ベタボレプリンス

うさき

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 たんまり買い込んだお菓子を真島と結城に持たせて、ヒビヤンの家へ向かう。
 別にこれはイジメではなく、俺も持つ気はあったが真島が持たせてくれなかっただけだ。
 
「おう。遅かったな」
「あー、悪い。真島がいろいろ引っ掛かっててさ」
「まさかホントに真島連れてくるとは思わなかったわ」
「もう一人金魚のフンみたいな奴もついてきたけどな」
「誰が金魚のフンだ」

 ガッと結城に足を踏まれた。
 地味に痛い。
 
 真島は先に来ていた女の子たちに、何やらきゃいきゃいと話し掛けられている。
 俺とヒビヤンで飲み物をキッチンでグラスに入れていたわけだが、結城は手持ち無沙汰らしい。
 暇なら飲み物持ってけ。

「つーか奏志いたら女の子取られちゃうんじゃないの?あんなイケメンがいたら誰もお前なんかに見向きしないだろ」
「お前ってホント分かってねえな。ああいう高嶺の花より、ワンランク下げた俺くらいの方が結局は好まれるんだよ。真島はアレだ、客寄せパンダみたいなもんだ」
「高瀬ってほんと何から何まで…」
「ああ、最低だよな」

 ヒビヤン、お前は俺の味方じゃないのか。
 冷ややかな友人の視線を感じつつ、飲み物を持って部屋へ行く。

 さて、来ている女の子は三人。
 一人はヒビヤンの彼女だからどうでもいいとして、他の二人の女子を物色する。
 二人共全く面識はないし、関わったことのないクラスの女子だ。
 どちらも可愛い女の子だったが、ポニーテールの女子の方と目が合ったらニコリと微笑まれた。

 あ、もう好きだわ。

 軽く紹介を済ませてから、俺達はお菓子を広げつつ勉強会を始める。

「亜美ちゃん、得意な教科何?」
「えっと…数学かなぁ」
「あ、マジ?俺数学ちょっと分からない所あってさー」

 なんて自然な流れでポニーテール女子の隣に座る。
 実際数学は俺も得意な方だが、そんなことはどうでもいい。
 ちらりと周囲を見たらヒビヤンと彼女は仲睦まじくテキストを開いていて、真島と結城はもう一人の女子と話していた。

 どうやらもう一人の子は、特進科の女子だったらしい。
 それなら結城もいるし、真島の成績が一方的に下がる展開にならなくて少し安心した。

 俺と亜美ちゃんは勉強しつつもちょいちょい雑談で盛り上がって、わりと悪くない感じだった。
 時たまみんなで会話をして意見交換しつつも、再び勉強に戻れば今度は亜美ちゃんから俺に話掛けてくれる。

 笑う度にさらりと揺れるロングのポニーテールが印象的で、やっぱり女の子は髪長いほうが可愛いよなーなんて頭の片隅で考える。
 やる気はないが形だけサラサラとシャーペンを走らせていたら、ふと視線を感じた。
 顔を上げれば、真島と目があう。

 が、慌てたようにさっと目を逸らされた。
 なに盗み見してんだコラ。
 意識すんなって言っただろうが。

 その後も若干苛立ちを覚えるレベルにはチラチラと視線を送られ、あえてツッコミはしないがおかげで集中出来なかった。
 まあそれがなくても集中してないが。


 勉強会は休憩を挟みつつものんびりと進み、時間が立てば俺と亜美ちゃんは結構仲良くなっていた。
 途中からこっそり勉強そっちのけで雑談するくらいには。
 
「ふふ、うめちゃんてホント面白いよね」

 周りに迷惑にならないように、クスクスと静かに亜美ちゃんが笑う。
 笑いながら服の袖を掴まれた。
 女の子のスキンシップは間違いなく脈アリという勝手な持論のある俺は、これはいけるとここで確信する。

 が、不意に伸びてきた手が亜美ちゃんの手を掴んだ。

「…あ?」

 急速に俺から離されていった手に、あれと思って視線を辿る。
 その手の先に、真島がいた。
 なぜか亜美ちゃんの手を掴んで。

「えっ…真島くん?」

 亜美ちゃんが驚いたように固まっている。
 その表情を見て真島も何かハッとしたようで、慌てて亜美ちゃんを掴んでいたその手を離す。
 意味深な行動に一瞬場の空気がおかしくなったが、取り繕うように真島は慌てて口を開いた。

「あ…ごめんね、その。手が綺麗だなって、つい」
「――えっ?」

 おい真島。その言い訳はダメだ。
 そう思ったが、もう遅かった。

 さっきまで好意的な目で俺を見てくれていたはずの亜美ちゃんは、既にぽーっと惚けたように真島を見つめていた。
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