246 / 251
5
しおりを挟む応接室で進行の打ち合わせをした後、すぐに体育館で説明会が始まる。
もっと和やかな雰囲気で話すのかと思えば予想以上に厳正な雰囲気で、なんで俺来たんだっけと場違い感がやばい。
奏志がいるって聞いたからまあいいかと思って来てみたけど、俺や奏志以外の卒業生も公務員だったり若社長だったり弁護士だったりとめちゃくちゃ優秀すぎる。
本気でなんでここに俺がいるのか疑問になってきた。
「梅乃くん、大丈夫?」
コソッと奏志に耳打ちされる。
奏志もどこか俺の顔をチラチラソワソワして落ち着いてないが、こいつの場合緊張している対象は俺であって説明会ではない。
体育館の壇上に卒業生の席を設け、真ん中に置かれた演台で教師が進路指導の説明をしている。
それが終わると一人ずつ演台で話す形になる。
とはいえ俺もそう不器用な方でもないし、就職の時の体験を思い出してそれなりに話す。
思ってたより教師がフォローしてくれた事もあって、変に噛んだりもせず何事もなく話し終えた。
ホッとして席に戻ると、興奮した顔の奏志と目が合う。
「う、梅乃くんすごくかっこよかった…っ。動画取りたかったなぁ」
子供の運動会じゃねーんだよ。
とはいえ褒められれば悪い気はしない。
「お前の助けいらなかったな」
「うんっ。やっぱり梅乃くんはすごいなぁ」
「はいはい。お前の方こそ頑張れよ」
いらない心配だろうがテキトーにそう言ってやったら、王様に勅命を受けた騎士の如くキリッとした顔で頷いていた。
唖然としてしまった。
奏志の進学に関しての演説は、もはやどこぞの大学教授の演説ばりに完璧だった。
淀み無く真っ直ぐに前を見てハキハキと喋る姿勢に、誰もがハッとしたように聞き入っている。
もう今日はお前の講演会かよってレベルで観衆が魅了されている。
奏志じゃないみたいだった。
さっき数学教師と話している時も思ったことだが、コイツはやっぱり凄い。
こういう姿を見る度に、なんでコイツは俺が好きなんだろうと思ってしまう。
アイツの普段の態度で忘れがちだが、俺だけは絶対に忘れちゃいけなかった。
アイツが凄いやつだということ。
あんな優秀な奴を俺が縛っていること。
俺が奏志の当たり前にある未来を奪ってしまっていること――。
自分を悲観して考えてるつもりはないが、こんな姿を見せられると奏志が俺と一緒にいるのがどれほど勿体無い事かを思い知らされる。
最近は二人でいることが多かったから忘れてたが、そりゃ高校の時にあれだけ思い悩むわけだ。
演説を終え何事もなかったように奏志が涼しい顔で席へ戻ってくる。
あまりに堂々とした態度と完璧な演説に、なんだか他人を見ているような気持ちだった。
なんとなく声が掛けづらくて、視線を前に戻す。
説明会が終わって、飯でも食って帰るかと机の上の書類を片付ける。
気付いたら奏志はまた数学教師と話していて、俺の分からん小難しい話でもしてんのかなと目を細める。
が、すぐに戻ってくると、興奮したように赤い顔で口を開いた。
「梅乃くんっ。あのね…っ、見ていいって…あっ、じゃなくて今聞いてね、それで屋上が…じゃなくて一緒がよくって――」
なるほど。
帰る前に学校内を少し見ていいか数学教師に聞いてきて、許可を取ったから一緒に屋上へ行こう、と言いたいらしい。
あれだけ素晴らしい演説をしていたくせになんで俺に対しての日本語はいつも下手なんだ。
「いいよ。行こう」
そう言ってやったら満面の笑顔でギュッと手を握られた。
説明会が終わったとはいえまだ生徒は体育館から出て行く途中で、一応人前なんだが。
それでも本当に嬉しそうに俺を引っ張るから、なんとなく気が抜ける。
さっき思ってしまったことはもう何度も去年思ったことで、俺はそれを乗り越えてコイツといようと決めたはずだ。
今更俺は何グダグダ考えてんだ。
「はぁ…梅乃くんと一番一緒に過ごした場所だよね。どうしよう…き、緊張してきちゃった…」
胸に手を当てて今頃無駄に緊張しているイケメンは、俺の気持ちなんてきっと一生分からないんだろう。
やっぱりただの奏志だ。
0
お気に入りに追加
866
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
俺のソフレは最強らしい。
深川根墨
BL
極度の不眠症である主人公、照国京は誰かに添い寝をしてもらわなければ充分な睡眠を得ることができない身体だった。京は質の良い睡眠を求め、マッチングサイトで出会った女の子と添い寝フレンド契約を結び、暮らしていた。
そんなある日ソフレを失い困り果てる京だったが、ガタイの良い泥棒──ゼロが部屋に侵入してきた!
え⁉︎ 何でベランダから⁉︎ この部屋六階なんやけど⁉︎
紆余曲折あり、ゼロとソフレ関係になった京。生活力無しのゼロとの生活は意外に順調だったが、どうやらゼロには大きな秘密があるようで……。
ノンケ素直な関西弁 × 寡黙で屈強な泥棒(?)
※処女作です。拙い点が多いかと思いますが、よろしくお願いします。
※エロ少しあります……ちょびっとです。
※流血、暴力シーン有りです。お気をつけください。
2022/02/25 本編完結しました。ありがとうございました。あと番外編SS数話投稿します。
2022/03/01 完結しました。皆さんありがとうございました。
侯爵令息、はじめての婚約破棄
muku
BL
侯爵家三男のエヴァンは、家庭教師で魔術師のフィアリスと恋仲であった。
身分違いでありながらも両想いで楽しい日々を送っていた中、男爵令嬢ティリシアが、エヴァンと自分は婚約する予定だと言い始める。
ごたごたの末にティリシアは相思相愛のエヴァンとフィアリスを応援し始めるが、今度は尻込みしたフィアリスがエヴァンとティリシアが結婚するべきではと迷い始めてしまう。
両想い師弟の、両想いを確かめるための面倒くさい戦いが、ここに幕を開ける。
※全年齢向け作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる