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しおりを挟む翌日の昼休みも結城は数学準備室へ訪れ、俺にどやされ七海に宥められながら勉強をする。
そんなに嫌なら来なければいいが、懲りずに来るのはやはり好きなやつがそこにいるからか。
「紺野先生、ありがとうございます」
「は?」
授業を全て終えた放課後、職員室で仕事を片付けていたら俺の机にコトリとコーヒーが置かれた。
見上げると神谷がニコニコといつもの綺麗な笑顔を浮かべている。
突然お礼を言われたが何かした覚えはない。
「最近バスケ部の勉強を見てくださっているとかで」
「は?誰がそんなことを」
「結城ですよ。昼休みに七海と一緒に勉強を見てもらっているんだとさっき部活で言っていたので」
「ああ…」
七海と違っていまいち勉強する気がないくせに、神谷にそんな話をしていたのか。
というか別にバスケ部の勉強を意図して見てやっているわけではないのだが。
「はぁ…学生が羨ましいです。私も学生であればあなたに教えを請いにいけたというのに」
「何をバカなことを言っている。お前が学生ならば今の俺が困る」
「えっ」
作成していたプリントをトンと整えながら口を開く。
仕事はまだ山積みだし、雑談をしながらも手を動かすことは止めない。
「お前と組んで仕事をするのは今までで一番効率がいいからな。三年を受け持ったことがないと言っていたからどれ程大変な思いをするかと覚悟していたが、実際助けられている。これからもっと忙しくなるだろうし、今一度気を引き締めて――…なんだ?」
まとめたプリントを神谷に渡そうと見上げたところで、思いの外真っ赤になった顔がそこにあって驚く。
いつもの余裕ある表情からは全く伺えないその姿に、思わず固まってしまう。
「――あ、すみません。その…急にあなたに褒められたもので」
「…事実を言っただけだ。別に褒めたつもりはない」
「ふふ、そうですか」
あまりにも嬉しそうに微笑むから、妙に居心地が悪くなる。
神谷は気を取り直すように数度顔を振り、俺からプリントを受け取った。
「…困りましたね。見ているだけでいいと思っていたのですが」
「え?」
「いえ、なんでもありません。そうですね。今一度気を引き締めていこうと思います」
そう言うと神谷は自分の席へと戻っていった。
ひょっとして俺は今、何か猛烈に余計なことを言ってしまったんじゃないだろうか。
「こーんーの、せんせー!」
仕事を終え帰宅しようと校舎外に出たら、聞き慣れた声が飛んできた。
最近少しずつ日は長くなっているが、それでもとっぷりと暗くなったこの時間。
顔を向ければ煌々と明るい体育館の入口で、七海がブンブンと俺に手を振っていた。
バスケ部はどうやらまだ終わってないらしい。
そういえば神谷はまだ職員室で仕事をしていたし、部活の合間に自分の仕事も片付けてと本当に忙しいんだろう。
ちらりと体育館脇に視線を移せば、こんな時間までバスケ部が終わるのを待っている女子もいる。
七海も前に声を掛けて帰していたが、さすがにいつも気遣うのは難しいだろう。
そう思えば一つ息を吐き出して、体育館の方へと歩く。
体育館脇でたむろしている女子にさっさと帰れと一喝してから、七海の元へ向かう。
一部始終を見ていた七海は、文句言いながら帰る女子を見送って可笑しそうに笑った。
「みーちゃん怖すぎっす。めっちゃビビられてましたね」
「こんな時間まで女子が待っていることのほうが問題だ。お前を待っている女子も多いだろう。付き合う気がないならハッキリ言ってやったらどうだ」
「別に告られてるワケじゃないしなー。それに腹減るから差し入れはめっちゃ有り難いですし」
なんだそれは。
付き合う気がないのにヘラヘラして差し入れは受け取るなんて、それは少し無神経なんじゃないのか。
「お前がそういう態度を取るから相手は期待するんだろう。誰とでも仲良く出来る性格は長所だが、その考えはあまり感心しない」
「そうっすか?みーちゃんが面白くないなら貰いませんけど」
「そういうことを言っているんじゃなくて――」
「七海せんぱーい、キャプテンが怒ってますよー…ってあれ?眼鏡センセーだ」
不意に後ろからひょこっと顔を出したのは結城だった。
俺の姿を目に止めた途端、分かりやすくさっと七海の腕を取る。
七海を好きなのは分かるが、何故俺にいちいち敵意を向けてくる必要がある。
今の七海の発言で少し不信感を抱いたところに結城にまでそんな態度を向けられて、余計に苛立ちが募る。
「もういい。部活中邪魔したな」
「あ、待ってくださいよっ。もうすぐ部活終わるんで一緒に帰りましょう」
「生徒と一緒に帰るわけがないだろう。俺はお前の友人じゃない」
きっぱりとそう告げて歩きだす。
イライラしていた。
なんでこんなに苛つくんだというほど、七海に関することになると簡単に気持ちが揺さぶられる。
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