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しおりを挟む「――先輩?おーい、高瀬先輩」
コクリ、コクリと意識が遠のく。
いけない、と思いながら七海の声に耳を傾ける。
無理矢理のように七海に大盛り牛丼を食わされた後、真島の格好良かったエピソード集を聞かされていたが俺は眠くなってしまった。
さすがにここのところ昼間忙しかったわりには夜遊びまくってたし、飯もたいして食ってなかったところにいきなりガッツリ食わされたこともあって、なんだか急激な睡魔に襲われてしまった。
「眠そうですね。帰りましょうか」
「…んー」
帰りたくない。
帰ったらまたあの虚しさに襲われるのか。
真島がいなくなった時の事を考えれば、予行練習じゃないがいまのうちに慣れておくべきだとは思う。
だが気持ちは進まない。
俺の理性とは反対に、身体が一人になることを拒否しているようだ。
カウンター席で隣に座ってる七海のシャツを掴む。
もう少し話を聞くから、という意思表示だったが、七海は不意に俺の髪を撫でた。
「…先輩、可愛すぎですよ。誰相手にしてるか分かってます?」
どこか苦笑した声が落ちてくる。
だが俺は何を言うでもなく、眠気でぼーっとする頭を俯かせる。
こんなに酷い夏休みは初めてだ。
学生生活最後の夏休みだと言うのに、ちっとも楽しくなかった。
真島と会えないことが、こんなにも自分をぐだぐだにしてしまうなんて思わなかった。
人を好きになることが、こんなにも自分の全てを変えてしまうなんて知らなかった。
真島に想いを隠すと決めた日から、ずっと突き刺すような酷い胸の痛みを隠してきた。
隠してこれたのは真島が近くにいたからで、つらい気持ちは幸せな気持ちで上塗り出来た。
だがここに来て真島と会えなくなったことで、一気に弱い所がボロをだすように俺を蝕む。
このままの俺じゃまずい。
きっとこのままいったら俺は、卒業式に真島に別れを告げてやることが出来ない。
「先輩、送りますよ。このままじゃ真島先輩と二度と話出来なくなりそうなんで――」
七海の声が遠くに聞こえる。
コツンとその腕に額を寄せると、カクリと頭が落ちる。
そのまま俺は深い眠りに落ちてしまった。
は、と気付いた時は知らないベッドの上にいた。
身体を起こそうとして、隣に人の気配を感じる。
「――っうわあ!」
七海が思いっきり隣で寝てた。
思わず後ずさって、後ろの壁にゴツンと頭をぶつける。
くっそ痛い。
「あ?なんすか凄い音だして…」
若干半泣きになりながら頭を抑えていたら、七海がもぞっと毛布から顔をあげる。
「お、お前っ…変態!」
「残念ながら何もしてませんよ。一言目に変態って酷くないですか」
「な、何もしてないって本当だろうな」
「本当ですよ。ケツ痛くないでしょう?」
言われてみれば、確かにケツは痛くない。
ってなんで俺が掘られる側決定なんだ。
「先輩送ろうとしたら寝ちゃうんですもん。お持ち帰りするしかないじゃないですか」
「変な言い方すんな。…でもそうか、悪い。疲れてたのかも」
「あんまり寝てなかったんじゃないですか?揺すっても何しても全然起きませんでしたよ」
何してもって何をしたんだ。と思いつつ額に手を当てて息を吐き出す。
マジで何をやってるんだ俺は。
確かに最近夜遊びしてたのもあるが、それじゃなくてもいまいち寝れていなかった。
「…お前俺を背負って帰ってきたのかよ」
「もちろんお姫様抱っこで」
「うわあ…死にてえ」
「噓ですよ。駅から俺んち近いんで」
ああ、そういやコイツ帰り道だったな。
ふと気付いてスマホを探す。
今何時だろう。窓の外がうっすらと明るくなっていることから察するに、明け方といったところか。
「先輩」
七海の声を隣に聞きながら、ベッドの上の棚に置いてあったスマホを見つける。
「正直俺、睡姦プレイ嫌いじゃないですよ」
「――はっ?何言ってんのお前」
突然の性癖暴露とかやめろ。
思わずじろりと目を細めて見たが、七海は真面目な顔だった。
「ついでにいうと泣かれるとくっそ萌え上がります。ド直球にヤバいです」
いやマジで聞いてないんだが。
アホだろと思いながら伸ばしたスマホを手に取る。
だが同時に、七海の手が顔に伸びてきた。
うわっ、と思って目を瞑ったら、その指先が優しく俺の目元を擦る。
「…真島先輩とちゃんと話した方がいいんじゃないですかね。先輩、もしかして色々と限界なんじゃないですか?」
驚きに見開いた目から、なぜか一筋の涙が溢れた。
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