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「――お前!」
とっさに殴ろうとしたら、一步下がってひらりと避けられてしまった。
さすがバスケ部のスピードスター。反射神経バッチリじゃねーか。
いや無駄に感心してる場合じゃない。
「怒らないで下さいよ先輩。可愛いなあ。デコチューくらい初めてじゃないでしょ?」
ここで男とは初めてだ、という言い訳ができないところがつらい。
確かに初めてじゃないが、いやそういう問題でもない。
唖然としていたら不意に七海のスマホが鳴る。
七海は思いっきりやばい、といった感じでギクリと顔を強張らせた。
どうやらサボっているのがバレたらしい。
考えてみればコイツレギュラーだし、色々とまずいんじゃないのか。
「あー、もうちょっとで先輩落とせそうなのにー」
「全然ちょっとじゃねーよ。むしろ落ちる気がしねーわ」
「そんなこと言わないで下さいよっ。あー、そうだ。俺真島先輩と仲良いし、高瀬先輩ファンでしょ?俺といれば話せるチャンスあるかもですよ!」
何か俺の気を引こうとしているらしいが、コイツは盛大な勘違いをしている。
もうなんか面倒くさくて言い返さなかったら、七海はそれじゃあ戻ります!と慌てたように背を向けた。
が、思い出したように顔を振り向かせると、唇に人差し指を当てる。
「ね、先輩。次はちゃんと口にしましょうね」
気色悪い事をウインクと共に言って、七海は部活へ戻っていった。
俺はグシグシと額を拭いながら、次があってたまるかと愕然とその後姿を見つめていた。
なんだか余計な精神力を使ったというか、どっと疲れて項垂れたようにベンチに座る。
もう真島さっさと来い。
腹も減ったし、さっさと真島のメシが食いたい。
当然のように作らせる気で待っていたら、ようやくスマホが音を立てた。
見なくても場所は書いてあるしどうせすぐ中庭に来るだろうと思ってたら、思っている間にもう来た。
相変わらずの全速力だ。
「ごっ…ごめん!いっぱい待たせたよね?寒くない?お腹空いた?ここでずっと待ってたの?」
一体一度にいくつ質問してくるんだ。
だがずっと待っていたせいか、なぜだかぎゅっと込み上げるように胸が熱くなった。
ベンチに座ったままちょいちょいと真島を呼び寄せる。
不思議そうな顔で目の前まで寄ってきた真島の腰を、ガバっと引き寄せた。
「――えっ!?た、たか…」
「おせーよ、馬鹿」
脱力するように額を真島の腹にくっつけて、俺は目を瞑る。
部活なんだから遅くなって当然だが、それでももっと早く来いよと思った。
真島は部活後なのに全然汗臭くなくて、なぜか男のくせにいい香りがした。
ぼーっとした頭で目を閉じていたら、すぐに手のひらが俺の髪に降りてくる。
やけに熱い指先が、俺の髪を梳いて耳を撫でつける。
「…な、何かあった?遅くなってごめんね。本当に、ごめんね」
真島は全く悪くないが、心底悪いことをしてしまったという口調で何度も俺に謝る。
触れる指先は俺をあやしているようで、くすぐったいが心地良い。
俺は真島に額を付けたまま、擦りつけるように首をゆるやかに振った。
「…何もねーよ。ただ腹減っただけ」
「うん。帰ったらすぐに作るからね。高瀬くんの好きなもの、なんでも言ってね」
言いながら真島は屈んで俺を強く抱きしめる。
誰かに見られる可能性も高いのに、俺は今何も考えられなかった。
ただ抱きしめられて、真島の速い心臓の音を近くで聞いていた。
とっさに殴ろうとしたら、一步下がってひらりと避けられてしまった。
さすがバスケ部のスピードスター。反射神経バッチリじゃねーか。
いや無駄に感心してる場合じゃない。
「怒らないで下さいよ先輩。可愛いなあ。デコチューくらい初めてじゃないでしょ?」
ここで男とは初めてだ、という言い訳ができないところがつらい。
確かに初めてじゃないが、いやそういう問題でもない。
唖然としていたら不意に七海のスマホが鳴る。
七海は思いっきりやばい、といった感じでギクリと顔を強張らせた。
どうやらサボっているのがバレたらしい。
考えてみればコイツレギュラーだし、色々とまずいんじゃないのか。
「あー、もうちょっとで先輩落とせそうなのにー」
「全然ちょっとじゃねーよ。むしろ落ちる気がしねーわ」
「そんなこと言わないで下さいよっ。あー、そうだ。俺真島先輩と仲良いし、高瀬先輩ファンでしょ?俺といれば話せるチャンスあるかもですよ!」
何か俺の気を引こうとしているらしいが、コイツは盛大な勘違いをしている。
もうなんか面倒くさくて言い返さなかったら、七海はそれじゃあ戻ります!と慌てたように背を向けた。
が、思い出したように顔を振り向かせると、唇に人差し指を当てる。
「ね、先輩。次はちゃんと口にしましょうね」
気色悪い事をウインクと共に言って、七海は部活へ戻っていった。
俺はグシグシと額を拭いながら、次があってたまるかと愕然とその後姿を見つめていた。
なんだか余計な精神力を使ったというか、どっと疲れて項垂れたようにベンチに座る。
もう真島さっさと来い。
腹も減ったし、さっさと真島のメシが食いたい。
当然のように作らせる気で待っていたら、ようやくスマホが音を立てた。
見なくても場所は書いてあるしどうせすぐ中庭に来るだろうと思ってたら、思っている間にもう来た。
相変わらずの全速力だ。
「ごっ…ごめん!いっぱい待たせたよね?寒くない?お腹空いた?ここでずっと待ってたの?」
一体一度にいくつ質問してくるんだ。
だがずっと待っていたせいか、なぜだかぎゅっと込み上げるように胸が熱くなった。
ベンチに座ったままちょいちょいと真島を呼び寄せる。
不思議そうな顔で目の前まで寄ってきた真島の腰を、ガバっと引き寄せた。
「――えっ!?た、たか…」
「おせーよ、馬鹿」
脱力するように額を真島の腹にくっつけて、俺は目を瞑る。
部活なんだから遅くなって当然だが、それでももっと早く来いよと思った。
真島は部活後なのに全然汗臭くなくて、なぜか男のくせにいい香りがした。
ぼーっとした頭で目を閉じていたら、すぐに手のひらが俺の髪に降りてくる。
やけに熱い指先が、俺の髪を梳いて耳を撫でつける。
「…な、何かあった?遅くなってごめんね。本当に、ごめんね」
真島は全く悪くないが、心底悪いことをしてしまったという口調で何度も俺に謝る。
触れる指先は俺をあやしているようで、くすぐったいが心地良い。
俺は真島に額を付けたまま、擦りつけるように首をゆるやかに振った。
「…何もねーよ。ただ腹減っただけ」
「うん。帰ったらすぐに作るからね。高瀬くんの好きなもの、なんでも言ってね」
言いながら真島は屈んで俺を強く抱きしめる。
誰かに見られる可能性も高いのに、俺は今何も考えられなかった。
ただ抱きしめられて、真島の速い心臓の音を近くで聞いていた。
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