ドSワンコとクズ眼鏡

うさき

文字の大きさ
上 下
27 / 132

25

しおりを挟む

 翌日の早朝。
 いつも通りの時間に出勤し、職員室で挨拶を交わしてから職員の更衣室ヘ向かう。
 スーツの上着を脱ぎ軽くネクタイを緩ませてからジャージを羽織る。

 これから朝の職員会議が始まるまでの間、校門前でいつも通り仁王立ちして遅刻や校則破りの生徒がいないかと監視を行う予定だ。

「――こ、ここか…っ」

 ハッとして更衣室でキョロキョロと周りを見回す。
 俺以外誰もいなかったが、このタイミングでしか朝に俺の首元を確認できないはずだ。

 神谷はバスケ部の朝練があるため俺より早く来ている。
 今まで更衣室で会うことももちろんあったが、カメラ音が聞こえた記憶など無い。
 思わずどこかに何か仕掛けられているのではないかと右往左往してしまったが、それらしきものは見つからなかった。


 俺の心配など余所に、普段と変わらぬ一日が始まっていく。
 神谷は昨日のことなど無かったような爽やかさで俺に挨拶をしてきた。
 一先ず今まで通りでいてやると言った手前、俺も何事もないように挨拶を返す。
 
 二限目の授業は受け持ちのクラスで、当たり前だが七海と顔を合わせることになる。
 日当たりの良さそうな、窓際の席の前から三番目。

 昨日突き放したこともあってどんな顔をされるのかと少し危惧してしまう。
 ちらりと見たらすぐに目が合って、一度高揚した顔がパアッと向日葵が咲くような笑顔に変わった。

 どうやら今日もアイツの様子は変わらないらしい。
 少しホッとしたが、純粋な子供の視線というのは、大人にとっては時に居心地の悪いこともある。
 昨日の事など感じさせぬような、人の顔一つ見ただけで輝かせる表情に俺は視線を逸らすことしか出来なかった。


「七海、少し良いか」

 授業終了後、気の抜けたような教室の雰囲気の中七海に声を掛ける。
 一瞬で緊迫した空気が教室内に走る。
 
 予想していた光景だが、別に俺が授業後生徒に声を掛ける行動は珍しくない。
 授業態度の悪い生徒にはしょっちゅう授業後に説教している。

 特進科のクラスではあまり見受けられない光景だが、周囲もそう取ったようですぐに視線は背けられた。

「みー…じゃなくて紺野先生っ」

 一度名前で呼びかけたからギロッと睨む。
 七海は慌てたように「大丈夫です」と言って立ち上がった。

 教室を出て渡り廊下を歩き、人気のない実習棟まで来る。
 周囲を見回して警戒していたが、誰もいないと確信するとガシッと七海の手を掴んだ。

「――わっ。どうしたんすか」
「うるさい。いいから入れ」

 実習棟の空き教室に七海を引き入れる。
 左右確認をしてから、すぐにピシャリと扉を閉めた。
 
 さすがに誰にも見られていないはずだ。
 いやその言い方は違う。
 恐らく神谷には見られていないはずだ。

 用心してしっかりと内鍵まで閉めると、キョトンとした様子の七海に詰め寄る。

「おい七海。お前俺との事は誰にも口外していないよな?」
「…は?ど、どうしたんすかいきなり。別に誰にも言ってないっすけど…」
「そうか。間違っても神谷に俺達のことを話したりはするなよ」
「――はぁ?カミヤンと一体何があったんすか」

 そう言われて、思わず視線を彷徨わせる。

 アイツは俺のキスマークの相手を探している様子だったし、七海だと知ったらどんな行動に出るか分からない。
 担任ということもあり、下手をすればコイツの成績に悪影響が出る可能性もある。

「…お前が俺の首に余計な痕をつけるから、神谷に気づかれた」
「あっ、バレました?なんか嬉しーですね」
「お前は俺を怒らせたいのか」
「逆にいつが機嫌いいんですかっ」

 失礼な返しだ。
 俺がいつでもイライラしていると思うなよ。
 とはいえコイツが余計なものを付けるから、知りたくなかった神谷の本性を知ってイライラしているのは事実だ。

「いいか七海、神谷には絶対に言うなよ。絶対にだ」
「え、フリですか?」
「…おい、俺が冗談を言わないのは分かってるよな」
「あー、もうっ。そんな怖い顔しないでくださいよ。心配しなくても言いませんって」

 いつもフザケた態度を取っているやつだから信頼していいのか分からない。
 だがコイツは裏表のない奴だし、一応言わないと言っているので信じておくことにする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

昭和から平成の性的イジメ

ポコたん
BL
バブル期に出てきたチーマーを舞台にしたイジメをテーマにした創作小説です。 内容は実際にあったとされる内容を小説にする為に色付けしています。私自身がチーマーだったり被害者だったわけではないので目撃者などに聞いた事を取り上げています。 実際に被害に遭われた方や目撃者の方がいましたら感想をお願いします。 全2話 チーマーとは 茶髪にしたりピアスをしたりしてゲームセンターやコンビニにグループ(チーム)でたむろしている不良少年。 [補説] 昭和末期から平成初期にかけて目立ち、通行人に因縁をつけて金銭を脅し取ることなどもあった。 東京渋谷センター街が発祥の地という。

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...