ベタボレプリンス

うさき

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 好きだ、大好きだと何度も耳元で言いながら、随分長いこと真島は離してくれなかった。
 最終的にいい加減にしろと引き剥がした時は、あんまり力強く抱きしめられていたせいでなんか身体が痛かった。
 お預けを解除された犬は容赦がないらしい。

「あ…あの、ごめんね。その…なかなか離せなくて」
「…あー、もういいよ。少しは夏祭りの思い出になったか?」

 ぐったりしながら言うと、真島は至極嬉しそうな表情で「うん!」と頷いた。
 とりあえずなんとか真島の夏祭りを、最悪な思い出のまま締めくくらなかったことに安堵する。

 誰もいないし、神社から出るまでの道のりをのんびり真島の手を引いて歩く。
 女の子と違って骨ばって堅い感触は、どこからどう考えても男だった。
 全然気持ちよくないし、ムラつきもしない。
 だがなぜか亜美ちゃんよりも仁美ちゃんよりも、変に胸が熱かった。

「あの、高瀬くん。明日からも…まだ俺と会ってくれる?」

 俺を散々抱きしめておいて、まだ真島は不安らしい。
 というかコイツ人の話聞いてたんだろうか。
 俺は仁美ちゃんより真島を取ったんだが。
 
 視線を持ち上げると、少し考える。

「じゃあ俺明日生姜焼き食いたい」

 言ったら、真島は感動したような顔で何度も頷いた。
 俺はその表情に満足してから、なんだかやたらバタバタした夏祭りだったな、と今日の出来事に思いを巡らせる。
 完全にまとめモードだったが、いやちょっと待て。
 まだ何かを忘れている。
 
「あ、そうだ。結局仁美ちゃんに返事してねーわ」

 思い出して呟いたら、真島がビクリと肩を震わせた。
 なんだ。まだなにか不安かよ。

「あ、あの。そういえば仁美ちゃんなんだけど…」
「え?」
「帰りに…高瀬くんはきっと亜美ちゃんの事が好きなんだって…言ってた」
「はあ?」

 どうしてそうなったんだ。
 思い当たることと言えば、真島にキレた後亜美ちゃんのところに行ったことくらいか。
 少し突拍子もない感じはするが、事情を知らなければそう見えなくもないかもしれない。

「で、お前それになんて返したんだよ」
「わ、わかんないから…そうかもって」
「おい、そこは否定しろよ」
「だ…だって高瀬くん女の子が好きだから…っ」

 よく分かってんじゃねーか。
 真島は言っておいて、自分の言葉に会心の一撃を食らったようにふらついている。
 アホな真島は放っておくとして、まあ誤解されてるならもうそれでいいような気もしてきた。
 女子仲に変な亀裂が入らないといいが、その辺は知らん。

 その後俺を家まで送りたいと言った真島に頷いてやって、また微妙な気持ちになりながら帰路に着いた。
 別れ際にもう一度抱きしめられたが、今日のところは何も言わないでいてやった。




 翌日、俺の元に亜美ちゃんからメッセが届いた。
 そこには『高瀬くんの気持ちを考えずに無神経なこと言ってごめんね』と書いてあった。

 告ってないのに思いっきりフラれてんじゃねーか。

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