ベタボレプリンス

うさき

文字の大きさ
上 下
47 / 251

42

しおりを挟む

 ジーッとセミが鳴く。

 俺のバイトが終わる時間と、真島が夏期講習を終える時間は大体同じだった。
 バイト終わりに真島と待ち合わせして、くそ暑い中買い物に行く。
 それから俺んちのマンションに帰って来て、俺は寝そべりながら猫とぐだぐだ戯れて、真島が飯を作る。

「…やばい。幸せかも。俺」
「あっそ。飯まだ?」
「うん。もうちょっとだよ」

 なんかじーんと感動している真島に、軽く蹴りをいれて正気に戻してやる。
 真島の手元を見ると、俺がリクエストしたカレーがいい匂いをさせていた。
 
「その…高瀬くん母子家庭だったんだね。いつも一人でご飯食べてたの?」
「いーや?友達と食ってたり女いた時は呼んでたり…」

 こっちは別になんとも思ってないのに、さっと真島の顔色が変わる。
 全くこいつは。
 
 母子家庭だというと少し聞こえが悪いかもしれないが、特別そこに薄暗い感情があるわけでもない。
 母親はまあいわゆるスナックという風俗業で働いて金稼いでるが、だからといってここに男呼んだりだとか俺に対して愛情がないだとか、そういうこともない。
 親には親の事情があり人生があって離婚してるんだろうし、思春期真っ只中のメンヘラちゃんみたいなことは思ってない。

「辛気臭い顔してんじゃねーよ。それより俺にんじんいらねーから」
「えっ、嫌いだったの。言ってくれたら入れなかったのに…」
「だってお前は食えるだろ?真島が食えばいいと思って」

 にゃー、と同意するように猫も鳴いた。
 真島はぷるぷると興奮したように若干震えてから、真っ赤な顔で「大好き」って言った。
 そんなに真島がにんじん好きだとは思わなかった。


 飯食い終わって自室で真島に課題を手伝ってもらっていたら、仁美ちゃんからメッセが届いた。
 特にどこ行こうとかいう話でもなく、今からご飯食べるんだ、とかっていう日常会話。
 正直これ、誘われ待ちだよな。

 そう思いながら、チラリと真島を見る。
 結局やらせている俺の宿題に、真島は何の文句も言わずむしろ幸せそうだ。

「ん、どうしたの?」

 こいつの事を見ると、大体すぐに目が合う。
 真島はにへらと締りのない顔だった。
 随分楽しそうだな。

「いや?お前が俺を着々とダメ人間にしようとしてる計画が見え見えだなーと」
「えっ!なんで分かっ――あっ、じゃなくてっ」

 冗談で言ったのにマジかよ。
 道理でヒビヤンとのあの話から、真島の世話焼きが酷くなったような気がしていた。
 こいつ人の心が手に入らないと思って、違う方向に計画シフトしやがったな。

「あ、あの…」

 ふと真島は俺が手にしていたスマホに視線をやる。
 さっきまでのにへら顔があっという間に消えて、見るからに不安そうな顔になっている。

「お、女の子?」
「おー。ほら、この間遊園地一緒に行った子」
「…あ」

 ますますその顔から血の気が失せていく。
 そういや仁美ちゃんと手繋いでる所ばっちり真島に見られたんだっけ。
 いや、それどころか邪魔されたんだった。

「な、仲良いの?」

 聞いたらいけない、みたいな顔してるくせに、それでも気になるんだろう。
 真島の気持ちは分からなくもないが、そんなめんどくせー女みたいな事言われても。
 俺の交友関係をいちいちコイツに報告する義務はない。

「余計な詮索してくんな」

 ピシャリと言ったら、真島はハッとしたようにごめん、と言って押し黙った。
 なんだか変な空気になったので、俺はスマホを放り投げると立ち上がる。

「あ…高瀬くん、ご、ごめ――」

 何か真島が言いかけてたが、俺は構わず自室をでた。
 バタンと扉を締めるとリビングへ向かう。

「…えーと、確か」

 それからキッチンに行きゴソゴソと冷凍庫を漁って、目的のものを見つけると再び自室に戻る。
 扉を開けたら、真島が地球最後の日みたいな顔をしていた。

 えっ、なんで。

「た…高瀬くんっ」
「なんだよ。ほら」

 真島にキッチンから持ってきたアイスを押し付けてやる。
 これ食って機嫌直せ、と言いながら、もう一つのアイスに口つけたら、なぜか真島の目からぼろっと涙が溢れた。
 だからなんでだよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご
BL
歩けば十人中十人が振り向く、集団生活をすれば彼を巡って必ず諍いが起きる、騒動の中心にはいつも彼がいる、そんな美貌を持って生まれた紫川鈴(しかわすず)。 しかし彼はある事情から極道の家で育てられている。そのような環境で身についた可憐な見た目とは相反した度胸は、地方トップと評される恐ろしい不良校でも発揮されるのだった。 高校になって再会した幼なじみ、中学の時の元いじめっ子、過保護すぎるお爺様、人外とまで呼ばれる恐怖の裏番…、個性的な人達に囲まれ、トラブルしか起きようが無い不良校で過ごす美青年の、ある恋物語。 中央柳高校一年生 紫川鈴、頑張ります! ━━━━━━━━━━━━━━━ いじめ、暴力表現あり。 R-18も予定しています。 決まり次第、別の話にまとめて投稿したいと思います。 この話自体はR-15で最後まで進んでいきます。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 登場人物たちの別視点の話がいくつかあります。 黒の帳の話のタイトルをつけているので、読む際の参考にしていただければと思います。 黒の帳とあまり交わらない話は、個別のタイトルをつけています。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 〜注意〜 失恋する人物が何人か居ます。 複数カプ、複数相手のカプが登場します。 主人公がかなり酷い目に遭います。 エンドが決まっていないので、タグがあやふやです。 恋愛感情以上のクソデカ感情表現があります。 総受けとの表記がありますが、一部振られます。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 追記 登場人物紹介載せました。 ネタバレにならない程度に書いてみましたが、どうでしょうか。 この小説自体初投稿な上、初めて書いたので死ぬほど読みづらいと思います。 もっとここの紹介書いて!みたいなご意見をくださると、改善に繋がるのでありがたいです。 イラスト載せました。 デジタルに手が出せず、モノクロですが、楽しんで頂けたらと思います。 苦手な人は絶対見ないでください、自衛大事です! 別視点の人物の話を黒の帳に集合させました。 これで読みやすくなれば…と思います。

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎

亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡ 「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。 そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格! 更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。 これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。 友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき…… 椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。 .₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇ ※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。 ※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。 楽しんで頂けると幸いです(^^) 今後ともどうぞ宜しくお願いします♪ ※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)

侯爵令息、はじめての婚約破棄

muku
BL
侯爵家三男のエヴァンは、家庭教師で魔術師のフィアリスと恋仲であった。 身分違いでありながらも両想いで楽しい日々を送っていた中、男爵令嬢ティリシアが、エヴァンと自分は婚約する予定だと言い始める。 ごたごたの末にティリシアは相思相愛のエヴァンとフィアリスを応援し始めるが、今度は尻込みしたフィアリスがエヴァンとティリシアが結婚するべきではと迷い始めてしまう。 両想い師弟の、両想いを確かめるための面倒くさい戦いが、ここに幕を開ける。 ※全年齢向け作品です。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

処理中です...