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しおりを挟む翌日、午前の授業を終えて廊下を歩く。
数学準備室でいつもどおり飯を食おうと思っていたが、ふと足を止める。
ちょっと待て。
もし七海が来てまた二人きりになったら、今度こそ何をされるか分からない。
俺のが年上だが身長も低いし、毎日部活で鍛えている若い高校生の力に勝てる気はしない。
とはいえ教師という立場上、生徒を避けるなんてことは出来ない。
アイツが間違っている道を歩んでいるなら、俺が正してやらねばならない。
それが教師というものだ。
ともかく二度とアイツには触れないと堅く胸に誓って、再び廊下を歩き出す。
「せーんせ!」
「――うわっ」
聞き覚えのある声とともに、がばっと後ろから抱きしめられた。
七海だ。
俺の誓いが2秒で崩れ去ったどころか、抱きしめついでに耳裏にちゅっと口付けられる。
ゾワッと肌が粟立って、慌てて七海を引き剥がす。
「お、おいっ。お前いい加減にしろ。誰かに見られたらどうする」
「ああ、見られなきゃいいんですね」
「そういう問題じゃない。何度も言っただろう。お前と俺は――」
「あ、説教します?生徒指導室行きますか」
ニコリと笑顔で提案された。
自ら生徒指導室行きを望む生徒なんて前代未聞だ。
やはりこの態度はどう考えても反省していないし、恐らく自分のしたことの愚かさも分かっていない。
コイツとは一度じっくり話をするべきだろう。
「いいだろう。ただし変な真似はするなよ」
「しませんって。反省文とか書けばいいんすか?先生にちゅーしてすみませんでしたって」
「…っ、お前誰かに聞かれたらどうする」
慌ててキョロキョロと周りを見回すが、離れた位置に女子の集団がいるだけだ。
――と、その女子の集団がこっちに気付いて賑やかに手をあげる。
「七海くー…わっ、やば」
俺に気付いたんだろう。
さっと視線を逸してどこかへ歩みを向けてしまった。
「なんだ、お前に用があったみたいだが」
「ああ、別に用はないと思いますよ。俺モテるんでよく話しかけられるんですよね」
なんだその自信過剰な返しは。
じとっと視線を上げたが、いつもと変わらない愛嬌のある顔がニコニコと俺を見下ろしている。
神谷も言っていたが、コイツは確かに人気者らしい。
廊下を一緒に歩いて分かったが、よく名前を呼ばれては愛想良く手を振り返している。
持ち前の人懐っこい性格は誰に対しても変わらないらしく、可愛い、などと口々に女子に持て囃されている。
「…お前モテるなら歳相応に女子と付き合えばいいだろう」
「ああ、俺ゲイなんで女は恋愛対象に入らないんですよね」
「えっ」
わりと衝撃的な事をさらりと言われた。
いや、俺を好きだと言っている時点で納得出来る言葉だが、それにしても同性愛者だったとは。
一般的に当たり前にある感性が人とズレているというのは、それだけで人生苦労するだろう。
七海は気にしていないようにさらりと言ったが、そこに悩みや葛藤が無いなんてことはきっとありえない。
押し黙ってしまった俺に、七海があれ?と顔を覗き込む。
教師とはいえそれを体験したことのない俺が、安易に何か言えるものではない。
「…いや、お前の事をあまり知らなかったな、と思って」
説教をするなら、生徒の事はちゃんと知っておくべきだった。
男であってそれも教師の俺を好きになってしまうということは、恐らく何か事情があってのことなんだろう。
「せんせーって…ほんっと真面目ですね」
至って呑気な七海の声が廊下に響いた。
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