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しおりを挟む結局いろんな事を試してみたがいまいち真島に不審感しか与える事が出来ないまま終業式が訪れて、冬休みになる。
いよいよ年が明けたらセンター試験だ。
きっと受験生には今が一番つらい所だろう。
俺はせめて真島からのメッセはすぐ返してやるようにしたが、それすらもどうしたのと逆に聞かれる。
きっともう余計なことはしないほうがいいだろう。
俺のいつもと違う行動が真島の不安を煽って、受験勉強に支障をきたしていたら本末転倒だ。
一週間の冬季合宿に参加するという真島に前日会いたいと言われ、一つ返事で了承する。
俺が会いに行くと言ったが、塾終わりで真っ暗な夜道を絶対に歩かせたくないと言われてしまった。
どちらかといったら危ないのはみんなのアイドル真島の方だと思うんだが。
普通にストーカーとかいそうだ。
とっぷり日も暮れた頃、インターホンが鳴った。
すぐに扉を開けると、ふわっという風と共に終業式以来の真島の香りがした。
数日ぶりの真島の顔はさすがに試験前の受験生といった感じで、目の下に隈ができている。
明日から合宿始まるのに大丈夫か。
「高瀬くん」
思わずはっと見惚れて立ち尽くす。
久しぶりの真島の視線が俺をどこまでも愛しげに見つめていて、心臓がどうしようもなく高鳴る。
ドキドキすることしか出来ないなんて、なんてもどかしいんだろう。
「触らせて」
言いながらすぐに手を伸ばしてきて、抱き締められた。
限界まで頑張ってきて、まるで俺をご褒美と決めていたような仕草。
「はぁ…高瀬くんだ」
何度も頬擦りされて、いっぱいに匂いを嗅がれる。
匂い嗅がれるとか毎回恥ずかしすぎるんだが、さすがに今は文句を言わず真島の好きにさせてやる。
それでもどことなくあの骨が折れるほどの力はなく、もたれ掛かるような抱き締め方だ。
「…大丈夫か?疲れてるだろ」
「ううん。高瀬くんに会えたのが嬉しくて…もうそれだけで充分」
ちゅ、ちゅと頬に、額に、髪の毛に、愛しげに唇を押し付けられる。
久しぶりの真島に俺の方も思考停止してしまう。
ただ真島だ、と抱き締められた胸の中で与えられる愛情にひたすら蕩けてしまう。
「…あれ、高瀬くん少しカレーの匂いがする」
「…え、ああ。そう、お前の分作っといた」
「――えっ」
真島が俺を離して目をまん丸にさせる。
真島が来たら飯を作るとか言い出しそうだったから、先手を打って先に作っておいてやった。
慣れない料理だったがスマホで検索しながらカレーを作った。
何の変哲もないただのカレーだが、自分的にはそこそこ上出来だと思う。
「ゆっ…指とか切ってないかな…っ、火傷もしてない?」
慌てたように手を持ち上げられる。
俺はどんなドジっ子だ。
砂糖と取り違えて塩入れるだとか、料理終わってみれば指が絆創膏だらけだとか、俺に限ってそんな事ありえねーんだよ。
真島を家に引き入れて、何もすんなと命令してテーブルの前に座らせる。
なんだかソワソワ落ち着かない真島と一緒に飯を食うことにした。
「どうだ、美味いか?」
「お…おいしいよ…。高瀬くんが作ってくれたものがおいしくないわけがないよ…っ」
真島は子供が初めて親のために作ってくれた料理かよというレベルに感動しながら食っていた。
若干また何があったと心配されたが、少しは喜ばせてやれたかなと安心する。
食器洗いをするという真島を制して片付けをしていたが、どうしても落ち着かないらしく結局手伝われた。
「す、少しでも高瀬くんを見てたいんだよ。会えてすごく嬉しくて」
真島はそう言って皿を拭きながら、隣でニコニコと表情を緩ませる。
夢心地のような、トロンとした視線に見つめられる。
――と、ツルッと真島の手元から食器が滑り落ちた。
咄嗟に俺は手を伸ばしてそれを受け止める。
危ない。
「わっ!ごめんなさい。け、怪我してない?」
「別に割れてねーし。それよりお前――」
「ご、ごめんね。気をつけるね」
言いかけたが真島がアワアワとテンパっているせいで遮られる。
まあいいかと残りの片付けをさくっと終わらせて、リビングに戻る。
俺はしょっちゅう自分が寝こけているソファに腰掛けると真島を呼んだ。
「ほら、おいで」
「――えっ」
俺の言葉に真島が驚いた顔をしたが、一瞬でぴょんと飛んでくる。
そのまま抱きつこうとしたから、そうじゃないとソファに寝転ぶように促した。
「えっ?え?」
「そう、頭はここな」
「――えっ!?」
驚きまくっている真島にいいからと指示して、横にさせる。
そして頭は俺の膝の上へ。
真島の顔がもう真っ赤に染まっている。
「こ、これ…」
「うん。寝ていいよ。お前疲れてんだろ」
「せ、せっかく高瀬くんと一緒にいるのに寝るなんて勿体ないよ…っ」
「はいはい、いい子だから寝ような」
付き合いたての頃何度か昼休みにさせてもらった膝枕。逆は始めてだ。
まさか俺が真島に膝枕をしてやる気になる日が来るとは。
さっき食器落としそうになって気付いたが、真島はたぶん眠いんじゃないだろうか。
目の下の隈からお疲れだとは思っていたが、飯を食ったことによって余計に眠気がきてしまったんだろう。
「た、高瀬くん…寝たくないよ…」
真島の手が俺の頬に伸びる。
赤い顔だがその瞳はどこか虚ろで、よく見たら本当に眠そうだ。
「大丈夫。時間になったら起こしてやるし、起きるまでずっとこうしててやるから。安心して寝とけ」
「う…で、でも」
どこか泣きそうな顔になって、クスリと表情を緩ませる。
なんだか眠い時にグズる子供みたいだ。
「…あのね。高瀬くんが…最近すごくたくさんの『嬉しい』をくれるから…。俺…幸せすぎて」
「――え」
心配ばかりしてるのかと思ってたが、ちゃんと届いていたらしい。
真島が変に疑ったりしていなかったことに、安心する。
真島は俺の手を取ってキュッと握った。
「…だけどね、幸せすぎて怖い。怖いよ…一緒にいたい。大好きだよ」
心臓が痛くなる。
突き刺すような痛みが胸を襲ったが、俺は真島をあやすように微笑んだまま手を握っていてやった。
真島は少し甘えてグズった後、すっと寝てしまった。
本当に疲れていたんだろう。
ここ最近は気持ちを押し付けることをしなかったのに、疲れて弱気になったのか本音がでてしまったらしい。
真島の寝顔を見下ろしながら、しっかりと握りしめられた手はそのままに、もう片方の手を髪の毛へと滑らせる。
真島が寝てるから、これはセーフだ。
なんて勝手に言い訳を心の中でしながら、起こさないように真島に触れる。
どうしようもなく、心臓が震えた。
――怖い。
この温もりを失うのが、真島を失うのが怖い。
真島がいなくなった後、俺はどうやって生きていくんだろう。
想像もつかない。
こんなに愛情を貰って、こんなに大事にしてくれる人を手放して、俺は耐えられるんだろうか。
ぽたりと真島の頬に雫が落ちる。
いけない、と慌てて涙を拭う。
それでも俺は、真島を幸せにしたい。
こんなに頑張っている奴が、俺みたいな奴と一緒にいるのは本当に勿体無い。
俺は真島のことが大好きで、心の底から真島を尊敬していた。
卒業式まで残り、3ヶ月。
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