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しおりを挟む「…教師?お前が?」
「はい。俺やりたい事とか目標特になかったんですけど、これ思いついたらしっくりきたんで。カミヤンみたいにバスケ部の顧問にもなれたら面白そうだし」
ニシシと七海は悪戯に笑う。
色々と突然すぎて理解が追いつかないのだが。
「みーちゃんのおかげですよ。進路決まったの」
「――は、いやちょっと待て。動機が不純すぎないか」
「え、そうっすか?何かになりたいってそもそも好きなものの延長なんで、好きな人がキッカケじゃダメっすか?」
全くダメじゃない。
言われてみればキッカケなんて確かにそんな物かもしれない。
だがちょっと待て。
「お前の理由がいまいち分からないのだが。なぜ教師になれば俺に認められるとなるんだ」
「え、だって俺が卒業しても生徒としか見れないって言ったじゃないっすか。みーちゃんは生徒とは付き合わないって聞かないですし。だから文字通り教師になればさすがにもう生徒じゃないでしょう?」
自信満々と言った様子で言われたが、そういうものなんだろうか。
確かにそうなれば今度は上司と部下、もしくは先輩と後輩の関係に変わる。
なんてことをふと思ったが、自分の教え子であったことは変わらないのだから、やはり生徒じゃないのか。
なんだか生徒の定義が分からなくなってきた。
「俺がみーちゃんの代わりに数学教師になります。だから安心して俺を好きになって仕事やめて下さい」
「なんの安心だ。それとこれとは話が別だ」
「別じゃないですよ」
七海はそう言って俺の両手を握る。
完全に呆気にとられている俺を他所に、爛々と輝く瞳で見つめられる。
「ね、だから俺が教師になったら結婚しましょう。絶対に幸せにします」
なぜ俺は修学旅行の引率でプロポーズされているのだろう。
そもそも付き合ってないのにいきなり結婚とはどういうことだ。
というかその前に俺達は男同士だ。
あまりにも話が飛躍しすぎていて、色々と考えたいことがまとまらない。
何から突っ込んでいいのかすらもうよく分からない。
一度唖然としてしまったが、七海の目はあまりにも真っ直ぐで全て冗談でないことを知る。
酒が抜けてないせいもあるんだろうか。
不意に張り詰めていた糸が切れたように息が漏れた。
「――っふ、お前が教師か」
思わずと言った様子で漏れ出た声に、七海の目が大きく見開く。
一度笑ってしまったら抑えきれなかった。
堪えきれない感情が次々に込み上げ、表情が破綻してしまう。
声を出して笑ったのは一体何年ぶりだろうか。
あまりに唐突で単純な志望動機ではあるが、それでも非常に七海らしい。
「そうだな、悪くない。俺もお前が教師になる姿を見てみたいと思ってしまった」
想像もしていない進路だったが、結婚どうのの下りは置いといて七海なら教師に向いていないとも思わない。
コイツはハッキリと物を言えるし人にも好かれる。
やる気にさえなれば頭も悪くない。
俺より余程良い教師になるだろう。
「…ビックリしたー。みーちゃんがいきなり笑うとは思いませんでした」
「お前が教師になるなんて笑わずにいられるか。予想外すぎて色々と思考を放棄したのは久しぶりだ」
「えっ、俺とエッチしてる時はみーちゃんわりと色々トんでますけ――」
「お前はそんなに俺に怒られたいのか」
「わー、嘘ですって」
慌てたように取り繕う姿にまた笑ってしまう。
七海の進路にも驚きだったが、コイツがちゃんと俺の話を覚えてくれていた事にも驚きだった。
それどころかどうしたらいいかまでちゃんと考えてくれていた。
その事がなぜだか堪らなく嬉しい。
「みーちゃんが昨日教えてくれたんですよ。今からなら何にでもなれるって」
「ああ、確かにそう言ったな」
ふふ、と機嫌よく表情を緩めると七海はどこか困ったように眉を落とす。
俺を見つめる瞳が先ほどとは代わり、どこか熱を帯びた気がした。
「…もー、ずるいっすよ。そんな笑顔見せられたら堪りません」
「え?」
見上げた俺の顔に影が掛かる。
ハッと息を呑んだと同時、噛みつかれるようなキスをされた。
「――っん」
すぐに唇を割って入ってきた舌が、慣れたように俺の舌を絡め取る。
覆いかぶさるような形で上から唇を重ねられて、突然のキスに瞠目する。
慌てて目の前の身体を押した。
「…だ、ダメだっ」
「ん、だいじょーぶですよ。後ろに植木あってここ見えなくなってますから」
そう言ってまた唇を重ねようとしてきたから、そうじゃないと慌てて近づいてきた唇に自分の手のひらを押し付ける。
「んーっ、何するんすかぁ」
「ち、違う。さっきまで教頭と少し酒を酌み交わしていた」
「え?」
「だからお前は未成年だろう。もしまだアルコールが残っていたら――」
しどろもどろにそう言うと、ぶっと七海が吹き出した。
「なんですかそれ。何の心配してるんですかっ」
「み、未成年の飲酒は法律で禁止されているだろう」
「チューで飲酒にならないでしょ。みーちゃん可愛すぎます」
「――っあ、こら」
手首を取られて、再び唇を塞がれた。
急くようなそれはすぐに深い口付けに変わっていく。
何度されても慣れない感覚に、体温が上がりとろりと目蓋が落ちてしまう。
どうしてこんなに気持ちがいいと思うのだろう。
息継ぎも出来ないほどドロドロに舌を絡め取られて、頭がぼーっとする。
さんざん堪能されてようやく離された唇は、どこかジンと痺れるような感覚を覚えていた。
身体の力が抜けて、もたれかかるように目の前の身体に頭を寄せる。
「…あれ、みーちゃん?」
しっかりと抱きとめてくれたが、少し驚いたような七海の声が落ちてくる。
なんだか頭がクラクラしていた。
さっきまで七海をまた否定しなければならないのかと気を張っていた事や、だがそれを吹き飛ばすような発言のおかげで一気に力が抜けた。
抱きとめられた胸の中で重々しい目蓋がゆっくりと落ちていく。
「…す、すまない。少しだけ…このままで――」
ここ最近の体調不良や睡眠不足、おまけに飲酒も相まって、押し寄せてきた睡魔が一気に俺の意識を遠ざけていった。
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