ベタボレプリンス

うさき

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 夏休みが終わり、今日から9月となる。
 卒業式まで、あと半年。

 俺はこの辺りから、真島に対しての気持ちを整理し始めることを決めていた。
 夏休みの終わりに、これで最後と決めてたくさん真島に甘えてしまった。
 甘えすぎて気持ちを伝えてしまいそうになった。
 もう一度気を引き締めないといけない。
 出来ることから、少しずつ気持ちの整理をつけていく。

「高瀬くん、はい、お弁当だよ」
「おー、なんか弁当久々だな」

 昼休み。
 真島から貰う弁当は一ヶ月ちょいぶりだ。
 開けたら幕の内弁当かよと言うレベルに種類豊富なおかずが詰まっていた。
 試行錯誤の末、学食レベルの低価格でご提供しているというんだから、コイツは料理どころか商売の才能もある。

「うわ、すげーうまい。天才かよ。お前のメシ超好き」

 パクパクと掻き込みながら弁当を食う。
 卒業したらこの飯が食えなくなってしまうのかと思うと、心の底から辛すぎる。

「――ほ、ほんと?俺も高瀬くんが大好きだよっ」

 真島が嬉しそうに俺の隣で、キラキラした顔で笑う。
 なんかコイツの中で俺の台詞が一つ飛ばされている気がするんだが。
 飯の部分をちゃんと拾ってくれ。

「いっぱい噛んで食べてね。食べやすいようにスープも作ってきたよ」

 言いながら小さめのスープジャーを取り出して俺に手渡してくれる。
 それにしても真島の過保護さは、夏休み中に更に悪化してしまっている。
 とはいえ俺もされるのが当たり前になってしまっている部分もあって、口の端についたご飯粒を取られようが、それを真島が口にいれようが、今さらもう気にしない。

 ご飯を食べ終えたらいつもどおり真島が淹れてくれた茶を飲んで、まったりと過ごす。
 
「あの…手、握ってもいい?」
「いいよ」

 真島は勝手に俺の手を取って嬉しそうに指を絡ませる。
 コイツは分かってるんだろうか。
 卒業まで半年を切っていることを。
 こんなに俺の事が大好きなままで、コイツは大丈夫なんだろうか。

『――例え高瀬くんが俺を好きになってくれなくても、俺はずっと高瀬くんを好きでいるからね』

 夏休みの夜、真島が泣きながら言った言葉。
 そんなことがありえるはずない。
 そんなのは、今だから言える言葉だ。

 ありえないとは分かっているが、それでもどうしようもなく嬉しかった。
 俺のことを忘れないで欲しい、ずっと好きでいて欲しいと思う気持ちが、こんなにも自分の中にあったんだって思い知らされた。
 だけどそれと同じくらい、もしそうなってしまったら困るという気持ちもある。
 
 もしも真島が、俺のことを忘れられなかったら――。

「た、高瀬くん。ちょっとだけ…抱きしめてもいい?」
「…いいよ」

 エスカレートしてしまう気持ちを抑えられないんだろう。
 真島にぎゅっと抱き締められて、だけどその背に手は回さない。
 こうやって、少しずつ真島から離れるための努力をしていくことに決めた。
 真島と付き合うことは約束だから、もちろん真島の要望には出来るだけ答えてやるつもりだが。

「あの…ちょっとだけキスしても…いい?」
「…お前な」

 コイツは俺のそんな些細な行動なんか、どうせすぐには気付かないだろう。
 俺は一つ息を吐き出すと、顔をあげて目を閉じてやった。
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