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プロローグ

不幸なお姫様

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 ナディアがこの本と出会ったのは一年前。
 
 父アルデンスの良き取引相手から、譲り受けた本はただの魔術教材本ではなかった。最初に気づいたのは、本を貰った日に人口魔素毒を飲んだ日。その日もいつものように痛みに苦しみ、兄に助けを叫びながら意識を失った。
 目を覚めた彼女の体は全身痺れており、あまり動けないが体が慣れてきたのか腕くらいなら動かせるようになった。

 『そうだ、あの教材本を読みましょう』

 そう思った彼女は隣に置いている本達の中から分厚い教材本を手探りで探す。

 『あった!!』

 重たい本を持ち上げた瞬間。"体の痛み"なくなる。

 「え?‥きゃ!!」

 痛みが消えた事に驚いていた、少女の手が感じたのは"熱"だ。驚いた彼女はベットに本を落としてしまう。本は紫の炎に包まれている。けれどベットは燃えていない。それどころから手に外傷はなかった。

 「なに?なんなの‥」

 紫の炎が消えた本は全くの別物になっていた。動物の皮で作られた不気味な表紙。そして魔素毒の解毒。

 きっとこれは読んではいけない──脳が警報アラームを鳴らし始める。体から汗が噴き出す。それなのに腕は本のページをめくろうとしているのだ。

 「いや‥。お願い。止まって。いや‥!言うことを聞いて!!」

 少女の体はまるで糸が付けられたマリオネットのように本のページをペラペラと巡り始める。手の次は目が勝ってに動き始める。瞼すら思い通りに動かせない。

 「────!!」

 『声が出ない!!ああ‥いや。なにこれ。ナニコレ。ナニコレ。頭の、頭の中に知識が、嫌!!怖い!!たすけ、助けて‥!!セオドアお兄様!!!』

 

 視界から入る情報に脳が追いつけず体は硬直し、呼吸すら上手く出来ない。体温が一気に上昇した事により鼻から真っ赤な血が白いネグリジェを鮮血に染めていく。けれど、少女は笑みを浮かべながら本のページを"自分の意思で"めくっていく。

 『すごい!すごい!すごい!!この本の力を使えば私は《愛される!!!!》』




 皆から認められる為に立派な淑女を目指した。
 
 アカデミーから推薦状を貰う為に魔術の特訓をした。

 《才能》ある兄の足を引っ張らないように努力した。


 頑張って、頑張って、頑張って、努力しました。お父様、お母様、メイドの皆様、執事の皆様、そしてセオドアお兄様に認めて貰う為に私は頑張りました。

 ある日、お父様が言いました。

『お前には才能がない凡人だ、我が家に凡人がいるなんて知られれば恥だ。よって‥』

 私はアカデミーに行けなくなりました。死なない程度の毒を服毒して体の細胞を壊して、壊して、壊して、壊されてしまいました。家族の顔に泥を塗ってはいけない。もう私はお兄様と一緒に学ぶ事は出来ません。

 ある日、お母様が言いました。

 『まあ!!なんて醜いの?!。ナディア!!貴方はもう屋敷の外から出ないで頂戴!!。こんな醜い娘がいたなんて知られれば、世間様の評価が下がるわ!!』

 服毒し続けた私の体はボロボロでした。痩せこけた頬、魚のように飛び出した目、殆ど骨しかない体。私は醜い化け物だそうです。もう立派な淑女にはなれません。

 私を見るとメイド達が醜いと笑います。私が話かけると執事達は皆逃げてしまいます。お父様、お母様はあの日以来、私の名前を読んでくれません。

 鏡を見る度死にたくなります。薬を飲まないと生きられません。皆んなに笑われるのが怖い。悍ましい物見るような目が嫌。助けて、助けて、助けて、お兄様!!
 何度も、何度も、何度も‥お兄様にお手紙を出しました。けれど返事は返って来ません。

 ‥‥‥‥そもそも、私がこんな風になったのはお兄様のせいじゃないの?

 そうよ、そうよ、そうよ、そうよ、そうよ、そうだった!!。あいつが私より才能を持ったから、私は家の汚点になったんだ。ずるい、ずるい、ずるい、ずるい!!!許さない、絶対に許すものか!!

 「アハ‥」

 「アハハハハハハハハハハハハ‥!!!」


 ─────────私は狂ってしまいました。
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