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しおりを挟む「別に俺は休みだから何でもいいよ。それよりヒビヤンいつまでこっちいんの」
「決めてねえ。適当に気が済んだら帰る」
「――えっ…き、気が済まなかったら…」
「マジ?じゃあ久々にアレやりたい。ヒビヤンいないと出来ねーんだよな」
「あー、アレな」
「――えっ、えっ。アレ?ちょっとっ」
さっきから奏志が煩い。
会話するごとにやたらチョロチョロと俺達の間に割って入ってくるが、別にヒビヤンなんかもう飽きるほど見てるだろ。
今更騒ぐモンでもねーし、それに久々の再会だ。
少しくらい落ち着いて話をさせろ。
「高瀬は社会人生活どうよ?スーツ着ちゃってんの?」
「着ちゃってるよ。気遣いという縦社会に揉まれ始めてるかもしれない」
「マジかよ笑えるな。でもお前なんだかんだ空気読める奴だしうまくやってんだろ」
ニシシと高校時代と変わらない笑顔でヒビヤンが笑う。
たった1ヶ月しか経ってないのに、なんだか懐かしさを覚えてしまう。
「ヒビヤンが後ろでつまんねーことぼやいてた授業中が懐かしいわ」
「数学教師に毎度怒られてたけどな」
「俺がな」
思い出したくもないウザ眼鏡教師のことはどうでもいい。
それより久しぶりだし、せっかくこっち来たならどこか行くかと提案してみる。
「別にこっちには三年間いたし今更観光もクソもねーよ。お前の顔見に来ただけだし」
「ちょっと…っ!やっぱり危険だよっ」
主夫らしくヒビヤンにお茶を置こうとしてた奏志の手が動揺に揺れる。
熱いお茶が跳ねて奏志の手を濡らしそうになったから、ハッとして声を上げる。
「――奏志、危ない」
咄嗟にその手を掴み上げて、お茶は机に水溜りを作る程度に留まった。
ホッとしてからふとヒビヤンに顔を向けたら、ニヤニヤとした視線と目が合う。
「へえ、奏志、ねえ。へー」
これは間違いなく、俺が苛立つ展開だ。
「俺らも付き合い長いし、俺のことも忍って呼んでくれて良いぞ?」
大真面目で言っているようでどこか見下げた視線が俺を捉える。
間違いなくからかっているのが分かっているから、ピキピキと血管作りつつ「呼ばねえよ」と返す。
というかヒビヤン下の名前忍って言うんだっけ。
そういや出席確認の時にそんな名前の奴俺の後ろにいたなと思い出す。
そしてそんな俺達のやり取りを余所に、奏志はあいかわらず余裕の無い顔でハラハラと挙動不審にしている。
「それより本当にどこか行きたいところないのかよ」
「おー。GWなんてどこも混んでるしな」
「つかお前こそ向こうに戻ってどうなんだよ」
「別に。親父にブチ切れられて学校変えさせられそうになった以外は何も」
「すげえ濃い内容だなおい」
相変わらずさらっとしているようで、内面に爆弾抱えている奴だ。
そもそも聞いて無かったがヒビヤンが通う専門学校とはなんだろう。
「つかヒビヤン医者になればいいじゃん。俺に手当てしてくれたのカッコ良かったし」
「手当て…?カッコよ…っ!?」
何か奏志が言った気がしたが、もう面倒なので気のせいということにしておこう。
「あれくらいで医者になれるわけねーだろ。高瀬が考えてる100倍は勉強しないと医者になれないっつの」
「マジかよ。コネだけでなれるようなモンじゃねーんだな」
「ぶっちゃけコネも大事だけどな」
当然だが、俺の考えられる知識なんかこの程度だ。
そもそもなろうと思っているならヒビヤンだってアホじゃないし、きっと目指しているだろう。
「あ、じゃあせっかくだし友達呼んで飯でも食いに行くか」
元クラスメイトに声掛けても良い。
こっちでの生活を久々の連中と和気あいあいと楽しむのもアリかなと提案してみたが、ちらりとヒビヤンが奏志に視線を向ける。
もう挙動不審はやめたらしく、いつの間にかお前は看守かという態度で奏志はヒビヤンの一挙一動を見張っている。
朝の行動のせいもあって、ヒビヤンへの警戒ゲージが振り切ってしまったんだろう。
どんだけ信用ねーんだ。
「なら真島もいるし、知ってる奴らに声掛けてみるか」
言われて共通して思い出すのは貞男と七海だ。
それには奏志も乗り気になったようで、その提案に乗って連絡を取り始める。
貞男も七海も卒業式以来で、まあ七海は変わらず高校生活を送っているだろうが貞男の大学生活はどうなっているのか少し気になる。
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