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「ま、真島…」
「俺の好きにしていいって言ったよね。なら、俺の言うこと聞いて」
心臓がバクバクとうるさい音を立てる。
こんな真島は初めて見た。
きっと真島は今、本気で怒っている。
「…お前、怒ってんの」
「怒ってるよ。高瀬くんが約束破るから」
真島にとって俺があげた約束が、どれほど大事なことなのかは俺だって分かってる。
分かってるが、じゃあなんで他に好きな奴なんか作るんだ。
俺とも一緒にいて、あの子とも一緒にいるなんてそんなのは絶対に嫌だ。
「もういい、離せ」
「離さないよ。高瀬くんが約束守ってくれるまで、絶対に離さない」
手首を掴む手が一際強くなる。
痛くて顔を歪めたが、真島はそれに気付いても手を緩める事はしなかった。
「今別れるなんて、許さない。絶対に、絶対に…っ」
だが言いながら、ぼろっと真島の目から涙が溢れる。
なんで泣くんだ。
自分でも言いたくないことを、したくないことを俺にしてしまっていると思っているんだろう。
それでも感情が止められず、その代償のように涙が次々と溢れていく。
「分からないよ。俺が信じられないなんて、どうして…っ」
真島の言葉に、酷く心が揺さぶられる。
ギリギリと俺の手首を締め付けたまま、真島は流れる涙をそのままに俺を見つめる。
「俺は高瀬くんしか見てない。本当だよ。これから先も、高瀬くんだけだよ」
「嘘付くなよ…っ」
「噓じゃない。本当にそうだよ。高瀬くんしかいらない。他に何もいらない」
零れ落ちる涙と真島の言葉からは、全く噓なんか感じられなかった。
それでも信じられないのは、さっきの光景を目の当たりにしてしまったからだ。
「どうしたら信じてくれるの。俺は高瀬くんのためならなんだってする。誰とも話さないでって言われたら誰とも話さないし、誰も見ないでって言うなら誰も見ない」
「そんな事できるわけねーだろ」
「できる。高瀬くんが信じてくれるなら、何でもするよ」
そう言っている真島の目は本気で、いっそ狂気すら感じるレベルに俺への執着心が見て取れた。
俺がやれって言ったら、いとも簡単に周りの人を投げ捨ててしまいそうだ。
――おかしい。
こんな風に言ってる真島は、本当に噓なんかついているようには見えない。
俺の中でひょっとしたら誤解なんじゃないかという、違和感が生じ始める。
落ち着け。
ちゃんと話さなきゃ駄目だ。
「…さっきの子。お前がどうしても欲しいって言ったって七海に聞いたんだけど」
「えっ…えっと、それは」
真島の目が泳ぐ。
分かりやすいその態度に、カッと気持ちが込み上げる。
なんだよその顔は。
他の奴が気に入ったならそう言えばいいだろ。
相手はちゃんと女の子で、卒業までなんて制約付きの俺なんかに縋る必要はない。
今更俺の機嫌なんか、とらなくていい。
「もう分かったから。無理すんな」
「無理なんてしてないっ」
「いいから。もう離せ」
真島に掴まれたままの腕を無理矢理ほどこうとしたが、全く外れなかった。
絶対に俺を離さないと言った言葉通り、俺が約束破りを訂正するまで離す気はないんだろう。
この馬鹿力が。
「お、怒らないで」
「――は?怒ってるのはお前だろ」
「怒ってるけど。怒ってるけど怖いんだ。高瀬くんが好きだから、離れたくないから…っ」
またボロボロと涙が溢れ始める。
グダグダだ。
どうしようもなくいつもの、グダグダな真島だった。
俺は唇を噛み締めて、真島を見つめる。
だが一つ息を吐き出すと、ぽつりと言った。
「…じゃあ聞かせてくれよ。俺が納得できる言葉を」
「それって…さっきの子の事?」
「そうだよ」
「何もないけど…っ」
真島は一つしゃくりあげたが、それでも俺を見て何か探すように言葉を続ける。
「あの子覚えが悪くて…それで部長に、お前が推薦したんだから引退までになんとかしろってこの前昼休みに言われて。…でも今部活行くの遅いから、放課後少し教えるくらいしかできなくて…っ」
いやそうじゃねーよ。推薦した理由を知りたいんだが。
というかもう自分で推薦したって言っちゃってんじゃねーか。
だが真島は、それだけで本当に他に何もないんです、と涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で縋るように続ける。
なんだか俺が悪い事したみたいになってきてんじゃねーか。
「…なんで推薦したんだよ。顔がタイプだったのか?」
「えっ」
真島の顔がまたどこか赤くなる。
もう心臓がバクバクいっていた。
俺のことは好きだけど、可愛い子だと思って推したとか、そんな理由ならとりあえず殴る。
面接に来た子の中で一番タイプだったとか、そんな理由でも殴る。
いやもうこの際何言っても殴る。
「…さんて、言うんだ」
「え?」
あまりにも小さな声で聞こえなかった。
もう一度聞き返すと、真島は俺から手を離して両手で真っ赤な顔を覆う。
「あ…あの子の苗字、梅野さんって言うんだ…っ」
「……」
呆れを通り越して、思わず頭を抱えた。
「俺の好きにしていいって言ったよね。なら、俺の言うこと聞いて」
心臓がバクバクとうるさい音を立てる。
こんな真島は初めて見た。
きっと真島は今、本気で怒っている。
「…お前、怒ってんの」
「怒ってるよ。高瀬くんが約束破るから」
真島にとって俺があげた約束が、どれほど大事なことなのかは俺だって分かってる。
分かってるが、じゃあなんで他に好きな奴なんか作るんだ。
俺とも一緒にいて、あの子とも一緒にいるなんてそんなのは絶対に嫌だ。
「もういい、離せ」
「離さないよ。高瀬くんが約束守ってくれるまで、絶対に離さない」
手首を掴む手が一際強くなる。
痛くて顔を歪めたが、真島はそれに気付いても手を緩める事はしなかった。
「今別れるなんて、許さない。絶対に、絶対に…っ」
だが言いながら、ぼろっと真島の目から涙が溢れる。
なんで泣くんだ。
自分でも言いたくないことを、したくないことを俺にしてしまっていると思っているんだろう。
それでも感情が止められず、その代償のように涙が次々と溢れていく。
「分からないよ。俺が信じられないなんて、どうして…っ」
真島の言葉に、酷く心が揺さぶられる。
ギリギリと俺の手首を締め付けたまま、真島は流れる涙をそのままに俺を見つめる。
「俺は高瀬くんしか見てない。本当だよ。これから先も、高瀬くんだけだよ」
「嘘付くなよ…っ」
「噓じゃない。本当にそうだよ。高瀬くんしかいらない。他に何もいらない」
零れ落ちる涙と真島の言葉からは、全く噓なんか感じられなかった。
それでも信じられないのは、さっきの光景を目の当たりにしてしまったからだ。
「どうしたら信じてくれるの。俺は高瀬くんのためならなんだってする。誰とも話さないでって言われたら誰とも話さないし、誰も見ないでって言うなら誰も見ない」
「そんな事できるわけねーだろ」
「できる。高瀬くんが信じてくれるなら、何でもするよ」
そう言っている真島の目は本気で、いっそ狂気すら感じるレベルに俺への執着心が見て取れた。
俺がやれって言ったら、いとも簡単に周りの人を投げ捨ててしまいそうだ。
――おかしい。
こんな風に言ってる真島は、本当に噓なんかついているようには見えない。
俺の中でひょっとしたら誤解なんじゃないかという、違和感が生じ始める。
落ち着け。
ちゃんと話さなきゃ駄目だ。
「…さっきの子。お前がどうしても欲しいって言ったって七海に聞いたんだけど」
「えっ…えっと、それは」
真島の目が泳ぐ。
分かりやすいその態度に、カッと気持ちが込み上げる。
なんだよその顔は。
他の奴が気に入ったならそう言えばいいだろ。
相手はちゃんと女の子で、卒業までなんて制約付きの俺なんかに縋る必要はない。
今更俺の機嫌なんか、とらなくていい。
「もう分かったから。無理すんな」
「無理なんてしてないっ」
「いいから。もう離せ」
真島に掴まれたままの腕を無理矢理ほどこうとしたが、全く外れなかった。
絶対に俺を離さないと言った言葉通り、俺が約束破りを訂正するまで離す気はないんだろう。
この馬鹿力が。
「お、怒らないで」
「――は?怒ってるのはお前だろ」
「怒ってるけど。怒ってるけど怖いんだ。高瀬くんが好きだから、離れたくないから…っ」
またボロボロと涙が溢れ始める。
グダグダだ。
どうしようもなくいつもの、グダグダな真島だった。
俺は唇を噛み締めて、真島を見つめる。
だが一つ息を吐き出すと、ぽつりと言った。
「…じゃあ聞かせてくれよ。俺が納得できる言葉を」
「それって…さっきの子の事?」
「そうだよ」
「何もないけど…っ」
真島は一つしゃくりあげたが、それでも俺を見て何か探すように言葉を続ける。
「あの子覚えが悪くて…それで部長に、お前が推薦したんだから引退までになんとかしろってこの前昼休みに言われて。…でも今部活行くの遅いから、放課後少し教えるくらいしかできなくて…っ」
いやそうじゃねーよ。推薦した理由を知りたいんだが。
というかもう自分で推薦したって言っちゃってんじゃねーか。
だが真島は、それだけで本当に他に何もないんです、と涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で縋るように続ける。
なんだか俺が悪い事したみたいになってきてんじゃねーか。
「…なんで推薦したんだよ。顔がタイプだったのか?」
「えっ」
真島の顔がまたどこか赤くなる。
もう心臓がバクバクいっていた。
俺のことは好きだけど、可愛い子だと思って推したとか、そんな理由ならとりあえず殴る。
面接に来た子の中で一番タイプだったとか、そんな理由でも殴る。
いやもうこの際何言っても殴る。
「…さんて、言うんだ」
「え?」
あまりにも小さな声で聞こえなかった。
もう一度聞き返すと、真島は俺から手を離して両手で真っ赤な顔を覆う。
「あ…あの子の苗字、梅野さんって言うんだ…っ」
「……」
呆れを通り越して、思わず頭を抱えた。
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