ドSワンコとクズ眼鏡

うさき

文字の大きさ
上 下
111 / 132

104

しおりを挟む

「一体どういうことですか」
「…は?」

 それはこちらのセリフだ。
 適当な空き教室へ入ると神谷は俺に一枚のプリントを渡す。

 ちらりと見て潔く事情を察した。
 別に何も騒ぎ立てるほどの事じゃない。 

 とりあえず七海とのことが公になったわけではないことに、ホッと胸を撫で下ろす。

「来期の生徒指導部にあなたの名前がありません」
「別におかしなことじゃない。ここ数年は俺も参加していたが、来期からは外してもらっただけだ。代わりに他の仕事を受け持つし、何も問題はないだろう」
「ありますよ。七海とのことを気にされてのことでしょう」

 当たり前だ。
 俺のような奴が生徒指導部にいるなんて許されるはずがない。
 神谷は俺の表情を見て取ると、複雑そうに眉を寄せた。

「…やはり気にされていましたか。もしかしたらと思っていましたが、あなたは本当に真っ直ぐすぎてどうしようもない方だ」
「それは褒めているのか貶しているのかどっちだ」
「あなたを貶すようなことはしません。…ですが紺野先生、もう少し柔軟に考えられてはいかがですか。あなたはもうずっと酷い罪悪感に捕らわれているのでしょう」
「生徒と関係を持っているのだから当然だ」

 きっぱりと告げると、神谷は焦ったように視線を彷徨わせた。
 七海と一緒にいると堪らなく甘い時間に腑抜けてしまう反面、その後には必ず酷い罪悪感が押し寄せてくる。
 それはもう俺の胃をずっと締め付けている。

「…まさかとは思いますが、教師を辞めようなんてことは考えていませんよね」
「馬鹿を言うな。この忙しい時期に退職するような事はないから安心しろ」
「…そう、ですか」

 そう言ってやると明らかに神谷はホッとしたような顔を見せた。
 このことは全て、夏祭りに教頭に相談を持ちかけて決めたことだ。
 あの時は酔っ払っていたが、その後ちゃんと正式に話をして決めた。

 とはいえ入れ替わりとなる来期まではまだ時間があるし、罪悪感はあるがそれまでは今までと変わらず生徒を厳しく指導していくつもりだ。
 当面は文化祭に向けて浮足立っている生徒に目を光らせるのが仕事だろう。

「七海には余計なことを言うなよ」
「いえ、言いますよ。自分が原因で紺野先生が生徒指導部を辞めること、ちゃんと分からせます。教育委員会の評判も良かったですし、このままいけば教頭や校長など管理職への道もあったでしょう。アイツにはことの重大さを分からせたほうがいい」
「これは俺が勝手に決めたことだ。これから受験勉強で忙しくなるアイツに余計な事を言うのはやめてくれ」
「ですがさすがにこれは――」

 まだ言い返してこようとしたから、とっさに神谷の服の裾を掴む。
 
「…た、頼む。神谷」

 そう言って顔を俯かせる。
 七海にはこれ以上大人に気を使うような行動は取ってほしくない。
 俺はアイツを少しでも甘やかしてやりたいんだ。

 俺の行動に神谷は一度息を呑んでからため息を吐き出した。

「…その言い方はずるいですよ。あなたの頼みを俺が聞けないわけがないでしょう」

 それを知っているからこそ頼んだ自覚はある。
 そしてまた、罪悪感に苛まれていく。



 今日一日の仕事を終えて家へと帰宅する。
 部屋には誰もいない。
 いつの間にかアイツの物が増えている室内にどこか心が暖まるが、昼間の会話を思い出す。

 家にちゃんと帰ると言っていたが、もうこの家には来ないんだろうか。
 当初は帰れと何度も言っていたくせに、いないとなるといきなり静かになった部屋に落ち着かなさを覚える。

 七海は夏休みのほとんどを俺の家で勉強していた。
 一人暮らしには広い間取りで使ってない部屋もあるし、アイツの家庭事情を知ってしまってからは一度も帰れとは言っていない。
 俺も数学の研究をしながら、手が空けば夜食も作ってやったし個人指導も沢山してやった。
 受験生の夏休みとしては、かなり良い勉強が出来たと思っていたのだが。

 手に持ったスーパー袋に小さくため息を吐き出す。
 ここ最近七海がいたから当たり前のように沢山買ってきた食材は、とてもじゃないが一人じゃ食べきれない。
 
 どうしていきなり帰ると言い出したのだろう。
 当たり前だが学校が始まったからか。
 もちろん生徒と一緒に登校する所など見られるわけにはいかないから、それに越したことはないのだが。

 モヤモヤと考えて、ふと気付く。

 これではまるで俺が寂しがっているみたいじゃないか。
 別に寂しいわけではない。
 寂しいわけではなく、なんだろうこの気持ちは。

 ――そう、不安だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

いろいろ疲れちゃった高校生の話

こじらせた処女
BL
父親が逮捕されて親が居なくなった高校生がとあるゲイカップルの養子に入るけれど、複雑な感情が渦巻いて、うまくできない話

山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜

ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。 高校生×中学生。 1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。

淫乱少年の性活

こうはらみしろ
BL
『ボクはあの日、淫乱になった…』 ある日、格は兄の淫らな行為を見てしまう。 そこから格の人生は大きく変わっていく──

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

処理中です...