83 / 251
76
しおりを挟む
すぐに頬に触れてきた真島の手の感触に目を閉じる。
頬を通り過ぎてこめかみから耳にその手が移動したのと同時、耐えられないといった様子でかき抱くように引き寄せられた。
相変わらずめちゃくちゃその力は強くて、息が詰まる。
だが俺は何も言わなかった。
真島に抱きしめられていることに、頭の中が痺れるような甘さを覚えてしまった。
熱い手の平が、堪らないとばかりに俺の髪に差し込まれる。
後夜祭のBGMはまだ遠く響いているが、誰が来るかも分からない教室。
相手は男だとちゃんと分かっていて、頭のどこかでこの関係は絶対まずいと思っているのに、今は突き放すことが出来なかった。
真島は急くように俺の額や耳に何度もキスをして、どうしようもなく気恥ずかしい気持ちに固く目を瞑る。
真島が俺に触れるような、こんな情熱的な触れ方を誰かにしたことは一度もなかった。
「…真島」
掠れる声で名前を呼んだら、目の前の身体がピクリと震える。
それからぎゅっとまた抱きしめられる。
「も、もう少し」
別に離せと言うつもりはなかったが、恐らく真島はそう言われると思ったんだろう。
まだ離したくない、と言うように俺を抱きしめる手が強くなる。
それもそうか。
今まで散々触るなと真島を突き放してきたのは俺だ。
俺はそっと真島の頬に手を伸ばした。
えっ、という感じでその瞳が丸くなる。
俺から触られることを想定していなかったんだろう。
何が起きているんだ、とでもいいたげな表情で固まっている。
ふっと目を細めて笑うと、頬に触れた指先を俺は真島の唇へ這わせた。
柔らかいその感触に、ふにと指先を押し付ける。
惚けたように俺を見つめる間抜け面が、可愛いと思ってしまった。
「――ごめん、もう無理」
真島はそう言って触れていた俺の手を取ると、吸い寄せられるように俺の唇にキスをした。
押し付けられるようなキスは一度離れて、もう一度。それから、もう一度と繰り返される。
真島の指先が確かめるように今度は俺の唇をなぞり、それからもう一度。
触れるだけのキスだが、それだけで酷く身体が熱かった。
再び抱きしめられて、俺は真島の胸にもたれてぼーっとしていた。
ああ、ついに男とキスしちまった。
なんて思いながらも、おかしい程心臓の音は速かった。
「…っ」
不意にヒクリと、喉を震わせる音が聞こえてきた。
それからぼたぼたと雫が落ちてきて、は?と思って顔をあげる。
見上げた先で、真島がみっともない顔で泣いていた。
え、なんで。今泣く所じゃねーだろ。
「おい、何お前いきなり泣いてんだよ」
「…っごめん。う、嬉しくて…っ」
「はあ?」
真島は真っ赤な顔で大粒の涙を流す。
涙の雫が次々と衣装に落ちて、その色を染めていく。
「た、高瀬くんとキス出来る日がくるなんて…っ。ゆ、夢かもって…」
おいおい、と思ったが真島の涙は止まらない。
全くコイツは、結局泣くのかよ。
せっかくいい格好をしてるのにしまらない奴だな。
だがそれでこそ真島で、俺はそんなコイツだからこそ、ここまで心惹かれたんだろう。
ボロボロ泣いてる真島の手を握ってやると、その手を引く。
「ほら、一緒にキャンプファイヤー見に行こうぜ。俺と少しは文化祭の思い出作りたいんだろ?」
そう言ってやったら、真島はまた気持ちが込み上げたように身体を震わせる。
それから「大好き」と言ってもう一度泣いた。
頬を通り過ぎてこめかみから耳にその手が移動したのと同時、耐えられないといった様子でかき抱くように引き寄せられた。
相変わらずめちゃくちゃその力は強くて、息が詰まる。
だが俺は何も言わなかった。
真島に抱きしめられていることに、頭の中が痺れるような甘さを覚えてしまった。
熱い手の平が、堪らないとばかりに俺の髪に差し込まれる。
後夜祭のBGMはまだ遠く響いているが、誰が来るかも分からない教室。
相手は男だとちゃんと分かっていて、頭のどこかでこの関係は絶対まずいと思っているのに、今は突き放すことが出来なかった。
真島は急くように俺の額や耳に何度もキスをして、どうしようもなく気恥ずかしい気持ちに固く目を瞑る。
真島が俺に触れるような、こんな情熱的な触れ方を誰かにしたことは一度もなかった。
「…真島」
掠れる声で名前を呼んだら、目の前の身体がピクリと震える。
それからぎゅっとまた抱きしめられる。
「も、もう少し」
別に離せと言うつもりはなかったが、恐らく真島はそう言われると思ったんだろう。
まだ離したくない、と言うように俺を抱きしめる手が強くなる。
それもそうか。
今まで散々触るなと真島を突き放してきたのは俺だ。
俺はそっと真島の頬に手を伸ばした。
えっ、という感じでその瞳が丸くなる。
俺から触られることを想定していなかったんだろう。
何が起きているんだ、とでもいいたげな表情で固まっている。
ふっと目を細めて笑うと、頬に触れた指先を俺は真島の唇へ這わせた。
柔らかいその感触に、ふにと指先を押し付ける。
惚けたように俺を見つめる間抜け面が、可愛いと思ってしまった。
「――ごめん、もう無理」
真島はそう言って触れていた俺の手を取ると、吸い寄せられるように俺の唇にキスをした。
押し付けられるようなキスは一度離れて、もう一度。それから、もう一度と繰り返される。
真島の指先が確かめるように今度は俺の唇をなぞり、それからもう一度。
触れるだけのキスだが、それだけで酷く身体が熱かった。
再び抱きしめられて、俺は真島の胸にもたれてぼーっとしていた。
ああ、ついに男とキスしちまった。
なんて思いながらも、おかしい程心臓の音は速かった。
「…っ」
不意にヒクリと、喉を震わせる音が聞こえてきた。
それからぼたぼたと雫が落ちてきて、は?と思って顔をあげる。
見上げた先で、真島がみっともない顔で泣いていた。
え、なんで。今泣く所じゃねーだろ。
「おい、何お前いきなり泣いてんだよ」
「…っごめん。う、嬉しくて…っ」
「はあ?」
真島は真っ赤な顔で大粒の涙を流す。
涙の雫が次々と衣装に落ちて、その色を染めていく。
「た、高瀬くんとキス出来る日がくるなんて…っ。ゆ、夢かもって…」
おいおい、と思ったが真島の涙は止まらない。
全くコイツは、結局泣くのかよ。
せっかくいい格好をしてるのにしまらない奴だな。
だがそれでこそ真島で、俺はそんなコイツだからこそ、ここまで心惹かれたんだろう。
ボロボロ泣いてる真島の手を握ってやると、その手を引く。
「ほら、一緒にキャンプファイヤー見に行こうぜ。俺と少しは文化祭の思い出作りたいんだろ?」
そう言ってやったら、真島はまた気持ちが込み上げたように身体を震わせる。
それから「大好き」と言ってもう一度泣いた。
7
お気に入りに追加
866
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
俺のソフレは最強らしい。
深川根墨
BL
極度の不眠症である主人公、照国京は誰かに添い寝をしてもらわなければ充分な睡眠を得ることができない身体だった。京は質の良い睡眠を求め、マッチングサイトで出会った女の子と添い寝フレンド契約を結び、暮らしていた。
そんなある日ソフレを失い困り果てる京だったが、ガタイの良い泥棒──ゼロが部屋に侵入してきた!
え⁉︎ 何でベランダから⁉︎ この部屋六階なんやけど⁉︎
紆余曲折あり、ゼロとソフレ関係になった京。生活力無しのゼロとの生活は意外に順調だったが、どうやらゼロには大きな秘密があるようで……。
ノンケ素直な関西弁 × 寡黙で屈強な泥棒(?)
※処女作です。拙い点が多いかと思いますが、よろしくお願いします。
※エロ少しあります……ちょびっとです。
※流血、暴力シーン有りです。お気をつけください。
2022/02/25 本編完結しました。ありがとうございました。あと番外編SS数話投稿します。
2022/03/01 完結しました。皆さんありがとうございました。
花束と犬とヒエラルキー
葉月香
BL
短いバカンスの時期に出会い、一目惚れした相手を追って、オーヴェルニュの田舎から単身パリに出てきたルネ。その男、ローランの手によって磨かれて、彼は普通の男の子から洗練された美貌の秘書に変身するが―。愛する上司のために命がけで尽くしぬく敏腕秘書君の恋物語です。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる