ベタボレプリンス

うさき

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----side真島『夏の終わりに』

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「真島、俺の課題もやってくれ」

 夏休みもあと数日で終わるとある日。
 夏期講習も終わって部活もお休みだったから、高瀬くんの家でお昼ご飯を作っていた。
 
 高瀬くんの家には日比谷くんも遊びに来ていて、高瀬くんと、自室で寝ている高瀬くんのお母さんと、日比谷くんの四人分のチャーハンをフライパンで炒める。

「課題は自分でやったほうがいいと思うよ。人がやったんじゃ自分のためにならないし」
「お前…高瀬の課題丸々やっといてよく言うわ」
 
 俺の隣でそう言ってきた日比谷くんの言葉に、ニコリと微笑む。

「高瀬くんはいいんだよ。何も出来なくなっても俺が代わりにやるから」
「あー、くそ。マジかよ。高瀬ー、真島に命令してくれー」

 日比谷くんはそう言いながら青い顔でリビングに戻っていった。
 高瀬くんがやれというなら勿論やるけど、リビングから「真島、絶対やるなよ」という声が飛んできた。
 よし、絶対にやらないと心に決める。

 食卓を囲んでお昼ご飯を食べていたら、ユキからメッセが届いた。
 どうやらイギリスから帰国したらしくて、その足でお土産を持ってきてくれるらしい。
 高瀬くんの家にいることを伝えたら、ここまで来るとメッセが返ってきた。

「あの、高瀬くん。ユキも来たいって言ってるんだけど…ダメかな」
「はぁ?俺んちはたまり場じゃねーんだよ」
「えー、いいじゃん。奏志の友達ならイケメンでしょ?私見たーい」

 いつの間にか起きてきたらしい高瀬くんのお母さんがそう言ってくれた。
 ニコニコと高瀬くんが笑っているような笑顔は、俺を幸せな気持ちにさせる。
 
「高瀬母もう真島のこと名前呼びかよ…。さすが適当親子」
「誰が適当だ」

 そして日比谷くんはバシッと高瀬くんに叩かれている。
 反対側からお母さんにまで叩かれている。
 羨ましい。


 のんびり昼食の片付けをしながら猫に餌をあげていると、チャイムが鳴った。
 はい、と出るとユキだった。

「――奏志っ!会いたかった!」

 ガバッと抱きつかれた。
 久々のユキは相変わらず色白で綺麗で、夏休みというのに少しも日に焼けていなかった。
 ユキを抱きとめてから、ゆっくりと身体を離す。

「久しぶりだね。向こうはどうだった?」
「えっと…ゆっくり出来たよ。観光もいっぱいしてきたし。奏志も一緒に行ければいいのにな…って、ずっと考えてた」

 ユキはどこか寂しそうに言ってから、上目遣いに俺を見上げる。
 帰省中も俺のことを考えてくれていたなんて、親友としてすごく嬉しい。
 だけどニッコリ微笑んで返すと、ユキはさっと顔を赤くして目を逸らしてしまった。

「おい貞男。冷房ついてんだからさっさと入れよ。部屋ぬるくなんだろーが」

 高瀬くんの声が飛んで来て、俺は慌ててユキを招き入れる。
 チッとどこからか舌打ちが聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだろう。

「やあ、梅乃くん。夏祭りの写真ドウモアリガトウ」
「おー。貞男が喜んでくれて嬉しいよ」

 二人は相変わらず俺を差し置いて仲良しだ。


 その後日比谷くんに何か言われたユキは、課題を手伝ってあげることにしたらしい。
 本性がどうとか言っていた気がしたが、俺にはよく聞こえなかった。

 日比谷くんとユキが課題をやっていて、高瀬くんのお母さんはお昼ご飯を食べたらまた寝てしまった。
 俺は三人に飲み物を配ってから、漫画を読んでいる高瀬くんの隣に座る。

 真剣に漫画を読んでいる表情に心がキュンと掴まれる。
 高瀬くんは今日もすごく可愛い。
 それこそ美の女神なんか足元にも及ばないほど可愛い。
 思わず彼の髪の毛に触れるが、高瀬くんは何も言わなかった。

 あの夏祭り以降、少し歯止めが効かなくなってしまった俺は事あるごとに高瀬くんに触ってしまっていた。
 高瀬くんもやりすぎなければ何も言わないから、つい調子に乗ってしまう。

「真島、くすぐったい」

 俺の方をちらりとも見ぬまま高瀬くんは少し身じろいで、再び漫画に集中する。
 可愛くて可愛くて仕方なくて、その耳に触れたり首に触れたりとついしてしまったが、高瀬くんは気にしてない様子で漫画を読んでいた。

「…おいお前ら、イチャイチャすんな」
「はぁ?何言ってんだ。どこがだよ」

 気付けば日比谷くんとユキがなにか不機嫌そうな顔でこっちを見ていた。
 イチャイチャしてるように見えたとか、どうしよう、嬉しすぎる。


 日が暮れて夕飯を食べ終えて、高瀬くんの迷惑にならない内に帰ることにする。
 見ればユキと日比谷くんはまだ課題に没頭していた。

「ユキ、俺そろそろ帰るけど」
「そ、奏志…っ。俺も一緒に――」

 言いかけたユキを、日比谷くんがガシリと掴む。
 手伝ってあげたいけど、高瀬くんに『絶対やるなよ』と言われてしまっているので俺がそれを触ることは出来ない。

 いつも通り下まで送ってくれるという高瀬くんに甘えて、二人でマンションの下まで降りてきた。
 別れ際はやっぱり寂しい。
 少しでも高瀬くんの気を引きたくて、俺はぎゅっと高瀬くんの手を握った。
 こんな風に触ることが許されているなんて、いまだに信じられなくてドキドキしている。

「お前俺も一緒に連れて帰る気かよ?」

 高瀬くんはクスッと笑って握られた手を持ち上げる。
 触れても嫌がられていないという事が分かるだけで、酷く嬉しかった。
 無性に気持ちが伝えたくなって、俺は手を握ったまま口を開く。

「大好きだよ」

 言ったら、高瀬くんは少し目を見開く。
 
「知ってるよ。バーカ」

 くしゃりと笑ってくれた。
 どうしようもなく胸が熱くて、俺の顔はもうずっと緩みっぱなしだった。

「――うん。ちゃんと知ってて」

 知ってて欲しい。
 どうしようもなく恋い焦がれているこの思いを、高瀬くんには全部知ってて欲しい。

「俺が朝も昼も夜も、ずっと高瀬くんが大好きでどうしようもないこと。ちゃんと知っててね」

 込み上げる愛しさに顔を綻ばせると、高瀬くんの顔色がぶわっと赤く染まった。
 それはまだ見たことのない初めての表情で、バクリと心臓が跳ね上がる。
 どうしようもなく居てもたってもいられず、俺は繋いでいた彼の手を引くと赤くなったその頬にキスを落とした。

 夏の夜風が俺達を通り過ぎて、切なげなひぐらしの声が遠くに聞こえた。
 もうすぐ夏休みが終わってしまう。
 この2秒後に俺は彼から腹にパンチを食らうわけだけど、今まで生きてきた中で間違いなく一番幸せな夏休みだった。

 そしてまた、新学期が始まる。
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