ベタボレプリンス

うさき

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 いよいよ受験本番を迎える。
 進学希望でない俺にはどういう仕組みなのかよく分かってないが、センター試験が終わってもしばらく受験戦争は続くらしい。
 
 俺が受験するわけじゃないのに、なんだか心臓が痛かった。
 自分が就職試験の時、真島が俺より深刻な顔をしていたのを思い出す。
 俺はいつのまに真島化していたんだ。
 
「まあ見守ってやろうぜ」

 ヒビヤンに後ろから声を掛けられて、顔を振り向かせる。
 真島のこともそうだが、ヒビヤンとも卒業式までだ。
 そう考えると、全くなんとも思っていなかったのに物凄く離れがたい気持ちになる。
 
「ん?どうした」

 ニコニコとヒビヤンは気にしていないように頬杖をついて笑う。

 いや、全くなんとも思ってなかったなんてのは、嘘だ。
 俺の中でコイツは間違いなくただの後ろの席の奴じゃなく友人だった。

 腹立つことも殴ったろかと思うこともしばいたろかと思うこともあったが、それでもコイツは俺の中で大事な奴の一人だった。

「高瀬、最後にお前に教えといてやる」
「――え?」

 ドキリと心臓が音を立てる。
 また俺の覚悟を揺らがせるような事を言うんだろうか。

 ヒビヤンはスッと指を差し示す。

 その指の先で、数学教師が高校生活最後の説教をするべく俺を見下ろしていた。




「せーんぱい」

 この声は七海だ。
 
 放課後、昇降口で帰ろうとする俺を呼び止めて、七海は俺の元へ駆けて来た。
 
「これから帰るんすか?暇っすか?行きましょう」

 もう俺を引っ張ることは決めていたらしい。
 手首を取って、ぐいぐいと連れていかれる。

「なんだよ。セクハラすんじゃねーぞ」
「するなら俺んちに泊まった時にしてますよ」

 確かに。

 ものすごく説得力のある言葉と共に連れてかれた先はバスケ部の部室で、そこそこ広さのあるそこは独特の運動部の匂いがした。
 所狭しと置かれたロッカーと、真ん中に置かれたベンチ。
 真島はここを三年間使ってたんだな、と思いながら見回してしまう。

「七海くん、もうすぐ試合始まっちゃうよ?」
「あー、梅野さん、ちょい待って」

 自分の名前を呼ばれたのかと思って目を瞬いたが、ふと入り口を見たらいつぞやの一年マネージャーがいた。
 俺を見て、ペコっとお辞儀をする。相変わらず可愛い。

「あ、真島先輩の…」
「そー、彼女。あ、あった。これこれ」

 聞き捨てならないことをさらっと七海が言って、それからロッカーから何か出して持ってきた。
 ほいと手を向けられて、反射的に受け取ろうと手を差し出す。

「――えっ」

 そこに出てきたものに目を見開いた。

「あー、やっぱり同じ物だ。高瀬先輩いつもそれしてるから、そうかなって思ってたんすよね。これ真島先輩のですよね?」
「お前これ…」
「いつだったか体育館に落ちてたんすよ。部員のだと思ってたんですけど誰もいなくて、まあこういうのって勝手に捨てづらいからなんとなくロッカーにいれてたら忘れてて」

 七海に渡されたのは、俺の手首にある物と全く同じもの。
 切れてなくなったはずの真島のミサンガだった。
 真島が探す前にコイツが拾ってたのか。

「ね、先輩。練習試合これからやるんですけど、見てってくれます?」

 屈託のない笑顔に誘われる。
 俺は真島のミサンガを一度見つめてから、しっかりと握りしめる。
 それから七海にくしゃりと笑い返した。

「そうだな、真島の代わりに見ていくよ」

 七海の試合もきっとこれで見納めだろう。

 変態で、バカ正直で、やっぱり変態な奴だが、コイツは真島の大事な後輩だ。
 アイツがいない今、至らないが真島の大切な存在である俺が代わりに見ていくことは、真島を憧れに思っている七海にとってもきっと大事な事だろう。
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