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30. レリッサと魔術師1

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 王都の冬は冷える。
 底冷えのする寒さは窓ガラスを凍らせて、家の中の熱を奪っていく。
 そうなると自然、家族が一箇所に集まって、一緒に暖を取ってしまうのが普段のラローザ家だった。

「ホーリィ姉様、そこのお砂糖取って」
「はい。ちょっとライアン、それ私のクッキーよ」
「良いじゃない、一枚くらい」

 昼食を終えて、サロンでの団欒。
 ホーリィと双子は昼食が足りなかったのか甘い物をつまんでいる。
 その様子をいつもの自分の席からちらりと見て、レリッサはそのまま視線を手元の本に落とした。

 あれから、四日が過ぎた。
 サマンサはあの後丸一日ぐっすりと眠って、すっかり元通りになり、レリッサも、マリアによればまだ痣は残っているが、痛みは無くなって問題なく歩けるようになった。

 双子は学園が冬休みに入り、ホーリィはこの寒さの中で外に出る気になれないと、今日のお茶会はキャンセルしたそうだ。
 エメリアは今朝当直から帰ってきたばかりで、部屋で休んでいるが、目が覚めたら降りてくるだろう。

 サロンの隅では、パトリスがボードゲームに興じている。相手は、四日前のあの話からそのまま、ラローザ家の――というより、レリッサの護衛役となったアイザックだ。
 良い勝負をしているのか、パトリスもアイザックも、真剣な顔をしてボード上を見つめている。

 レリッサの護衛役は、アイザックの他に二名が選任された。
 基本的に三交代制で、アイザックは昼前から夜にかけてが当番のようだ。

 護衛とは言え、レリッサは足のこともあって外出を控えている。
 最初は日がな一日、レリッサのすぐそばで控えていたアイザックだったが、それも疲れるだろうと、今は好きに過ごしてもらっている。

「お義兄にい様、遅いわねー」

 不意にホーリィが、暖炉の上の時計を見上げて言った。

 今日はリオネルが来ることになっていた。
 約束の時間を少し回っているが、仕事が忙しいのだろう。
 二日前にも一度レリッサの足の具合を見に来て、少し話しただけで帰ってしまった。

「お姉様、さっきから本のページが全然進んでいなくってよ」

 レリッサの手元を見て、ホーリィがにやりと笑う。
 リオネルを、今か今かと浮き足立って待っているのを見透かされたようで、レリッサは「もうやめておくわ」と本を閉じた。

 それと同時に、玄関のベルが鳴った。

「噂をすればじゃない?」

 ホーリィがサロンの扉を指差すと、少し経って扉が開いた。

「こんにちは。雪が降ってきたよ」
「リオン様」

 頭に、雪が溶けた水滴を乗せたリオネルだった。
 リオネルは駆け寄ったレリッサの額にキスを落としてから、レリッサの足元に目をやった。

「レリッサ、もう足は良いの?」
「はい、もう痛くなりました」
「そっか。君を抱き上げる口実が無くなって、ちょっと残念だな」
「まぁ」

 笑い合っていると、「お二人さーん」と声が入った。

「こんにちは、ホーリィ」
「いらっしゃいませ、お義兄様。仲が良いのは結構だけど、あそこの二人が落ち着かないみたいだから、ほどほどにしてあげてくれるかしら?」

 あそこの二人、とホーリィがサロンの隅でボードを挟むパトリスとアイザックを指差した。
 二人ともボード上に集中しているように見えるので、レリッサは首を傾げたが、リオネルの方はそうは思わなかったようで「なるほどね」と笑った。

「ねぇサマンサ、僕たち、これからずっとあのやりとり見せられるわけ?」
「そうよ。良いじゃないの、幸せそうで」

 こそこそと話しているライアンとサマンサに、リオネルが近づいて、下げていた小さな箱を差し出した。

「はい、これは二人にお土産」
「「あ、レイモンド商店のマフィン!」」

 二人は双子らしく声を揃えて、ちゃんと二人分用意された箱を受け取った。

「二人が、それが好きだって、レリッサが前に手紙に書いていたから。たまたま前を通ったんだよ」
「さすが気が利く~。どっかの兄様とは大違いだわ」
「パトリス兄さん、だいたいお土産は外してくるからなぁ」

 双子の意味ありげな視線を受けて、ようやくパトリスがボード上から視線を上げた。

「こらっ。リオンを持ち上げるために、わざわざ僕を引き合いに出さないの!」
「だって兄様のお土産のセンスが壊滅的なのは、家族みんなが知ってるのよ?」
「誕生日に奇抜な配色のスカーフとか、どこの誰か分からない顔が彫られたマグカップとか」
「ライアン、あれは一応あなたの顔だったのだと思うわよ。そして彫り手は多分お兄様」

 ホーリィのフォローとも言えないフォローに、パトリスは一瞬傷ついた顔をしたものの、小さく咳払いをして席を立った。
 どうやらボードゲームはおしまいにするようだ。

「それで? わざわざ僕の株を下げに来た訳じゃないでしょう? リオン」
「うん、エドが王都を出て四日が過ぎたから。そろそろかと思ってさ」
「そろそろ?」

 レリッサの問いにリオネルが答える前に、サロンの扉が鳴った。
 マリアとダンがティーセットをワゴンに乗せて入って来て、ローテーブルの上にセッティングしていく。

「リオン様、ひとまず座ってください」
「うん、そうするよ」

 サマンサが気を利かせて、レリッサの隣にある自分の席をリオネルに譲り、レリッサの目の前の、普段エメリアが座る席に移った。

「それで、そろそろって?」

 お茶を一口楽しんだ後で、パトリスが身を乗り出してリオネルに尋ねた。

「うん。パトリスは魔術師なら誰を知ってる?」
「誰を? んー、うちの国で言うなら、ジング・リング・エヴァンとか…」
「あと、ミヒャエル・アース・コーミックに、オルタナ・リアラ・アズライト!」

 パトリスの言葉を遮って、サマンサが息急き切って名前を上げた。
 ジング・リング・エヴァンは、スタッグランド王国にある魔術師団の団長の名だ。レリッサも聞いたことくらいはある。
 だが、サマンサが上げた二人の名前には覚えがない。ホーリィも同じだったようで、「誰、それ?」とサマンサの勢いに呆気にとられている。

「知らないの!? 有名な魔術師なのに! ミヒャエル・アースはかつてスタッグランドで一番強かった魔術師よ! この土地でも強い魔力持ちが生まれるんだって証明して見せた、スタッグランドの魔術の祖。それからオルタナ・リアラ・アズライトは、テルミツィアの女性宮廷魔術師なの! テルミツィアは基本男性の方が優位に立つ国なのに、あの国で女性で宮廷魔術師をしてるなんて、本当に凄いことなのよ!?」

 サマンサの瞳がキラキラと輝いている。
 レリッサは、サマンサが魔術師になりたいと思っているのは知っていたが、ここまで憧れを抱いているとは知らなかった。
 リオネルがくすりと笑った。

「サマンサは、本当に魔術が好きなんだな」
「ええ、そうよ! あとは他には…」

 サマンサは、まだ他の魔術師の名前を上げようとしている。

「まぁ、待って、サマンサ」

 それを遮って、「じゃあ…」とリオネルが何かを言いかけた。

 不意に、サロンの中に風が吹いた。
 ひゅるりと小さなつむじ風が巻いて、暖炉の火を揺らす。

“僕の名前が一番に出ないなんて、不服だな”

 どこからか、声が響いた。
 若い声だった。

「あぁ、着いたのか」

 リオネルが天井を見上げる。
 そこに風がやがて大きく渦を巻いて、パチンっと弾けた。

「どっわぁああああ!」

 突如空間が空いて、そこに見慣れたエドの姿が現れた。
 エドは天井から真っ逆さまに降ってきて、ドスンッと床に落ちる。「ってぇ…」とうめき声を上げたあと、天井を睨みつけた。

「おい、ディートル! お前、もうちっと気ぃ使って落とせよな!」

 そう言って睨みつけた場所に、ゆるりと少年が現れた。
 銀色の短髪に、赤い瞳。口元に小さなほくろがあるのが特徴的な、女の子にも見まごうような美少年だ。白地に金の刺繍のローブを身につけている。
 彼はふわりと床に降り立った。

「ディートル…? ディートル・マーレ・クライスト!?」

 サマンサが立ち上がって、少年の方へと駆け寄る。

「本物!?」
「本物だよ。疑うつもり?」

 少年は心底不快という顔をして、サマンサを険しい目で見上げている。

 ディートル・マーレ・クライストは、アザリア公国の筆頭魔術師にして、今現在『最強』と謳われる稀代の天才魔術師である。
 流石に彼の名前くらいは、レリッサも聞いたことがあった。

 だがレリッサたちの前に現れた彼は、サマンサよりもずっと背が低く、見た所十歳くらいに見えた。

「あの、本当に…?」

 信じられなくて、レリッサはリオネルに答えを求める。
 彼は肩をすくめて、ディートルに声をかけた。

「ディートル。その姿だから疑われるんだろう?」
「ちぇっ。お子様が一番やりやすいのに」

 ディートルはそう言って、ぱちんと一つ指を鳴らした。
 彼の姿が、髪と目の色を残して変幻する。長髪の青年になった。身長はリオネルと同じくらいだ。
 だが彼は、気に入らないという顔をして、もう一つ指を鳴らす。
 今度は、腰の曲がった老人に。
 ぱちん、ぱちんと何度か指を鳴らして、ようやく最後に満足そうに彼がうなずいた時、彼はサマンサより少し背が高い少年になっていた。見た目の年齢は、十六歳くらいだろうか。

「紹介するよ」

 そう言って、リオネルがディートルの隣に立った。

「ディートル・マーレ・クライスト。アザリア公国の筆頭魔術師だ」
「元、だよ」

 そう言って、ディートルはリオネルを見上げた。
 リオネルが少し驚いた顔をした。

「なんだ、本当に辞めてきたのか」
「そうだよ。言ったでしょ、僕はあんたについてくって。あんた面白いんだもん」

 そう言って、ディートルは足を踏み出すと、迷うことなくレリッサの前に立った。

「あの…?」

 珊瑚のように濃く赤い瞳が、レリッサの目を見つめる。
 背丈はレリッサとそう変らないディートルの、顔がこちらにだんだんと近づいてきて、レリッサは上半身をわずかに仰け反らせた。
 だが唐突に、ディートルの身体が離れた。

「ディートル、近い」

 リオネルが、ディートルのローブの後ろ首を引っ張って遠ざけていた。

「ごめん、つい。彼女も面白い魂してるから」

 そう言うと、ディートルはその珊瑚色の瞳を細め、リオネルを見つめた。

「《高潔》の王に…」

 続いて、レリッサを見る。

「《慈愛》の王妃…ね。うん、良い組み合わせだ。おまけに彼女、もう一つ面白いものを持ってる」

 そう言うと、ディートルはレリッサに手を伸ばしてきた。

「おい…」
「変なことはしないよ。黙ってて、王サマ」

 ディートルの手が、レリッサの目を覆った。

「あんた、視えすぎるね。色んなものが。…よく頭痛がしない? それに、熱も出す」
「あ…はい。頭痛はたまに。熱も、子供の頃は良く…」

 ふっと目から上が軽くなった気がした。
 ディートルの手が離れていく。

「あんまり無理はしないようにね。時々、目を閉じるのが良いよ」
「あ…はい」

 レリッサはこくこくと頭を縦に振った。

「あの、今のは…?」

 リオネルが苦笑いをした。

「変人魔術師の、趣味みたいなものだよ」
「変人だなんて失礼だな、リオン。魔術の深淵に達した魔術師には、普通の人間には見えないものが見えるのさ」

 例えば、とディートルは言った。

「魂が持つ本質。あるいは、少し先の未来…なんかもね」
「未来…」

 レリッサが呆気にとられている横で、サマンサが「すごい!」と声をあげた。

「すごいすごいすごい! ディートル・マーレ・クライストがうちにいる!」

 サマンサは目をキラキラと輝かせてはしゃいでいる。
 その様子にディートルは少し気を良くしたようで、ほのかに口角を上げると、サマンサを指差しながらリオネルの方を向いた。

「リオン、この子?」
「うん。頼めるかい」

 ディートルがサマンサの方に近づいていく。
 目を輝かせていたサマンサだったが、何かをされるのだと気づいて、不安げにリオネルの方を見た。

「大丈夫だよ。ごめん、説明が不十分で。エドに彼を呼びに行ってもらったのは、彼が君の魔力の量を一時的に抑える方法を知っているからだ」
「一時的に抑える?」
「そうだよ」

 ディートルはローブの内側に手を差し込みながら、リオネルの説明を引き継いだ。

「君はまだ未熟で、その魔力を全然御しきれてない。これから大人になるにかけて、その魔力量は飛躍的に伸びていって、放置すれば君ごと内側から喰らい尽くすだろう」

 だから、と、ディートルが取り出したのは、指の先程の大きさのクリスタルだった。
 遠目に見ても、とても純度の高いものだとわかる。

「これに、君の魔力を封じる。それでしばらくの間は、暴発は抑えられるはずだ。わかった?」

 サマンサは、こくこくと頭を縦に振った。

「だいたい理解したわ。魔力を切り取るのね」
「そういうこと」

 サマンサとディートルは、お互いに通じ合うものがあるのか、ディートルが目線を動かしただけで、サマンサは目を伏せた。

「サマンサ…」

 レリッサは、なんだか怖いものを見るようで、ぎゅっと胸の前で手を握る。
 リオネルが「大丈夫」と、安心させるように肩を抱いてくれる。

「行くよ」

 ディートルがそう言った瞬間、サマンサの身体が水平に浮かび上がった。
「わっ」とライアンやホーリィの声が上がる。
 サマンサの身体はキラキラと輝き出して、その光に手を当てたディートルが、吸い上げるようにしてクリスタルの中に封じ込めていく。

 透明だったクリスタルが、水を満たしていくように、次第に下から光で埋まっていく。

「綺麗…」

 レリッサは、気づけばそうつぶやいていた。

 クリスタルが完全に光で埋まった頃、ディートルがゆっくりとサマンサを床に降ろした。
 ふわりとサマンサは立ち上がって、伏せていた目を開く。彼女を包んでいた光が弾けて、散っていった。

 ディートルが、光で満たされたクリスタルを目の前に掲げた。
 キラキラと強く発光していたその光が、だんだんと落ち着いて、虹色の宝石になった。

「ははっ」

 ディートルが笑い声を漏らした。
「すごいな」とつぶやくその表情は、どこか満足げだ。

「十四魔色の乙女か」
「十四魔色?」

 サマンサが首をかしげる。

「なんだ、知らないのか。勉強不足だね」

 ディートルの言葉に、サマンサがムッと顔をしかめた。それを全く気にした様子もなく、クリスタルをサロンにいる全員に見えるように、ディートルが持ち上げる。

「魔色っていうのは、魔力が持つ色のことだ。赤、青、黄、緑、白、黒、金、銀、多くはこんなものだが、その中間色も多様に存在する。一人の魔力持ちが持つ色は大体一色から三色。五色も持ってれば、すぐに宮廷魔術師に取り立てられるだろう」

 ちなみに、とディートルはニヤリと笑って言った。

「僕は十六色持ってる」
「それで、サマンサが十四魔色というのは…」

 パトリスが、先を促すように尋ねた。

「そう、彼女は十四の魔色の持ち主。それは即ち、魔力の量に比例する。君、天才になれるよ」

 僕みたいにね、とディートルは言って、サマンサの手のひらにクリスタルを乗せた。

「これが、私の魔力…」

 サマンサは上気した表情で、クリスタルをうっとりと眺めている。
 やがてそれを握りしめると、ディートルを見つめ返した。

「これって、どうしたらいい?」
「別に。好きにしたらいい」
「じゃあ、姉様にあげる」

 サマンサは、レリッサの方へ歩いてきて、レリッサの手の中にクリスタルを握らせた。

「いいの? だって、これ、とても大事なものなんじゃ…」

 よくわからないけれど、おいそれと人にあげていいものではない気がする。
 だがサマンサは首を振って、ぎゅっとクリスタルを握るレリッサの手を握った。

「姉様に持ってて欲しいの」
「魔力を切り取ったクリスタルには、持ち主の魔力が宿る」

 ディートルがサマンサの後ろに立って言った。

「持ち主の想いが強ければ強いほど、そのクリスタルは効力を発揮する。要するに護符代わりだ。彼女は、それを知っててあんたに持っていて欲しいって言ってるんだよ。持っててあげなよ」

 レリッサは手の平の上に乗るクリスタルを、指でなぞる。
 他の宝石が霞むような、ため息が出る美しさだった。

「ありがとう。大切にするわ」

 レリッサの言葉に、サマンサが満足そうに笑う。

「できるだけいつも身につけておくといい。あんたを守ってくれる」
「この大きさなら、他の宝石いしと合わせてブレスレットにすると良いんじゃない? 今度プレゼントするよ」

 リオネルがクリスタルを覗き込んで言った。

「そんな…申し訳ないです」
「俺が贈りたいんだよ」

 リオネルの指がすっとレリッサの頬を撫でた。

「君を飾るのに、惜しむものは何もないからね」

 にこりと微笑まれると、レリッサにはもう顔を赤らめる以外の返事ができなくなる。
 大人しく頷いた。

 甘いやりとりに少々距離を置きながら、サマンサとホーリィはパトリスの方を見た。

「兄様、わかった? あれがスマートなプレゼントの仕方なのよ?」
「石があるからって、単純に穴を開けてネックレスにすれば良いとか、そう言うことではないの。わかっていて、お兄様?」
「…お前たち、リオンがレリッサと婚約してから、兄様に厳しくないか?」

 片腕を布で吊ったライアンは、反対側の手でお茶に砂糖を入れながら、パトリスに同情の視線を寄せた。

「ねぇ…あれ、いつもああなの?」

 一方で、レリッサたちを眺めながら、ディートルは少し呆れた目で言った。
 隣に立ったエドが、「そうだよ」と答える。

「初恋をこじらせた男は怖いんだよ…。リオネルについて行くなら、ずーっとあれを見てることになるから、覚悟しとけよ?」
「はぁ…。ま、スタッグランドの未来が安泰で何よりじゃない?」

 ディートルはそう言うと、ローテーブルの上から勝手にティーポットを持ち上げると、指先をくるりと回してティーカップを出現させた。
 レリッサがいつも座る席に腰掛けて、お茶を注ぎながら言った。

「で? 僕の部屋はどこ? 荷解きしたいから、案内してくれる?」

 サロンにいた全員の顔が、ディートルに向く。

「お前…ここに住むつもり?」

 エドが一堂を代表して尋ねた。
 ディートルは「当たり前でしょ」と告げる。

「僕、他に行くとこないし。アザリアの王宮の私室はもう引き払っちゃったから、帰れないし。ま、なんか面白そうだから、もうアザリアに帰るつもりはないんだけどさ」

 そう言って、お茶を一口。

「僕の未来の『王』の妃と、十四魔色の乙女がいるこの屋敷。面白いから、ここにいることにしたよ」

 ディートルは悠然と微笑んだ。



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