自分の憧れだったから?

 優しくして貰ったから?

 ‥‥‥愛してくれたから?

 いくら考えようが、答えは少女にしか分からない。けれど、氷のように冷たい目に光が宿った。周りのゆう通り動く人形に感情が芽生えた。そして‥救いを求めさせた。これだけで、十分だろう。


 ボーン‥ボーン‥

 ナディアの部屋に古い振り子時計のような音が響く。魔本は彼女の目の前でどんどん燃えていく。───見つかったのだ、彼女が望む《救世主》が

 「う‥そ‥」

 震える手で口を押させ、歓喜に打ち震える。ようやく、ようやく、この地獄から抜け出せる!!。今の彼女の頭にはそれしか浮かばない。

 

 

 ────────魔法陣から黒い液体が落ちてくる。


 ドロドロした"ソレ"は音を立てずに部屋の絨毯を黒く染め上げ、床をどんどん侵食していく。

 「な、なにこれ‥?」

 確かに"私"は救世主を呼んだ筈‥!!。と少女は焦り出す。魔法陣からは止めどなく黒い液体が溢れ出てくる。

 「い、いや。止まって、止まりなさい!!」

 震える声で魔法陣に命令するが‥止まらない。黒い液体が部屋を満たしていく、あともう少しで自分まで飲み込まれてしまう。そう思ったナディアは目を瞑る。

 ──トプン‥

 「‥‥‥え?」

 先程まで無音だった魔法陣から落ちた最後一滴の"音"を聞き彼女は目を開ける。真っ黒な液体は自分が座っているベットギリギリで止まっている。けれど、扉は逃げなれないように塞がれている。

 月明かりがナディアの部屋を照らす。妙にテカテカした液体が静かに揺蕩っている。ナディアは震える手でその液体に触れようと‥‥


 「おいおい、いきなりボディタッチかい?」

 「きゃ!!!」

 液体から男の声が聞こえ、すぐに手を引っ込める。周りを見渡すが"誰もいない"。ふと視界を液体に向ける、そこには

 ─────無数の"私"がいた

 まるで鏡のように液体には怯える私達が写っている。しかし、それらは次の急に笑い出した。あるものは静かに、あるものは小馬鹿にしたように、あるものは大笑いをしたり、映る"私達"にはそれぞれ感情があるように感じる。

 「なに、なんなの?」

 「アハ!!その表情いいね~さいっこう~!!」

 「何?じゃねーだろうが。」

 「可哀想な私、まだ状況が掴めていないのね。可哀想‥」

 「そんな、私も‥可愛いわ!!」

 映る私は皆同じ姿で同じ声でベラベラベラと喋りだし。語りかけてくる。うるさい、うるさい。

 「うるさい!!!」

「「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」」

 私が液体に映る私に怒鳴ると皆それぞれ隣に映る自分達の顔を見てから私を凝視する‥‥‥そして



 「「「アッハハハハハハハハ!!!!」」」

 まるで、狂ったように笑いだす。笑い声は全て重なり、どんどん低くなっていく。何よこれ、何なのよ!!

 「何がそんなにおかしいの!!貴方達は誰なのよ!」

 「「「お前が呼んだ救世主様だよ!!!」」」

 「ヒッ!!」

 怖い、怖い、怖い、助けて、セオドアお兄様!!

 「そこまで」

 フィンガースナップ音が鳴ると同時に液体に映る私が一人、また一人‥と風船のように膨らみ肉片を撒き散らしながら"音もなく死んでいく"。全て死滅するとこんどは無数の真っ赤な目が現れて私を凝視する。

 「なに、なんなの。これ!!」

 「あー‥ごめん、ごめん。久しぶりに外に出られて、つい嬉しくてさ~怖がらせちゃったかな?」

 「あ、あんなの怖くない人なんていないわ!!」

 「え?そうなの?へー‥ただのお遊びだったのに。そんなに喜んで貰えるとは嬉しいよ。"召喚者様"」

 召喚者様‥?いまこの液体は私を召喚者様と言った?これが本当に私の救世主様‥なの?

 「本当に‥貴方私の救世主様‥なの?」

 「ん?ああ、失礼。この姿では疑うよね」

 液体の真ん中に渦が現れる。それはゆっくりとスピードを上げて50センチ程の丸い球体になった。その球体は小さな"音"を出しながら変化していく。動物だったり、物だったり、様々な姿になり‥最後はヒト型の黒いマネキンのような姿に落ち着いた。

 「さて!召喚者様!!ここからは君が俺を"デザイン"するんだ」

 「デザイン‥?」

 「そう!!俺は君が望む理想の姿になれるんだ。さぁ、想像してごらん?君が望む理想の王子やお姫様を」

 理想‥。理想の王子様?お姫様?。‥‥お兄様は違うわね。おか‥いいえ。絶対にあり得ない。理想‥理想‥あ

 「それでいいのかい?」

 「え?ええ。お願い‥」

 黒い液体がどんどん下に下に沈んでいく。そこにいたのは私が想像した王子様の姿だった。

 真っ黒な黒い髪。髪型はツートンブロックアシメ。肌は陶器のように白い肌。林檎のように赤い瞳と妖艶さを感じるさせる目つき。細身でありながらゴツゴツとした色気ある体。それは、薔薇姫に出てくる姫を騙した悪魔と瓜二つの男がそこにいた。

 「成る程、これが君の理想の王子様?」

 「‥きっとね」

 「へー‥まあ、それはいいんだけさ。服を想像してくれるか貸してくれないと下の泥落とせないんだけど?」

 「え?ああ‥服は貴方が好きなの着ればいいわ」

 「えー‥そういうの全然知らないから困るんだけど。ああ、いやまてよ」

 そう言って彼は、再度体を泥で包み何やら思い出しているようだ。‥‥最初は怖かったけど案外いい人?なのかしら?

 「出来た。ではごかいちょーう」

 泥が一気に地面に落ちる。と黒を基調した赤いファーのついたロングコートに身を包んだ男がヘラヘラしながらたっていた。

 
 

 

 



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

亡国の系譜と神の婚約者

仁藤欣太郎
ファンタジー
二十年前に起こった世界戦争の傷跡も癒え、世界はかつてない平和を享受していた。 最果ての島イールに暮らす漁師の息子ジャンは、外の世界への好奇心から幼馴染のニコラ、シェリーを巻き込んで自分探しの旅に出る。 ジャンは旅の中で多くの出会いを経て大人へと成長していく。そして渦巻く陰謀、社会の暗部、知られざる両親の過去……。彼は自らの意思と無関係に大きな運命に巻き込まれていく。 ☆本作は小説家になろう、マグネットでも公開しています。 ☆挿絵はみずきさん(ツイッター: @Mizuki_hana93)にお願いしています。 ☆ノベルアッププラスで最新の改稿版の投稿をはじめました。間違いの修正なども多かったので、気になる方はノベプラ版をご覧ください。こちらもプロの挿絵付き。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...