97 / 251
89
しおりを挟むとっさに身構えたが、不意に七海が「あっ」と素っ頓狂な声をあげる。
さっきとはうって変わり、その瞳がみるみるうちに大好きなお菓子でも見つけた子供のような色に変わった。
「真島先輩!」
――ギクリ、とした。
俺の心境を他所にブンブンと手を振る七海だが、もう片方の手はしっかり俺を掴んだままだ。
恐る恐る七海の視線の先へ顔を向ければ、渡り廊下の先に真島と貞男が立っていた。
「…なんで」
ここにいるんだ、と続けようとしたが、その格好はジャージ姿で恐らく授業で体育館へ向かうところだったんだろう。
そういえばここは前にミカ先輩と一緒にいた時も、真島と遭遇した場所だ。
なんなんだこの場所は。鬼門なのか。
だが考えてる間に、真島の瞳が大きく揺らぐ。
「そ、奏志っ、行こう!ほら、授業前に先生に言われた準備しないとだし…」
貞男が慌てたように真島に話し掛けるが、真島の視線は俺から外れなかった。
なんでこんな浮気がバレたみたいな後ろめたい気持ちにならないといけないんだ。
別に何も悪いことはしていないし、むしろ真島の相談を俺は七海にしていただけだ。
たまに真島以外の奴と、しかも男と飯を食ったからって何が悪い。
「おい、離せ」
俺は突き放すように七海の手を振り払うと、真島の元に向かう。
真島はボス戦で仲間が全滅した勇者みたいな絶望的な顔をしていて、きっとこの機嫌をすぐに治せる賢者は俺だけだ。
簡単なことだ。
ただ一言、いつも通り気にするなといってやればそれでいい。
きっとそれで真島は「大丈夫だよ」と返してくれる。
だが近くで見た真島の顔は、酷く苦しげに見えた。
これ以上ないってほど全力で喜びを現すその表情を知っているからこそ、その落差にキツく胸が掴まれる。
――ああ、俺はまた真島にこんな顔をさせてしまった。
「……っ」
そう思ったら、言葉が出てこなかった。
俺はもう真島の機嫌を取っては行けない気がした。
これ以上コイツの機嫌を取っても、いつか別れるつもりならその分傷が深くなるだけだ。
真島の苦しそうな顔なんか、もう見たくなかった。
言いかけた言葉を飲み込んで、視線を逸らすとそのままするりと真島の横を通り過ぎる。
「――ま、待って。高瀬くん」
だが真島はすぐに犬みたいに追いかけてきた。
追いかけてくんな。
心臓が痛い。
これ以上真島の顔を見たくない。
何も、考えたくない。
「…あー、そうだ」
俺は鞄から弁当箱を取り出すと、はいと真島に突き返す。
真島の顔は見れなかった。
見たら、きっと何も言えなくなる。
「わりーけど明日からしばらく弁当いいや」
「――えっ」
「…ちょっと考えたいからさ、しばらく一人にしてくれ」
俺は視線を俯かせたままそう告げて、教室へと戻った。
5
お気に入りに追加
866
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
侯爵令息、はじめての婚約破棄
muku
BL
侯爵家三男のエヴァンは、家庭教師で魔術師のフィアリスと恋仲であった。
身分違いでありながらも両想いで楽しい日々を送っていた中、男爵令嬢ティリシアが、エヴァンと自分は婚約する予定だと言い始める。
ごたごたの末にティリシアは相思相愛のエヴァンとフィアリスを応援し始めるが、今度は尻込みしたフィアリスがエヴァンとティリシアが結婚するべきではと迷い始めてしまう。
両想い師弟の、両想いを確かめるための面倒くさい戦いが、ここに幕を開ける。
※全年齢向け作品です。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる