ベタボレプリンス

うさき

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 ひらりひらりと桜の舞い散る春。
 俺と真島は三年になった。
 
 新入生と思しき真新しい制服に身を包んだ生徒は、この時期ならではの風物詩だ。
 どこか緊張した面持ちで、だがきらきらとしたその目はこれから始まる高校生活に向けての、希望と期待に満ち溢れているようだ。

 やわらかな風が首筋を撫でていき、俺は自然とひらりと揺れる女子のスカートを目で追いかける。

「高瀬くん」

 名前を呼ばれて振り向けば、真島がいた。
 今日はきっちりと制服を着こなし、どこかぴしりとした優等生な雰囲気を漂わせている。
 まあ実際優等生なんだが、その姿は相変わらず誰をも惹き付けるイケメンオーラ満載だ。
 だがそんなイケメンは、今日も周りが聞いたらガッカリするような残念な言葉を口にする。

「…あ、あの高瀬くん。今日もすごくかわ…かっこいいね」
「もう可愛いでいいよ」

 ジトッと目を細める。
 無意識だろうが散々コイツには可愛いと言われてるし、今更否定する気も起きん。

「ごめんっ、ドキドキしちゃって…つい」
「ああ、在校生代表だもんな。緊張してんだ?」

 真島は今日の入学式で、在校生代表の挨拶に選ばれている。
 普通生徒会長じゃねーのと思ったが、その生徒会長様からのご推薦だそうだ。
 また真島ファンが増えんだろーが。余計なことしやがって。
 
 今日は午前中始業式、午後入学式という日程になっていて、俺達在校生は午前中で学校が終わりだ。
 帰る前にどうしても会いたいと真島が言ったので、体育館へ向かう途中の中庭で待ち合わせていた。

「あ…えと。挨拶は別に緊張してないよ」
「ああ、そう?お前結構本番強いもんな。頑張れよ」
「…っうん。うん!」

 大切な言葉を貰ったみたいに、真島が嬉しそうに微笑む。
 それじゃあ、と帰ろうとしたら「待って」と引き止められた。

「あ、あのね。違うんだ」
「…は?」

 真島は少し言い淀んだが、それでも俺を真っ直ぐに見下ろす。

「今のは高瀬くんに、ど、ドキドキしたんだよ」
「――えっ」

 突然の真島の発言に驚く。
 どうやらさっきの会話で、俺はなにか思い違いをしていたらしい。
 てっきり真島が在校生代表の挨拶に緊張しているものだと思ったが、違ったのか。

「や、やっぱりちゃんと言わないと、伝わらないから…。少しだって、間違えたくないんだ」

 心臓がぎゅっと強く掴まれる。
 顔が熱くなる。
 最近の真島は、ますます俺に対して自分の気持ちを伝えてくるようになった。
 言わないと後悔する、そう思っているのか毎日のように愛の言葉を送られる。

 きっと俺は今、一生分の『好き』の言葉を貰っているんだろう。
 先のことなんか分からないが、ただこれほど俺を好きになってくれる奴は、この先の未来も絶対に現れないとそれだけは確信している。
 
 無性に真島に触れたくなってしまったが、ここは中庭で学校だ。
 それに体育館へ向かう新入生も目の先に見えてるのに、余計なことは出来ない。

 そう思っていたら、真島の手が伸びてきた。
 くしゃりと髪を撫でられて、指先で確かめるように頬をなぞられる。
 本当にそれは一瞬ですぐに離れていった手を目で追いかけたら、俺なんかよりずっと触りたそうな真島の顔が鼻息荒くブルブルと唇を噛み締めていた。

 コイツは相変わらず面白い。
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