ベタボレプリンス

うさき

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 モグモグと頬張りながら雨のせいで日の当たらない室内を見上げる。
 真島が部活後もこんな場所で勉強してたとか、少し、いやかなり意外だった。
 
「お前って結構苦労してんのな」
「えっ?そ、そんなことないよ」

 ブンブンと大袈裟に真島は両手を振る。
 なんでも出来る万能な学園アイドルだと思っていたが、その実影で苦労しているとか。
 考えてみれば当たり前のことだが、涼し気なこいつの顔と周りの噂という先入観で、努力しているなんて全く思わなかった。
 
 サンドイッチを食い終わってふとスマホを見たら、メッセが届いていた。
 通知だけ見たら仁美ちゃんと書いてあった。

 えーと、仁美ちゃんて誰だっけ。
 女の子と会う機会多すぎて名前ごっちゃになるんだよな。

 それはそれで喜ばしいことだが、真島に紅茶を手渡されながら届いたメッセを開く。
 どうやら昨日遊園地に一緒に行った子で、お化け屋敷にペアで入った女子だった。

 ああそうだ。
 そういや俺手を繋いだんだっけ。
 なんだよ、ちゃんと進展あったじゃん。

 なんて考えたところで、ふと髪の毛に触れられた。

「…あ?なに」
「えと…ちょ、ちょっとだけ」

 真島はどこか我慢するような顔で、だがその瞳は俺の反応に不安げに揺れている。

 そういや最近やたらコイツ俺のこと触ってくるな。
 変にビクビクしているくせに、それでも事あるごとに手を伸ばしてくるような。

 一瞬断ろうかとも思ったが、まあこんな触ってんだかどうだか分からないようなモン大した害もない。
 そんなことより俺は仁美ちゃんにメッセを返したい。

「勝手にしろよ。別に触るくらいどうってことねーから」
「――えっ?い、いいの?」
「だからいいって。もう好きにやってろ」

 そう言って真島の目を見ずにさっさとスマホに目を向ける。
 さて、なんて返すかなと考えたその瞬間、俺の視界が一気にブレた。

「――好き。大好き、高瀬くん」

 すぐ耳元で聞こえた、真島の声。
 力強いとかのレベルじゃなく、がっちりとホールド食らうレベルで後ろから抱きしめられていた。
 
 突然すぎて俺が戸惑うより早く、真島は俺の首筋に口付ける。
 サラリとした真島の髪がうなじに当たり、ふわりとシャンプーの匂いが鼻先を掠める。

「…は?お前何して――」

 まるで『待て』を解除された犬のごとく、真島はがっつくように俺の首筋やら髪の毛に顔をうずめてきた。
 すぐ耳元で聞こえたリップ音に、ようやく俺は遅れて状況を理解する。
 とっさに身を捩ろうとしたが、がっちりと抱きしめられているその腕はビクともしない。

 ちょっと待て。
 確かに好きにやれとは言ったが、まさかこんな事になるとは。
 どうせまた服触るとかそれくらいだと思っていた。
 完全に仁美ちゃんに返信しているどころじゃないというか、スマホなんかとっくに手から滑り落ちている。

「…はぁ、ほんと大好き。可愛い」

 そうこうしているうちに今度はこめかみにまでキスされて、かと思ったらカプリと耳に食いつかれた。

「…っあ」

 反射的にビクリと身体が震える。

 ふざけんな。
 変な声出ちまったじゃねーか。

 耳に残る湿った感触がリアルで、どかっと顔が熱くなる。
 おまけに真島の吐息が耳朶を掠めて、余計に羞恥心が煽られる。

 ああくそ、もう決めた。
 コイツ殴る。

 いまだがっつくように人の体を抱きしめながら何度も口付ける真島に、俺は拳を握る。
 そのまま腹に力をいれて真島の顔面を殴ってやろうと、思い切り振り返った。
 が、ハッとしてその拳を止める。

 あれ、俺まだ殴ってないよな?

「真島…お前それ」
「えっ…?わっ――」

 ぼたぼたと鮮血が垂れる。
 カッとなっていた気持ちが一瞬で消え去っていった。
 一度唖然としてから、はぁと盛大にため息。

 高校生にもなって鼻血出す奴、初めて見た。
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