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迷い猫のあったかお出汁
迷い猫のあったかお出汁-2
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銀次郎に助けられた時に、まずいまずい握り飯を食べさせられたことを思い出す。
銀次郎はむっとした顔をしていたが、「ふん」と大きく鼻を鳴らした。
「おい、お鈴」
急に呼びかけられて、「は、はい」と返事が裏返る。
「こいつに粥みたいなもん作ってやれ」
「あ、はい」
「それとな、葱は使うな」
「そうなんですか」
「猫に葱を食わすと身体を壊しちまう」
*
しと、しと、と雨音だけが店内に響く。
盆に料理を載せて戻ると、ぐったり横たわる猫を、銀次郎と弥七が見つめていた。
「おまたせしました」
「あら、いい匂い」
「なにが食べられるか分からないので、色々作ってみました。これは粥で、これは葛湯で」
身体を乗り出して銀次郎が覗き込む。
「食えねえもんはねえな。だが熱い。おい弥七、もう少し冷ましてやれ」
「わ、わかったわよ」
弥七は団扇を引っ張り出し、扇いで冷まし始めた。
「猫は熱いもんが食えねえ。舌を火傷しちまわあ」
「銀次郎さん、お詳しいんですね」
てきぱきした指示に感心する。
「ほんとよお。なあに、親分、実は猫が大好きなんじゃないの」
銀次郎は「ふん」とばつが悪そうに鼻を鳴らし、お鈴と弥七は顔を見合わせてくすくす笑ったのだった。
十分に冷ました粥を、猫の口元に置いてやる。
漂う香りに釣られたのか、猫は薄く目を開けた。鼻を動かし碗の匂いを嗅ぐ。そろりそろりと頭を動かし、赤い舌を出した。
ちろり。
舌で一舐め。
弥七が「食べた!」と嬉しそうな声を上げた。
その喜びもつかの間。猫は目を細め、碗から口を離してしまった。
「あああ、食べない」
「別のを出してやれ」
銀次郎に言われ、別の料理を出す。今度は葛湯だ。
猫は再び匂いを嗅いで、舌で一口舐めた。だが、後は見向きもしない。
「もう、なんで食べてくれないのかしら」
「飼い猫ってのはな、餌の捕り方を忘れちまう。そうしてその家で用意された飯しか食わなくなっちまう」
「じゃあなによ。よそん家の食い物は食べられないっていうの。もう、こんな時に贅沢なんだから」
「おい、お鈴、砂糖水を作ってやれ」
「は、はい」
言われるがままに砂糖を水に溶かしたものを作り、口元に持っていってやる。
すると。
ちろり。ちろり。
少しずつ、ゆっくりではあるが、砂糖水を舐め始めた。
「やった、舐めてるわよ、お鈴ちゃん」
「はい、よかったです」
一安心し、弥七と手を取り合う。しかし、「こいつは時間稼ぎにしかならねえ」という銀次郎の言葉に、どきりとした。
「砂糖水じゃあ力はつかねえ。こんだけ弱ってる身体を戻すには、きちんと食わさなきゃあいけねえ。だがな」
「その家の飯でないと、食べないんですか」
「うむ」と銀次郎は渋い顔で腕組みをした。
「それじゃあ、この猫の飼い主を見つければいいのね」
弥七が神妙に頷く。
「まかせて、あたしが必ず見つけ出してくるわ」
そう言って、弥七は竜巻のように雨の中を駆け出していった。
二
「弥七さん、帰ってきませんね」
猫を膝に乗せたまま、銀次郎は「ふん」と鼻を鳴らした。
「どっかほっつき歩いてるんだろうよ。そのうち帰ってくらあ」
雨の中に飛び出していった弥七だが、とうとうその日は帰ってこなかった。一夜が明け、相変わらず猫は弱ったままである。銀次郎が甲斐甲斐しく砂糖水をやって膝の上で温めているが、ぐったりと目をつむって弱い息をするばかり。
なんとか一日も早くよくなってほしい。そう願いながらお鈴もじっと見守った。
「おやじさんの手がかりは、何か分かったか」
猫に目をやったまま、銀次郎がぼそりと言った。
「いえ……なにも」
「そうか」
火鉢の炭が爆ぜて、ぱちりと音を立てた。
「料理屋や居酒屋の人に尋ねてはいるんですが、それらしき人は見つからずです」
町に買い物に出たついでに、料理と関わりがある店を見つけては話を聞かせてもらっている。しかし、おとっつあんの足取りはおろか何の手がかりも見つけられてはいなかった。
「どっかの店で働いてりゃあ耳に入るようになってるんだが、俺のところもまだだ」
「そうですか」
江戸の町に繋がりの深い銀次郎でも見つけられないとなると、おとっつあんはいったいどこにいるのだろう。本当に江戸にいるのだろうか。
「裏のほうも調べさせているが、そっちもまだだ」
「裏、ですか」
「裏稼業の奴らも料理人を抱えているからな」
まさか危ない場所に出入りしているのだろうか。危険な目に遭っていないだろうか。不安がどっと押し寄せてくる。
顔の翳りを察したのか、銀次郎が「万が一の話だ」と言った。
「あんまり大っぴらに動くと、おやじさんを捜してる奴らに勘づかれちまうからな。おめえも焦るんじゃねえぞ」
「はい」
話が途切れるとしんと静かになり、気まずさが生まれる。不器用な銀次郎の性格もよく分かっているのだが、こうして二人きりになると、まだ居心地の悪さを覚えることがあった。
銀次郎はむっつりとしたまま、膝上の猫の背中を撫でている。
「今日も、何も食べませんね」
「うむ」
再び粥などの食べ物を与えてみたものの、やはり口に入れようとはしなかった。
「早く飼い主さんが見つかればいいですね」
と言ったその時。
看板障子ががたんと開いた。
「おう、客かい」
「見つかったわよ」
嵐のように飛び込んできたのは、弥七だった。
「なんでえ、おめえか」とふてくされる銀次郎を無視して弥七が叫んだ。
「その子の飼い主が見つかったわよ」
*
昨日の雨はからりと晴れあがり、気持ちのいい青空が広がっている。しかし爽やかな頭上とは裏腹に、足元は水たまりが残っており道もぐずぐずしたままだ。
「ああもう、ちょっと歩いただけで泥だらけ。ああ、やだ。着物にも泥が跳ねちゃってるじゃない。ほんと、いやあねえ」
ぬかるむ地面に目をやりながら、弥七がふてくされる。
「弥七さん、よくすぐに見つけられましたね」
「そうなのよ、凄いでしょう。あの子弱ってたから、そんなに遠くから来たわけじゃないと思って、神社の近くで聞き込みをしていったのよ。そしたら大当たり。これから行く八五郎長屋ってとこに住んでる、お粂って人が面倒見てる猫じゃないかって」
「これであの猫が食べられるものがわかれば、きっとすぐに元気になりますね」
「そうね。でもねえ」
弥七は少し寂しそうに言った。
「あの子が元気になったら、飼い主のところに返さないといけないのよねえ」
八五郎長屋は、六軒ほどの住まいが並ぶちんまりとした長屋だった。大家が八五郎という人なので、八五郎長屋らしい。
「ここのね、木戸から二つ目に住んでるそうなのよ」
お粂の住まいらしき前に立ち、弥七は障子を叩いた。部屋はしんとして、何の物音もしない。「ちょいと、お粂さーん」と何度か呼び掛けても、静まり返ったままだ。
「留守なんでしょうか」
そうかもねえ、と言いながら、弥七は「ちょいとごめんよ」と障子を開けた。
と、そこに広がっていたのは、夜具や食器などの物一つないがらんとした部屋。
生活の匂いはなくて空気もぬるく、人が出入りしていない印象を受けた。
「え……これって」
「ちょっと、どうなってるのかしら」
二人で呆然としていると、隣の部屋の障子が開き、腰の曲がった老婆が顔を覗かせた。
「なんだい騒々しいねえ。あんた達何の用だい」
「あたし達お粂さんって人に用があってきたんだけど。なにこれ、引っ越しちゃったのかしら」
「ああ、そりゃあ残念だったねえ」
老婆は部屋の中にちらりと目をやった。
「お粂さんは死んだよ。先週のことさね」
*
お粂は八五郎長屋にひとりで住んでいたという。
年のころは六十前くらい。悪い人ではないのだが、人のやることなすこと口を出してきて、周りとも馴染みにくいところがあった。旦那は女を作って出ていってしまい、ひとり娘も別の長屋で暮らしているのだそうな。
ひとり暮らしの寂しさを紛らわすためか、いつからか迷い込んだ猫を飼うようになり、自分でこしらえた赤い紐を首につけたりもしてやったらしい。人嫌いなわりに、ずいぶん猫を可愛がっていたようで、夜な夜な話しかけている声が薄い壁越しに聞こえてきたという。
一週間ほど前のこと。いつまでたっても起きてこないお粂を心配して長屋の連中が見に行ったところ、夜具の中で冷たくなっていた。
前の日まで具合が悪そうにも見えなかったから、寝ている間にぽっくりいったのだろう。ひとり娘にも知らせてやったが、親とは縁を切っているとにべもなく返され、長屋の大家が葬ってやったのだとか。
「あの、本当に行くんですか」
「なに、お鈴ちゃん、心配なの」
「それはそうですよ。だって、さっきのお婆さんの話だと、娘さんは縁を切っているそうですし」
そう、お粂が亡くなったことを知った弥七は、なんと娘のところに行って猫が食べられるものを聞き出そうというのだ。
「だってもうそれしか手がかりがないじゃない。さっきのお婆さんも、お粂さんが猫に何を食べさせてたかなんて知らないって言ってたし」
「でも、娘さんは何年もお粂さんと会っていないようでしたよ」
「もしかしたら、子どもの時にも猫を飼ってたとか、何か分かるかもしれないじゃない。なんとかしてあげないと、あの子が死んじゃうのよ」
「それはそうですけど」
押しかけていいやら不安を覚えながら話しているうちに、娘が住んでいる長屋に着いてしまった。
八五郎長屋の老婆に教えてもらったところによると、娘の名はおミヨ。まだ結婚もせずひとりで住んでいるそうだ。
「ちょいとごめんよ」
弥七が戸を叩く。中から物音が聞こえて、障子が開いた。
「どちらさんです」
中から出てきたのは、小ざっぱりした着物の三十過ぎの女だった。身体つきは細く優しげな顔立ちをしているが、見知らぬ男女の姿に眉根を寄せている。
「突然すまないねえ。あんたがおミヨさんかい」
「ええ、そうだけど」
「ああ、よかった。あたしはさ、弥七っていうもんだけど。あ、こっちはお鈴ちゃんね。ちょいとあんたのおっかさんのお粂さんのことで訊きたいことがあってね」
そう言ったとたん。
おミヨはこちらを鋭く睨みつけた。
「もうあの人とは縁を切ってるんだ。話すことなんて何一つないよ」
そう言い放って、目の前でぴしゃりと戸を閉めたのだった。
三
「とまあ、そんなことになってるのよ。ねえ親分、どうしましょう」
困り果てた弥七とお鈴は、みと屋に戻ってきた。
泣きつく弥七に銀次郎は「ふん」と鼻を鳴らすが、心なしかいつもより声を抑えている。それもそのはず、火鉢の前で胡坐をかく銀次郎の膝元には、猫がぐったりと横たわっているのだ。二人が出かけていた間も、甲斐甲斐しく面倒を見ていたようだ。
「その娘から話は聞けそうにないのか」
「もうにべもないわよ。戸も開けてくれないんだもの」
「長屋の連中で手がかりはねえのか」
「隣に住んでた人にも訊いてみたわよう。でも、猫にやってた食べ物なんて誰も覚えちゃいないわよ」
「うむ」
腕組みをする銀次郎。
「あたし、猫が食べられそうなものをかたっぱしから作ってみましょうか」
薄くなった腹を上下させる猫を見ていると、胸が締め付けられる。手を動かして少しでも力になりたかった。
「そうね。それがいいわ。どれか食べられるかもしれないし。お鈴ちゃん、もうじゃんじゃん作ってちょうだい。いるものあったら、あたしが購ってくるから」
「それしかねえか」
銀次郎は深く頷いた。
「よし、お鈴。今日はこれで店じまいだ。こいつが食えそうなもんを作ってやれ」
「はい」
「大丈夫よ、どうせ客なんて来やしないんだから」
「うるせえ、ばかやろう」
二人の声を背中で聞きながら、暖簾を下ろそうとした時。看板障子が開いた。
「おう、すまねえ、今日はあいにく……なんでえ、てめえか」
暖簾をくぐって姿を見せたのは、黒羽織に二本差し。袂からは朱房の十手。なよっとした顔の同心・新之助であった。
「あれっ、すみません。もしかして取り込み中でしたでしょうか」
いつもと違う雰囲気に、新之助はきまりが悪そうに頭を掻いた。
内藤新之助は南町奉行所の定町廻り同心である。
やくざの親分と同心とは誰が見ても相性が悪そうなものだが、ひょんなことからみと屋の常連になってしまった。心優しく真面目な同心ながら生真面目すぎるのが玉に瑕で、融通が利かぬこともしばしば。今ではずいぶんと丸くなったものの、堅物ゆえに奉行所にはあまり友達がいないらしく、そのせいなのか知らぬがちょくちょくみと屋に昼飯を食べにやって来る。
「それで、神社の近くの長屋に行ったんだけど。あ、その神社ってのは猫を見つけた神社ね。で、その長屋に住んでた人の娘さんなんだけども」
新之助は眉間に皺を寄せ、目をつむって人差し指でこめかみを押さえていた。なにせ弥七の説明はあちらへ飛び、こちらへ飛び、話が寄り道してしまうものだから、聞いているほうも大変だ。
「ええと、つまり。弥七さんが弱っている黒猫を助けたけど、まったく物を食べようとしない。飼い猫らしいから飼い主の作ったものしか食べないのではないかと思い、飼い主を調べたら亡くなっていた。唯一の手がかりである娘さんのもとを訪ねたが、親とは縁を切っていると追い返されてしまった、というわけですか」
「そう、そうなのよ。だからそう言ってるじゃない」
「いや、まあ」
見かねてお鈴が助け船を出した。
「その娘さんから話を聞くのが難しそうなので、この猫が食べられそうなものを片っ端から作ろうかと話をしていたんです」
「そうですか」
新之助が心配そうな眼差しを猫に向けた。
「何か、当てはあるんですか」
「それがさっぱり」
とにかく何でも作ってやろうと意気込んだはいいが、まったく手がかりがないのだ。正直に言うと何から手を付ければいいやら途方に暮れてもいた。
「新之助さん、何かいい方法はないですかね」
ぽつりと零すと、新之助は目を輝かせた。
「任せてください。お鈴さんの困りごとなら、何でも力になります」
「なによ、あたしが話してた時とずいぶん態度が違うじゃないのよ」
むくれる弥七と、「ふん」と鼻を鳴らす銀次郎。
新之助は床几から立ち上がり、店の中を歩き回り始めた。袂に手を入れてぶつぶつ呟いている。どうしたのかと遠巻きに眺めていると、しばらくして立ち止まった。
「当てもなく料理を作るのも骨が折れるし時もかかります。この猫の体調を見るに、できるだけ早く食べられるものを突き止めたほうがいいでしょう。そうなると、やはり手がかりは娘ですね」
「だからそう言ってるじゃないの」
「その娘から、話を聞ければいいんですよね」
「そうよ、でも親と縁を切っていて、親の話なんてしたくないって言うのよ」
新之助は人差し指を立てた。
「友人」
「え」
「その娘の友に取り入るのです」
ぽかんとしている三人の顔を見て、新之助はにこりとした。
「海の向こうの国では、将を射んと欲すればまず馬を射よ、とかいう言葉があるそうです。要するにまず周りから攻めよということです。今回も同じで、本丸を落としたいならば周りから攻めればよいのです」
「なるほど」
「われわれ同心も、聞き込みに行く時はまず下手人の友を押さえます。近すぎず遠すぎず、そしてちょっと心に油断もある。そんな距離が友です。それもおせっかいな者がいいですね。あんたのために、と言ってくれるような人。そういう相手を見つけて、上手く繋いでもらえればあるいは」
「ふん」と銀次郎が鼻を鳴らし、煙管を火鉢に打ち付けた。
「悪くねえな」
「ちょいと新之助さん、やるじゃない。なんだか同心みたい」
「いや、まあいちおう同心でして」
頭を掻く新之助を尻目に、弥七は「じゃあ、あたしちょっと調べて来るわね」と言い残して、またもやつむじ風のようにみと屋を飛び出していったのだった。
四
弥七の動きは早かった。
丸二日ほど姿を見せなかったと思ったら、その間に娘さんに話を聞かせてもらう算段を取り付けていたのだ。
色んな伝手を辿って娘さんの幼馴染を見つけ出し、茶店で団子と茶をご馳走しながら話をしているうちに意気投合。事情を上手く話して娘さんを紹介してもらえることになったのだとか。
「ほら、あたしっていい男だからさあ」と得意げに流し目をくれる弥七に、お鈴は心から感心したのであった。
「あの、ありがとうございます」
頭を下げるお鈴に、女は「礼ならお定に言ってやんな」と不機嫌そうに零した。
二人の前に座る女は、おミヨだ。猫の飼い主であったお粂の娘で、先日けんもほろろに追い返されたその人である。以前に見せたほどきつい目つきはしていないが、警戒しているそぶりが見て取れる。それでも住まいに上げてくれただけでなく、水も出してくれたのだから、優しくしっかりした人なのだろうと思う。小ざっぱりと綺麗に片付けられた部屋からもその人となりが窺えた。
銀次郎はむっとした顔をしていたが、「ふん」と大きく鼻を鳴らした。
「おい、お鈴」
急に呼びかけられて、「は、はい」と返事が裏返る。
「こいつに粥みたいなもん作ってやれ」
「あ、はい」
「それとな、葱は使うな」
「そうなんですか」
「猫に葱を食わすと身体を壊しちまう」
*
しと、しと、と雨音だけが店内に響く。
盆に料理を載せて戻ると、ぐったり横たわる猫を、銀次郎と弥七が見つめていた。
「おまたせしました」
「あら、いい匂い」
「なにが食べられるか分からないので、色々作ってみました。これは粥で、これは葛湯で」
身体を乗り出して銀次郎が覗き込む。
「食えねえもんはねえな。だが熱い。おい弥七、もう少し冷ましてやれ」
「わ、わかったわよ」
弥七は団扇を引っ張り出し、扇いで冷まし始めた。
「猫は熱いもんが食えねえ。舌を火傷しちまわあ」
「銀次郎さん、お詳しいんですね」
てきぱきした指示に感心する。
「ほんとよお。なあに、親分、実は猫が大好きなんじゃないの」
銀次郎は「ふん」とばつが悪そうに鼻を鳴らし、お鈴と弥七は顔を見合わせてくすくす笑ったのだった。
十分に冷ました粥を、猫の口元に置いてやる。
漂う香りに釣られたのか、猫は薄く目を開けた。鼻を動かし碗の匂いを嗅ぐ。そろりそろりと頭を動かし、赤い舌を出した。
ちろり。
舌で一舐め。
弥七が「食べた!」と嬉しそうな声を上げた。
その喜びもつかの間。猫は目を細め、碗から口を離してしまった。
「あああ、食べない」
「別のを出してやれ」
銀次郎に言われ、別の料理を出す。今度は葛湯だ。
猫は再び匂いを嗅いで、舌で一口舐めた。だが、後は見向きもしない。
「もう、なんで食べてくれないのかしら」
「飼い猫ってのはな、餌の捕り方を忘れちまう。そうしてその家で用意された飯しか食わなくなっちまう」
「じゃあなによ。よそん家の食い物は食べられないっていうの。もう、こんな時に贅沢なんだから」
「おい、お鈴、砂糖水を作ってやれ」
「は、はい」
言われるがままに砂糖を水に溶かしたものを作り、口元に持っていってやる。
すると。
ちろり。ちろり。
少しずつ、ゆっくりではあるが、砂糖水を舐め始めた。
「やった、舐めてるわよ、お鈴ちゃん」
「はい、よかったです」
一安心し、弥七と手を取り合う。しかし、「こいつは時間稼ぎにしかならねえ」という銀次郎の言葉に、どきりとした。
「砂糖水じゃあ力はつかねえ。こんだけ弱ってる身体を戻すには、きちんと食わさなきゃあいけねえ。だがな」
「その家の飯でないと、食べないんですか」
「うむ」と銀次郎は渋い顔で腕組みをした。
「それじゃあ、この猫の飼い主を見つければいいのね」
弥七が神妙に頷く。
「まかせて、あたしが必ず見つけ出してくるわ」
そう言って、弥七は竜巻のように雨の中を駆け出していった。
二
「弥七さん、帰ってきませんね」
猫を膝に乗せたまま、銀次郎は「ふん」と鼻を鳴らした。
「どっかほっつき歩いてるんだろうよ。そのうち帰ってくらあ」
雨の中に飛び出していった弥七だが、とうとうその日は帰ってこなかった。一夜が明け、相変わらず猫は弱ったままである。銀次郎が甲斐甲斐しく砂糖水をやって膝の上で温めているが、ぐったりと目をつむって弱い息をするばかり。
なんとか一日も早くよくなってほしい。そう願いながらお鈴もじっと見守った。
「おやじさんの手がかりは、何か分かったか」
猫に目をやったまま、銀次郎がぼそりと言った。
「いえ……なにも」
「そうか」
火鉢の炭が爆ぜて、ぱちりと音を立てた。
「料理屋や居酒屋の人に尋ねてはいるんですが、それらしき人は見つからずです」
町に買い物に出たついでに、料理と関わりがある店を見つけては話を聞かせてもらっている。しかし、おとっつあんの足取りはおろか何の手がかりも見つけられてはいなかった。
「どっかの店で働いてりゃあ耳に入るようになってるんだが、俺のところもまだだ」
「そうですか」
江戸の町に繋がりの深い銀次郎でも見つけられないとなると、おとっつあんはいったいどこにいるのだろう。本当に江戸にいるのだろうか。
「裏のほうも調べさせているが、そっちもまだだ」
「裏、ですか」
「裏稼業の奴らも料理人を抱えているからな」
まさか危ない場所に出入りしているのだろうか。危険な目に遭っていないだろうか。不安がどっと押し寄せてくる。
顔の翳りを察したのか、銀次郎が「万が一の話だ」と言った。
「あんまり大っぴらに動くと、おやじさんを捜してる奴らに勘づかれちまうからな。おめえも焦るんじゃねえぞ」
「はい」
話が途切れるとしんと静かになり、気まずさが生まれる。不器用な銀次郎の性格もよく分かっているのだが、こうして二人きりになると、まだ居心地の悪さを覚えることがあった。
銀次郎はむっつりとしたまま、膝上の猫の背中を撫でている。
「今日も、何も食べませんね」
「うむ」
再び粥などの食べ物を与えてみたものの、やはり口に入れようとはしなかった。
「早く飼い主さんが見つかればいいですね」
と言ったその時。
看板障子ががたんと開いた。
「おう、客かい」
「見つかったわよ」
嵐のように飛び込んできたのは、弥七だった。
「なんでえ、おめえか」とふてくされる銀次郎を無視して弥七が叫んだ。
「その子の飼い主が見つかったわよ」
*
昨日の雨はからりと晴れあがり、気持ちのいい青空が広がっている。しかし爽やかな頭上とは裏腹に、足元は水たまりが残っており道もぐずぐずしたままだ。
「ああもう、ちょっと歩いただけで泥だらけ。ああ、やだ。着物にも泥が跳ねちゃってるじゃない。ほんと、いやあねえ」
ぬかるむ地面に目をやりながら、弥七がふてくされる。
「弥七さん、よくすぐに見つけられましたね」
「そうなのよ、凄いでしょう。あの子弱ってたから、そんなに遠くから来たわけじゃないと思って、神社の近くで聞き込みをしていったのよ。そしたら大当たり。これから行く八五郎長屋ってとこに住んでる、お粂って人が面倒見てる猫じゃないかって」
「これであの猫が食べられるものがわかれば、きっとすぐに元気になりますね」
「そうね。でもねえ」
弥七は少し寂しそうに言った。
「あの子が元気になったら、飼い主のところに返さないといけないのよねえ」
八五郎長屋は、六軒ほどの住まいが並ぶちんまりとした長屋だった。大家が八五郎という人なので、八五郎長屋らしい。
「ここのね、木戸から二つ目に住んでるそうなのよ」
お粂の住まいらしき前に立ち、弥七は障子を叩いた。部屋はしんとして、何の物音もしない。「ちょいと、お粂さーん」と何度か呼び掛けても、静まり返ったままだ。
「留守なんでしょうか」
そうかもねえ、と言いながら、弥七は「ちょいとごめんよ」と障子を開けた。
と、そこに広がっていたのは、夜具や食器などの物一つないがらんとした部屋。
生活の匂いはなくて空気もぬるく、人が出入りしていない印象を受けた。
「え……これって」
「ちょっと、どうなってるのかしら」
二人で呆然としていると、隣の部屋の障子が開き、腰の曲がった老婆が顔を覗かせた。
「なんだい騒々しいねえ。あんた達何の用だい」
「あたし達お粂さんって人に用があってきたんだけど。なにこれ、引っ越しちゃったのかしら」
「ああ、そりゃあ残念だったねえ」
老婆は部屋の中にちらりと目をやった。
「お粂さんは死んだよ。先週のことさね」
*
お粂は八五郎長屋にひとりで住んでいたという。
年のころは六十前くらい。悪い人ではないのだが、人のやることなすこと口を出してきて、周りとも馴染みにくいところがあった。旦那は女を作って出ていってしまい、ひとり娘も別の長屋で暮らしているのだそうな。
ひとり暮らしの寂しさを紛らわすためか、いつからか迷い込んだ猫を飼うようになり、自分でこしらえた赤い紐を首につけたりもしてやったらしい。人嫌いなわりに、ずいぶん猫を可愛がっていたようで、夜な夜な話しかけている声が薄い壁越しに聞こえてきたという。
一週間ほど前のこと。いつまでたっても起きてこないお粂を心配して長屋の連中が見に行ったところ、夜具の中で冷たくなっていた。
前の日まで具合が悪そうにも見えなかったから、寝ている間にぽっくりいったのだろう。ひとり娘にも知らせてやったが、親とは縁を切っているとにべもなく返され、長屋の大家が葬ってやったのだとか。
「あの、本当に行くんですか」
「なに、お鈴ちゃん、心配なの」
「それはそうですよ。だって、さっきのお婆さんの話だと、娘さんは縁を切っているそうですし」
そう、お粂が亡くなったことを知った弥七は、なんと娘のところに行って猫が食べられるものを聞き出そうというのだ。
「だってもうそれしか手がかりがないじゃない。さっきのお婆さんも、お粂さんが猫に何を食べさせてたかなんて知らないって言ってたし」
「でも、娘さんは何年もお粂さんと会っていないようでしたよ」
「もしかしたら、子どもの時にも猫を飼ってたとか、何か分かるかもしれないじゃない。なんとかしてあげないと、あの子が死んじゃうのよ」
「それはそうですけど」
押しかけていいやら不安を覚えながら話しているうちに、娘が住んでいる長屋に着いてしまった。
八五郎長屋の老婆に教えてもらったところによると、娘の名はおミヨ。まだ結婚もせずひとりで住んでいるそうだ。
「ちょいとごめんよ」
弥七が戸を叩く。中から物音が聞こえて、障子が開いた。
「どちらさんです」
中から出てきたのは、小ざっぱりした着物の三十過ぎの女だった。身体つきは細く優しげな顔立ちをしているが、見知らぬ男女の姿に眉根を寄せている。
「突然すまないねえ。あんたがおミヨさんかい」
「ええ、そうだけど」
「ああ、よかった。あたしはさ、弥七っていうもんだけど。あ、こっちはお鈴ちゃんね。ちょいとあんたのおっかさんのお粂さんのことで訊きたいことがあってね」
そう言ったとたん。
おミヨはこちらを鋭く睨みつけた。
「もうあの人とは縁を切ってるんだ。話すことなんて何一つないよ」
そう言い放って、目の前でぴしゃりと戸を閉めたのだった。
三
「とまあ、そんなことになってるのよ。ねえ親分、どうしましょう」
困り果てた弥七とお鈴は、みと屋に戻ってきた。
泣きつく弥七に銀次郎は「ふん」と鼻を鳴らすが、心なしかいつもより声を抑えている。それもそのはず、火鉢の前で胡坐をかく銀次郎の膝元には、猫がぐったりと横たわっているのだ。二人が出かけていた間も、甲斐甲斐しく面倒を見ていたようだ。
「その娘から話は聞けそうにないのか」
「もうにべもないわよ。戸も開けてくれないんだもの」
「長屋の連中で手がかりはねえのか」
「隣に住んでた人にも訊いてみたわよう。でも、猫にやってた食べ物なんて誰も覚えちゃいないわよ」
「うむ」
腕組みをする銀次郎。
「あたし、猫が食べられそうなものをかたっぱしから作ってみましょうか」
薄くなった腹を上下させる猫を見ていると、胸が締め付けられる。手を動かして少しでも力になりたかった。
「そうね。それがいいわ。どれか食べられるかもしれないし。お鈴ちゃん、もうじゃんじゃん作ってちょうだい。いるものあったら、あたしが購ってくるから」
「それしかねえか」
銀次郎は深く頷いた。
「よし、お鈴。今日はこれで店じまいだ。こいつが食えそうなもんを作ってやれ」
「はい」
「大丈夫よ、どうせ客なんて来やしないんだから」
「うるせえ、ばかやろう」
二人の声を背中で聞きながら、暖簾を下ろそうとした時。看板障子が開いた。
「おう、すまねえ、今日はあいにく……なんでえ、てめえか」
暖簾をくぐって姿を見せたのは、黒羽織に二本差し。袂からは朱房の十手。なよっとした顔の同心・新之助であった。
「あれっ、すみません。もしかして取り込み中でしたでしょうか」
いつもと違う雰囲気に、新之助はきまりが悪そうに頭を掻いた。
内藤新之助は南町奉行所の定町廻り同心である。
やくざの親分と同心とは誰が見ても相性が悪そうなものだが、ひょんなことからみと屋の常連になってしまった。心優しく真面目な同心ながら生真面目すぎるのが玉に瑕で、融通が利かぬこともしばしば。今ではずいぶんと丸くなったものの、堅物ゆえに奉行所にはあまり友達がいないらしく、そのせいなのか知らぬがちょくちょくみと屋に昼飯を食べにやって来る。
「それで、神社の近くの長屋に行ったんだけど。あ、その神社ってのは猫を見つけた神社ね。で、その長屋に住んでた人の娘さんなんだけども」
新之助は眉間に皺を寄せ、目をつむって人差し指でこめかみを押さえていた。なにせ弥七の説明はあちらへ飛び、こちらへ飛び、話が寄り道してしまうものだから、聞いているほうも大変だ。
「ええと、つまり。弥七さんが弱っている黒猫を助けたけど、まったく物を食べようとしない。飼い猫らしいから飼い主の作ったものしか食べないのではないかと思い、飼い主を調べたら亡くなっていた。唯一の手がかりである娘さんのもとを訪ねたが、親とは縁を切っていると追い返されてしまった、というわけですか」
「そう、そうなのよ。だからそう言ってるじゃない」
「いや、まあ」
見かねてお鈴が助け船を出した。
「その娘さんから話を聞くのが難しそうなので、この猫が食べられそうなものを片っ端から作ろうかと話をしていたんです」
「そうですか」
新之助が心配そうな眼差しを猫に向けた。
「何か、当てはあるんですか」
「それがさっぱり」
とにかく何でも作ってやろうと意気込んだはいいが、まったく手がかりがないのだ。正直に言うと何から手を付ければいいやら途方に暮れてもいた。
「新之助さん、何かいい方法はないですかね」
ぽつりと零すと、新之助は目を輝かせた。
「任せてください。お鈴さんの困りごとなら、何でも力になります」
「なによ、あたしが話してた時とずいぶん態度が違うじゃないのよ」
むくれる弥七と、「ふん」と鼻を鳴らす銀次郎。
新之助は床几から立ち上がり、店の中を歩き回り始めた。袂に手を入れてぶつぶつ呟いている。どうしたのかと遠巻きに眺めていると、しばらくして立ち止まった。
「当てもなく料理を作るのも骨が折れるし時もかかります。この猫の体調を見るに、できるだけ早く食べられるものを突き止めたほうがいいでしょう。そうなると、やはり手がかりは娘ですね」
「だからそう言ってるじゃないの」
「その娘から、話を聞ければいいんですよね」
「そうよ、でも親と縁を切っていて、親の話なんてしたくないって言うのよ」
新之助は人差し指を立てた。
「友人」
「え」
「その娘の友に取り入るのです」
ぽかんとしている三人の顔を見て、新之助はにこりとした。
「海の向こうの国では、将を射んと欲すればまず馬を射よ、とかいう言葉があるそうです。要するにまず周りから攻めよということです。今回も同じで、本丸を落としたいならば周りから攻めればよいのです」
「なるほど」
「われわれ同心も、聞き込みに行く時はまず下手人の友を押さえます。近すぎず遠すぎず、そしてちょっと心に油断もある。そんな距離が友です。それもおせっかいな者がいいですね。あんたのために、と言ってくれるような人。そういう相手を見つけて、上手く繋いでもらえればあるいは」
「ふん」と銀次郎が鼻を鳴らし、煙管を火鉢に打ち付けた。
「悪くねえな」
「ちょいと新之助さん、やるじゃない。なんだか同心みたい」
「いや、まあいちおう同心でして」
頭を掻く新之助を尻目に、弥七は「じゃあ、あたしちょっと調べて来るわね」と言い残して、またもやつむじ風のようにみと屋を飛び出していったのだった。
四
弥七の動きは早かった。
丸二日ほど姿を見せなかったと思ったら、その間に娘さんに話を聞かせてもらう算段を取り付けていたのだ。
色んな伝手を辿って娘さんの幼馴染を見つけ出し、茶店で団子と茶をご馳走しながら話をしているうちに意気投合。事情を上手く話して娘さんを紹介してもらえることになったのだとか。
「ほら、あたしっていい男だからさあ」と得意げに流し目をくれる弥七に、お鈴は心から感心したのであった。
「あの、ありがとうございます」
頭を下げるお鈴に、女は「礼ならお定に言ってやんな」と不機嫌そうに零した。
二人の前に座る女は、おミヨだ。猫の飼い主であったお粂の娘で、先日けんもほろろに追い返されたその人である。以前に見せたほどきつい目つきはしていないが、警戒しているそぶりが見て取れる。それでも住まいに上げてくれただけでなく、水も出してくれたのだから、優しくしっかりした人なのだろうと思う。小ざっぱりと綺麗に片付けられた部屋からもその人となりが窺えた。
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