ベタボレプリンス

うさき

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「え、夏祭り?」
「そうそう、お祭りがあるの。みんなで一緒に行こうよ」

 ここ最近のメンバーと駅前のチェーン店で飯を食いながら、そういえばと視線を持ち上げる。
 去年は真島に女子二人とで行ったな。
 祭りは来週の土曜にあるらしく、真島が帰ってくるのはその翌日の日曜日だ。
 今年は一緒に行けないなと少し残念な気持ちになりつつ、いいよと一つ返事で返しておく。
 
「ここで電撃発表ー!俺ら付き合うことにしたから」
「え、マジで?」
「えーっ、いつの間に」

 そしていつの間にかメンバー内にカップルが誕生していた。
 それはおめでとうと盛り上がる。
 夏休みなんてこんな風に出会って付き合ってバカ騒ぎして、と過ごすのが俺の中で当たり前だった。
 今まではこれで満足していて、実際そこそこには楽しかった。
 
 なんだろう。
 だけど今は何か物足りない。
 
 いくら騒いでも笑っても、真島の顔が頭にちらつく。
 気を紛らわせるためにここに来ているのに、余計にアイツのことが気になる。
 けど一人になったらもっと気に病むのかと思うと、帰る気にもなれない。


 店を出て少しの雑談のあと、ゲーセンでも行こうかという話になった。
 明日も朝からバイトだったが、まあいいかと俺も行くことにする。

「――え、高瀬先輩?」

 不意に聞き覚えのある声に振り向けば、七海がいた。
 ジャージにスポーツバッグを下げた姿は、どうやら部活帰りらしい。

「えー、誰。うめのんの友達?イケメンー」

 女子がゲイだともしらずに色めきだつ。
 同じ学校じゃないから七海のことは知らないんだよな。
 真島の事は知ってるが。

 俺は先に行けと集団に促して、七海の元へ歩み寄る。
 
「部活帰りかよ。遅いな」
「大会近いんで。それより先輩こそ何やってるんですか」
「え、遊んでるけど」
「真島先輩は?よくこんな時間まで女と遊ぶの許してますね」
「あいつは俺の親かよ。別に女と二人でもねーし、他の男もいんだろ。夏休み始まってからずっとこんなんだし…」

 言いながら、ふわあと欠伸をする。
 バイトや連日の遊び、それにこのうだるような暑さで少し疲れているのかも知れない。
 特に気にするでもなくそう言った俺に、七海は少し目を見開く。

「俺は嫌です」
「――は?」

 いきなり何言ってんだコイツ。
 お前が嫌だからなんだっつーんだ。

「真島先輩放任主義ですか?こんな時間まで毎日男女が一緒にいて、いいことなんかありませんよ」
「いや別にただの友達だし、そもそも俺はその気ねーし」
「相手は分からないでしょう。高瀬先輩それなりに付き合ってきてるんだから、そんなことないとは言わせませんよ」

 思いがけず強い口調の七海に少し驚く。
 何だコイツ、俺に説教でもしようとしてんのかよ。

「お前に関係ねーだろ。ほっとけよ」
「放っておけませんよ。真島先輩がそんななら俺が遠慮してる意味ないじゃないですか」
「お前のどこが遠慮してんだよ」

 会えば抱きついてくるわキスしようとしてくるわで、余裕でセクハラしまくってんじゃねーか。
 とはいえ下手に煽ってもコイツ単細胞だからムキになるだけだ。
 俺は少し落ち着いて頭を巡らせる。
 
「ああ、今真島いねーんだよ。勉強合宿中。だからアイツが放任主義とかそういうんじゃねーの。あいつらとつるんでるのもただの暇潰しだし」
「…え、なんですかそれ。先輩寂しいんですか?」

 ギクリとする。
 最後の一言は余計だったか。
 俺の様子を見て取ったのか、七海はニコリと俺に屈託のない笑顔を向ける。
 コイツの純粋な笑顔には、正直嫌な予感しかしない。
 
「それなら俺でもいいですよね」
「――は?」
「俺メシまだなんすよ。先輩付き合ってください」
「ふざけんな。俺は今ファミレス行ってきたところだし、これから友達とゲーセン行くんだよ」

 とはいえドリンクバー一つでグダグダしてただけだが。
 非常に迷惑な金無し高校生集団のいい例だ。

「別に先輩一人いなくなったって大人数だから大丈夫でしょ。それになんか――」

 七海が不意に黙って俺を見下ろす。
 人の身体を観察するような視線の直後、ガシッと腰を両手で掴まれた。
 いきなり何セクハラかましてんだコイツ。
 慌てて七海の身体を押しのける。

「ああやっぱり。なんか先輩痩せました?元々細いのにどうすんですか、これ以上痩せて。ちゃんと飯食ってます?」
「食ってるよ。もういいだろ。お前といるのが一番真島が心配すんだよ」

 ぶっちゃけ七海といるのは、真島は全く気にしない。
 コイツ一番危ないのになぜだ。
 なぜか真島は七海を無警戒で、ただの可愛い後輩だと思っている。
 いつだって目の敵にするのは全く警戒する必要のないヒビヤンだ。

「何もしませんって。飯食うだけですよ。さ、行きましょう」

 ガシッと手首を掴まれて引っ張られる。
 俺が七海の力に勝てるはずもなく、仕方なく付き合うことにする。

 というか正直七海の言葉通り、気を紛らわせる事が出来るなら相手は誰でも良かった。
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