ベタボレプリンス

うさき

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 バイキング形式の夕飯を終えて、それから入浴時間まで自由時間になる。
 男同士で修学旅行の夜を素直に過ごすとかありえないので、自由時間中にクラスの女子と話してトランプという名の王様ゲームでも後でやろうということになった。

「高瀬マジナイス。やっぱ持つべきものは高瀬だわ」
「ほんとお前らそういう時ばっか人のこと頼りやがって」

 現金なクラスメイトを横目でジトッと見るが、俺の友人達はみんな楽しそうだ。
 まあこれが普通の男子高校生だよな。
 修学旅行といったらやっぱり女子と思い出作りたい。
 男なら誰しもがそう思って淡い期待を抱いて参加している。
 話はつけてやったがそこまで乗り気になってない俺は、普通の男子高校生から本気で外れてしまったんだろう。

「あれ、ヒビヤンは?」

 そういえばさっきから姿が見えない。

「ああ、なんか女子に呼び出し食らってたぞ。彼女じゃね」
「…あー」

 なるほど、元カノか。
 やっぱりまだごたついていたらしい。
 とりあえずテンション上がってる友人達と一緒に入浴の準備をして、時間になったから風呂に向かうことにした。

 くだらない話をしながらエレベーターで下まで降りてくると、風呂近くのロビーを横切る。

「た、高瀬くんっ」

 そこで、真島の声がした。
 ロビーの椅子に座って、たぶんあの様子だと俺がここを通るのを待っていたらしい。
 さっき変な感じで別れたし、なにか取り繕いにでもきたんだろうか。
 とりあえず他の友人達に先に行けと促してから、真島の元へ向かう。

「なに。どうした」

 真島はどこか気まずそうな顔で、だがどうしようもなく思い悩んでいる様子で口をモゴモゴとさせている。
 なるほど、この顔はアレだ。
 一年間真島と一緒にいる俺なら分かるが、間違いなくくだらないことを考えている時の顔だ。

「もしかして風呂入るなとか言い出すんじゃねーだろうな」
「なっ…なんで分かったのっ!?」

 やっぱりコイツ馬鹿だ。
 俺しか見えていない大バカ野郎だ。

「風呂入らないとかありえねーんだよ。変な心配してんじゃねえ」
「…だ、だって嫌なんだ」
「別にお前以外に俺の体見て欲情するやつなんかいねーよ」
「よっ…よく…っ!」

 ド直球で言ってやったら、真島の顔がどかっと赤くなる。
 湯気でもでそうなほど顔を赤らめて、両手を顔に当てて俯く。

「お、俺もおかしなこと言ってるの分かってるんだけど…っ。日比谷くんからさっき聞いたら、居ても立ってもいられなくなっちゃって…」
「そんな事言われても三泊四日だし、毎日風呂は入るぞ」
「……っ」

 コイツの独占欲は、ほんとに留まることを知らない。
 それだけ気にするということはそれだけ俺をそういう対象に見ているということで、それなのに全く手を出してこないとかある意味すごい。

「別にお前にもいくらでも見せてやるから、余計な嫉妬すんな」
「――えっ、いやっ…そうじゃなくて…見たいけどっ…ああでもそれはっ」

 物凄い勢いでテンパりだすから、少し面白くなる。
 コン、とその額を軽く小突いてやってから、じゃーなと風呂場へ足を向けた。

 暖簾を潜って脱衣場へ行ったら、もうみんな中に入ってしまったらしく誰も居なかった。
 時間もあるし、さっさと俺も風呂へ向かおうと服を脱ぎ始める。
 シャツのボタンに手を掛けながら、ふとさっきの真島の奇行について思い出した。
 真島のああいう真っ直ぐ過ぎる反応は面白くもあるが、その分むず痒くくすぐったい気分にもなる。
 自然と口元が緩んで、人知れずふふっと笑ってしまった。

 が、バサリとシャツを脱ぎ捨てた時、不意にドタドタと音がした。
 なんだろうと思う間もなく、脱衣所に真島が入り込んできた。

「――ご、ごめん!やっぱり俺…っ!」

 慌ただしく飛び込んできた真島と目が合う。
 お互いに一瞬硬直して、時間が止まったように見つめ合う。
 その数秒後。

「あ」

 真島のその鼻から、久しぶりの鮮血がぽたりと流れ落ちた。
 まだ上しか脱いでねーよ。

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