172 / 251
159
しおりを挟む「――っ」
翌日、昼休みに俺の元へ来た真島は案の定絶句していた。
みるみるうちにその顔が真っ青になって瞳に涙が溜まっていったので、慌てて屋上へと引っ張る。
「お前授業は――」
「そんなのどうだっていいっ。どうしたの。何があったの?」
触れるか触れないかの距離で、真島が俺の頬に手を伸ばす。
俺の百倍は痛々しい顔をした真島が、自分の事のようにぼろりと涙を零す。
ああくそ、いちいち泣くな。
俺の事なんかで、もう涙流すな。
「…こ、転んだ」
「ええっ!も、もう絶対一人で歩かないでっ。俺朝も夜も全部送り迎えするから…っ!」
どう考えても無理な言い訳だが、コイツが俺バカで良かったと心底思う。
相手がいるなんて言ったら、真島が何しでかすか分かったもんじゃない。
真っ青な顔で俺の言葉を信じて心配する真島は、どうして今まで送り迎えしなかったんだろうと頭を抱えて後悔しているレベルだ。
コイツは本当に俺の言葉を、一つたりとも信じて疑わない。
それが良いことなのか悪いことなのかは置いといても、俺を疑うという選択肢がまずないらしい。
本当はお前のことで殴り合いしたんだ、なんて言ったら真島は気絶するんじゃないだろうか。
「ああいや、マジで送り迎えとかすんなよ。過剰に心配して付いてきたら怒るからな」
「嫌だよ…っ。こんな姿見せられて心配しないほうが無理だよ…。もうどこにも行かないでっ」
真島は震える手で俺の頬にそっと触れる。
なんだかともすれば閉じ込められてしまいそうだ。
真島の過保護っぷりが更に成長を遂げそうで怖いんだが。
そういえば貞男は一体真島にどんな言い訳をしたんだろう。
真島は同じように貞男に触れて、心配したんだろうか。
「…高瀬くん。お願いだから、もう俺の目の届かないところにいかないで」
「いやそれは無理だろ」
「う…でも胸が苦しいよ。高瀬くんを見ていないと、不安でしょうがないよ」
真島は俺に言い聞かせるように、お願い、とキュッと手を握ってきた。
お願いされたって無理なもんは無理だ。
本当は今すぐ抱き締めたいのを堪えているようで、俺の身体を心配しているんだろう。
すぐ鼻の先でふわりと真島の香りを感じて、無性に触りたくなってしまう。
その背に両手を回して、大丈夫だと、心配すんなとたくさん甘えて安心させてやりたくなる。
「すごく大事なんだよ。高瀬くんの身体を、簡単に傷つけたりしないで」
「…大袈裟なんだよ。これくらいすぐ治るし」
「うん。うん、そうだといいね。すぐ治るといいね…」
真島は切なげに息をもらして、俺の頬から目元へ、耳へと愛おしげに指先を滑らせる。
大事にされている事を、強制的に覚え込ませるような仕草。
「…高瀬くん、痛くない?何か辛い事があったら言ってね。俺なんでもするからね」
耳を震わせるような優しい声音に、心臓が熱くなる。
コイツはこんな少しの触れ合いでも、簡単に俺の心をぐずぐずにする。
真島の過剰なまでの愛情を、身体が既に心地の良い感覚として覚えてしまっている。
目の前の形の良い唇を見上げて、キスしたい、なんて思ってしまった。
なんでもしてくれるなら、今は真島の唇が欲しい。
きっと俺は今、無意識に酷く物欲しそうな顔をしてしまっている。
「……っ」
真島がハッとしたように息を飲んで、顔を赤くさせる。
伸びてきた指先が俺の唇を優しくなぞり、心の内がバレてしまったのかと思った。
確かめるようにふに、と押され、唇の割れ目に指を立てられる。
素直に唇を開けて受け入れ、真島の指先を口に含む。
入り込んできた指先が俺の舌を優しくなぞり、浅く舌先をくすぐられて背筋が堪らなくゾクゾクとした。
真島の視線が釘付けになったように俺の唇を見つめて、色気を含んだ視線に頭が痺れる。
「…っごめん」
指を引き抜かれて、すぐにキスされた。
押し付けるだけの優しいキス。
それからコツンと額を合わせられて、熱に浮かされたような視線で見つめられる。
「…ご、ごめんね、嫌だったかな。痛くないかな」
こんな近い位置で甘く囁かれたら、頭が蕩けてしまう。
もっと欲しいと、こんなんじゃ全然足りないと強請りたくなる。
回らない頭で「大丈夫」と呟いた言葉は予想外に熱を持って掠れてしまったが、良かったと合わせた額をゆるく擦られた。
「嫌なことあったら、すぐ言ってね。…その、何か隠したりしないでね」
貞男の言葉通り、おそらく真島もここ最近俺が触れようとしない事を、どこか感じ取ってしまっているんだろう。
だけどそれでいい。
直接口に出しては言えないから、こうやって少しずつ真島も俺の気持ちに気付いて、離れる覚悟をしていってほしい。
卒業式まで、あと5ヶ月。
時間はどんどん過ぎていく。
7
お気に入りに追加
866
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
侯爵令息、はじめての婚約破棄
muku
BL
侯爵家三男のエヴァンは、家庭教師で魔術師のフィアリスと恋仲であった。
身分違いでありながらも両想いで楽しい日々を送っていた中、男爵令嬢ティリシアが、エヴァンと自分は婚約する予定だと言い始める。
ごたごたの末にティリシアは相思相愛のエヴァンとフィアリスを応援し始めるが、今度は尻込みしたフィアリスがエヴァンとティリシアが結婚するべきではと迷い始めてしまう。
両想い師弟の、両想いを確かめるための面倒くさい戦いが、ここに幕を開ける。
※全年齢向け作品です。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる