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第二章 羽化
大学
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「ねえ!小林君!」
「何?」
「あっ、小林君じゃなくて、美月ちゃんだったねw」
「えっ!」
「美月ちゃんって、めっちゃスタイルいいんだねw」
長かった夏休みが終わり、俺が男モードで大学へ行くと、会話をした事のない女子大生たちから話かけられていた。
「ほらっ、この写真なんてモデルさんみたいだしw」
女子たちが見せてきたスマホの画面には、ビキニ姿の俺が映っていた。
どうやら、山本詩央里と野口愛美は俺との約束を破り、水着姿の謎の女性の正体が俺だったとネタバレさせていたようで、俺は夏休み期間中に「かっこいい女」として、大学の女子の間で有名になっていた。
女性社会には、秘密とか内緒話という概念が存在せず、普通の話は普通に拡散され、内緒話は「誰にも言わないでねw」という注釈付きで拡散されていた。
「ねえ! 大学にも女の子の格好で来なよw」
「うん! その方が絶対いいよ!」
夏休み中の俺は常に女モードでいたので男の格好に違和感があり、正直、女モードでいる方が楽だった。
しかし、女モードで大学に行くには、幾つかの懸念材料があった。
その一つは、同じ大学に通う北川謙一の存在だった。
北川は自称「性同一性障害」で、普段から女装をして大学に来ていたが、それは共感性羞恥を惹起させる姿で、女子だけではなく男子からも敬遠されていた。
女装をする俺は、性的マイノリティの人に理解がある方だが、北川からは女性特有の繊細な大胆さを感じることはなかった。
恐らく、北川は自分が性同一性障害だと思い込んでいるだけのノーマルな人間だと思われた。
入学当初の北川は、女子トイレに侵入していて、そのことは大学内で問題になっていた。
俺は、そんな北川と同類だと思われることを危惧していた。
「美月ちゃんは、アイツとは全然違うから気にしなくていいよ!」
「そうそう! 鈴木さんもそう思うでしょ?」
「うんw 男の洋服を着てる方が変だよw」
俺と一緒にいる莉子も、笑顔で俺が女モードになる事を肯定していた。
常に女モードでいることの二つ目の懸念材料は、莉子のリアクションだったが、彼女は俺が他の女子大生たちと親しく喋っていても、嫌がる素振りを見せなかった。
女装をする俺に対し、女子たちは「異性のバリア」をなくしていて、女同士のようにボディタッチをしてきたが、それは、俺の「彼氏」である莉子にとって嫌なことである筈だった。
しかし、俺に体を密着させている女子大生たちを見ても、莉子は平然としていた。
どうやら、俺が他の女性と仲良くする事は、浮気にはならないようだ。
「じゃあ、明日からそうするよw」
「本当!」
「うんw」
「楽しみw」
俺は女装をして大学に行くことにしたが、懸念材料は、まだ残っていた。
それは、男子たちの俺に対する態度の変化だった。
今の日本は、男女平等となっているが、実際は男社会のままだった。
それは、男と女…そのどちらの性別も経験している俺だから気付ける事だった。
「女にはレディースデーがあっていいな」と、呑気な事を言っている男には分からないと思うが、女性は日常的に小さな差別を受け続けていた。
その差別は「何だ、その程度かよw」と、一つ一つの差別は一蹴されるレベルで、一々訴訟を起こすまでもなかったが「女だから」とか「女のくせに」と事あるごとに言われ、男性なら何の問題もない事も女性がすれば問題視された。
しかし、生まれた時から女性である人は、その状況に慣れていて、差別を受けている事に気付いていない人も多い。
女性は男性よりも低い地位にあった…しかし、女装した男は、そんな女性よりも更に低い地位にいた。
世間的には「女装者=男に飢えている」と思われていて、女装大学生の北川謙一にも悪い噂が立っていた。
その噂とは、北川が男子トイレで男たちの性処理をしているという噂で、それは、恐らく事実だと思われた。
女装をした俺は、底辺の存在になる危険性があった…。
「何?」
「あっ、小林君じゃなくて、美月ちゃんだったねw」
「えっ!」
「美月ちゃんって、めっちゃスタイルいいんだねw」
長かった夏休みが終わり、俺が男モードで大学へ行くと、会話をした事のない女子大生たちから話かけられていた。
「ほらっ、この写真なんてモデルさんみたいだしw」
女子たちが見せてきたスマホの画面には、ビキニ姿の俺が映っていた。
どうやら、山本詩央里と野口愛美は俺との約束を破り、水着姿の謎の女性の正体が俺だったとネタバレさせていたようで、俺は夏休み期間中に「かっこいい女」として、大学の女子の間で有名になっていた。
女性社会には、秘密とか内緒話という概念が存在せず、普通の話は普通に拡散され、内緒話は「誰にも言わないでねw」という注釈付きで拡散されていた。
「ねえ! 大学にも女の子の格好で来なよw」
「うん! その方が絶対いいよ!」
夏休み中の俺は常に女モードでいたので男の格好に違和感があり、正直、女モードでいる方が楽だった。
しかし、女モードで大学に行くには、幾つかの懸念材料があった。
その一つは、同じ大学に通う北川謙一の存在だった。
北川は自称「性同一性障害」で、普段から女装をして大学に来ていたが、それは共感性羞恥を惹起させる姿で、女子だけではなく男子からも敬遠されていた。
女装をする俺は、性的マイノリティの人に理解がある方だが、北川からは女性特有の繊細な大胆さを感じることはなかった。
恐らく、北川は自分が性同一性障害だと思い込んでいるだけのノーマルな人間だと思われた。
入学当初の北川は、女子トイレに侵入していて、そのことは大学内で問題になっていた。
俺は、そんな北川と同類だと思われることを危惧していた。
「美月ちゃんは、アイツとは全然違うから気にしなくていいよ!」
「そうそう! 鈴木さんもそう思うでしょ?」
「うんw 男の洋服を着てる方が変だよw」
俺と一緒にいる莉子も、笑顔で俺が女モードになる事を肯定していた。
常に女モードでいることの二つ目の懸念材料は、莉子のリアクションだったが、彼女は俺が他の女子大生たちと親しく喋っていても、嫌がる素振りを見せなかった。
女装をする俺に対し、女子たちは「異性のバリア」をなくしていて、女同士のようにボディタッチをしてきたが、それは、俺の「彼氏」である莉子にとって嫌なことである筈だった。
しかし、俺に体を密着させている女子大生たちを見ても、莉子は平然としていた。
どうやら、俺が他の女性と仲良くする事は、浮気にはならないようだ。
「じゃあ、明日からそうするよw」
「本当!」
「うんw」
「楽しみw」
俺は女装をして大学に行くことにしたが、懸念材料は、まだ残っていた。
それは、男子たちの俺に対する態度の変化だった。
今の日本は、男女平等となっているが、実際は男社会のままだった。
それは、男と女…そのどちらの性別も経験している俺だから気付ける事だった。
「女にはレディースデーがあっていいな」と、呑気な事を言っている男には分からないと思うが、女性は日常的に小さな差別を受け続けていた。
その差別は「何だ、その程度かよw」と、一つ一つの差別は一蹴されるレベルで、一々訴訟を起こすまでもなかったが「女だから」とか「女のくせに」と事あるごとに言われ、男性なら何の問題もない事も女性がすれば問題視された。
しかし、生まれた時から女性である人は、その状況に慣れていて、差別を受けている事に気付いていない人も多い。
女性は男性よりも低い地位にあった…しかし、女装した男は、そんな女性よりも更に低い地位にいた。
世間的には「女装者=男に飢えている」と思われていて、女装大学生の北川謙一にも悪い噂が立っていた。
その噂とは、北川が男子トイレで男たちの性処理をしているという噂で、それは、恐らく事実だと思われた。
女装をした俺は、底辺の存在になる危険性があった…。
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