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しおりを挟む「うわ、紺野先生機嫌悪そう」
「誰かまた何かしたんだろ。キレ眼鏡」
誰がキレ眼鏡だ。
渡り廊下に座り込んでいた男女にギロリと睨みをきかせると、慌てたように視線を逸らされる。
本来俺なんてこんなもので、わざわざ関わろうとしてくる者などいない。
人の顔見たら大喜びで走り寄ってくるのはアイツだけだ。
普段と打って変わって静かな校舎内を歩きながら、窓から体育館へ視線を向ける。
きっともう試合は始まっているだろう。
アイツの顔が思い浮かんで、押し付けられた唇の感触が蘇ってくる。
が、慌てて首を振った。
試合を見に行くつもりはない。
仕事もあるし、体育館へは寄らず職員室へと戻った。
「紺野先生、うちのクラスのバスケ優勝しましたよ。あとはバレーとテニスなんですけど、どっちも経験者が少なくて――」
午前の部が終わり、昼休みとなる。
中間報告とばかりに神谷が職員室で俺に報告してくるが、バスケ部エースがいればそれはかなり有利な状況だっただろう。
見に来て欲しいと言っていた言葉を無視してしまったことに少しの罪悪感はあるが、優勝したならきっと活躍していたのだろう。
午後も学校内の見回りをしてから、グラウンドへと降りてくる。
グラウンドではバレーをやっていて、急造の白線が引かれたコートを目で追う。
これから午後の試合が始まるところらしく、見ればうちのクラスの生徒が固まっていた。
「あれ、センセー!見に来てくれたんすか?」
ふと視線を向けたら、ブンブンと七海が手を振っていた。
なぜここにいる。
しょげた顔なんてすっかりどこにもなく、いつもと変わらぬ笑顔で俺の元へと走り寄ってくる。
「お前バスケじゃなかったのか」
「球技大会なんで。一人二種目出るんすよ」
「…ああ、そういえば」
あまり関わっていないから忘れていたが、そんな決まりだった。
「見に来てくれてめっちゃ嬉しいですっ。俺先生のために絶対勝ちますね!」
別に見に来たわけじゃないが、太陽のように輝く笑顔で言われる。
さっき俺に怒られたことなどすっかりどこかへ飛んでいっている様子だ。
「…七海はバレーの経験もあるのか?」
「全くないっすよ。ほら、うちのクラスバレー部少ないじゃないっすか。俺背が高いからカミヤンに強制的にバレーに振り分けられたんですよ」
ということはどうやら、初心者らしい。
なぜそこまで自信満々に勝つ気になれる。
「俺のダンクスパイク見ていてくださいね!」
ビシッと俺に断言しながら指を差すと、七海は「じゃ!」と爽やかに走っていった。
どうやらアイツはルールもよく分かっていないらしい。
相手のクラスはどう見てもバレー部レギュラーを引き入れたチームといった様子で、実力の差は歴然としていた。
だがやはり運動神経が良いやつというのは、それなりになんでもこなせるらしい。
最初はよく分かっていないみたいだったが、そのうち慣れてくる。
チームメイトと連携を取りながらボールを上げて、なんとか噛み合ったように鋭いスパイクが決まる。
が、やはり初心者であっさりとまた点を取り返される。
圧倒的に不利な状況だったが、それを埋めるようにありとあらゆる初心者ならではの悪あがきで挑む姿勢は、なんだか見ていて面白みがあった。
なにより本人がこれ以上ないほど楽しそうだ。
――それに。
「ねえねえ、七海くんバレーやってるよー」
「わ、ほんとだー!初めてなのかな。めっちゃ楽しそうで可愛いんだけど」
「何でも一生懸命だよねー!」
アイツは人を惹きつける。
ミスをしても笑いが起き、だがそのままでは終わらせず持ち前の運動神経でそれをカバーしていく。
アイツを中心にチームメイトも和気あいあいと一致団結していて、負けているというのにまだ何かしてやろうという手段を探している。
自然と観客も増え、初心者チームを応援する声が増えていく。
結局散々な結果で負けてしまったが、それでも終わってみればどこか胸が暖まる思いだった。
いつの間にか見回りも忘れて、最後まで見入ってしまっていたことに気付く。
「センセー!負けちゃいました!すんませんっ」
試合後、俺のところに速攻で駆け寄ってきた七海が、バシッと両手を合わせて俺に謝る。
周りの視線ごと連れてきて大注目だったが、別に副担任なのだから問題はない。
「いや、なかなか面白い試合だった。初心者なのに頑張ったな」
「…あっ」
そう言ってやると、驚いたように七海が俺を見つめる。
なんだと目を瞬かせると、これ以上ないほど嬉しそうにくしゃりとした笑顔が向けられた。
「先生、やっと笑ってくれました」
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