目が覚めました 〜奪われた婚約者はきっぱりと捨てました〜

鬱沢色素

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35・結婚式

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 その後の話。

 リーゼは捕らえられ、王城の騎士たちによって取り調べを受けることになった。

 信じられないような話だが、リーゼは魔族と人間の間に産まれた子どもだった。
 彼女の魅了魔法の才能は、魔族の血が半分流れていることに起因しているらしい。
 なかなかその才能は開花しなかったみたいだけど、いずれ使えるようになると見込んで、魔族が接触してきた──ということだ。

 彼女の夢は『自分だけのハーレムを作る』こと。
 まあ、その夢自体を否定するつもりはないが……他人に迷惑をかけたり、薬や魔法に頼り切っている時点でナンセンス。
 身勝手な話ね。

 リーゼは裁判を受けることになった。
 罪状は『魔族と結託し、国を転覆させようとした罪』である。

 輝かしい聖女候補から稀代の悪女に堕ちた彼女。
 民衆からの失望、そして怒りも大きかった。

 国としても、せっかくの聖女候補が──と言っている場合ではない。
 リーゼは処刑されることになった。

 聖女候補が亡くなるだけでも民衆の動揺は大きいのに、よりにもよって魔族と共謀していたとは。
 国は荒れた。王家への支持率もガクンと下がったという。

 そのせいで、私とアロイス様の結婚もしばらくお預けとなる。


『俺としては、すぐにでも君と式を挙げたいんだがな。しかし今の混乱している情勢では、結婚式は挙げられない。君に対する反感の声も多くなるだろう。せめて、君が学園を卒業するまで……待ってくれるか?』


 私は時間を空けずに頷き、アロイス様にこう言った。

『はい。今は国を安定させる方が先でしょう。それに……私はアロイス様と一緒になることに決めました。なんなら、十年でも二十年でも──死ぬまで、あなたを愛し続けます。心配しないでください』

 ちょっと重い女すぎるかな?

 ──と言ってから不安になったが、アロイス様は微笑みを浮かべる。

『ありがとう。それは俺も同じだ。俺はディアナを愛している。何年かかろうとも、式を挙げよう』

 そう答えてくれた。

 アロイス様はこれから忙しくなるみたいだけど、式が延期になったおかげで、私の方には幾分か時間が出来た。

 学園での勉強にさらに打ち込むことにした。
 念願だった学年一位の座も、在学中に何度か射止めた。
 私、ちょっとはアロイス様にふさわしい女性になれているかしら?

 さらに最高学年である三年性になった時、私は生徒会に入ることにした。

 入学した頃は、生徒会に入るつもりなんてなかった。
 私より適任がいると思っていたからだ。

 それなのに生徒会に入ると決めたのは、アロイス様の存在があったから。アロイス様も学園に在籍中、生徒会長として皆を引っ張っていたらしい。
 ならばいずれ王妃となる私も、彼と同じ道を歩みたいと思ったからだ。

 ……とはいえ、さすがに生徒会長になるのは荷が重すぎる。
 そこで親友のコルネリアを生徒会長に……と推した。


『えー? 私が生徒会長? もっと適任がいるんじゃないかしら?』
 

 私がコルネリアに提案すると、当初彼女は乗り気ではなかった。

『なにを言ってるのよ。あなた以上の適任はないわ』
『うーん……ディアナも生徒会に入るっていうなら、私も一緒に入りたいけど……そもそも生徒会選挙で受かるかしら。選挙に受からなかったら、いくらなりたくてもなれないし』
『それは心配いらないわ。絶対に受かるから』
『絶対に……なんて、ディアナにしては大きく出たわね。そこまで言うなら分かったわ。受からなかったら、責任取ってよね?』

 冗談めかして、コルネリアが言う。

 生徒会選挙が始まる。

 波乱万丈の……と言いたいところだが、特に問題らしい問題もなく、見事コルネリアは生徒会長に当選。
 ってか、彼女が人気すぎて、正直敵なしだった。圧倒的支持でコルネリアは生徒会長となった。
 まあ、最初から分かっていた結果だったけどね。

 そして私は書記として、生徒会長コルネリアを支えることになった。

 最初は慣れない仕事に戸惑った。
 しかしみんなの支えもあって、なんとか生徒会の任期を全うすることが出来た。
 終わった時は、名残惜しいやらほっとしたやらで、思わず涙を流しちゃったわね。コルネリアに泣き顔を笑われのは、少し納得してないけど。

 学園でやりたいことも全てやり終え、晴れて卒業式を迎えた。

 ……あっ、そうそう。
 フリッツのことも説明しておこうかしらね。

 婚約お披露目パーティーの時、フリッツは魔族に殺されかけた。
 しかしその時の傷も完全に癒え、程なくして彼は学園に通うことになった。
 私と婚約してから、フリッツはずっと暗い雰囲気を纏っており、他の生徒も近寄りがたいようだったけど……あのことがきっかけで、元のフリッツに戻った。


『憑き物が取れたような気持ちだ。なんならあの時、僕を殺そうとした魔族に感謝してるくらいだ』


 と苦笑していたフリッツは今でも思い出せる。

 口にはしなかったけど、あの事件でフリッツはが付いたんだろうと思う。

 三年性になる時には、フリッツも別の婚約者が出来た。
 お相手は男爵家の令嬢で、あまり目立たない子だったが、可愛いし性格も穏やかだと聞いている。

 フリッツと婚約破棄した時は、正直フリッツのことを良く思っていなかったが……今は違う。
 今はお互い別々の道を歩み、幸せになればいいと思う。

 言うなれば、フリッツだってリーゼの被害者だったんだしね。
 まあ、媚薬を跳ね返すほど、フリッツは私のことが好きじゃなかったということだし、リーゼの件がなくても結局こうなっていたんじゃないかと思う。
 だから私はフリッツと別れたことを後悔していないし、彼が別の女と婚約しても恨む気持ちは毛頭ない。

『お互い、幸せになりましょう』
『うん』

 そう言葉を交わしたフリッツは、学園に入学する前の彼の表情と一緒だった。


 さあ──今度は私が幸せになる番だ。


 丁度、私が学園を卒業して。
 リーゼの記憶がみんなの記憶から薄れていた頃──。

 私とアロイス様の結婚式が執り行われることになった。


 ◆ ◆


 式当日。

 結婚式場となった王城は、外から見てもまるで絵画のように美しく彩られていた。
 城壁の上には純白の花々が優雅に咲き乱れ、広がる青空がその白さをより一層際立たせている。
 窓から差し込む春の木漏れ日が穏やかに広場を照らし、それぞれの光は精霊たちのダンスしているかのよう。
 式場には人々があふれ、笑顔と歓声が場を満たしていた。

 みんなが私とアロイス様の結婚式を祝福してくれる。

 なのに……。


「アロイス様がいない!?」


 トラブル発生!

 オレールさんからの報告を聞き、私は慌てた声を発する。

「はい」

 しかし一方のオレールさんは冷静だ。

「果たして、どこに行ってしまわれたのやら……騎士総動員で探しても、アロイス様の姿が見当たりません」
「本当?」
「ホントデスヨ」

 ……オレールさん、演技が下手ね。

 そもそも、結婚式でアロイス様がいなくなるなんて、いくらなんでも有り得ない事態。
 オレールさん、なにか知っているわね。

「分かりました。あなたの考えに乗ってあげましょう」
「カンガエ?」
「その下手な演技はやめてください!」

 つい大きな声を発してしまう。

 私はアロイス様を探すべく、式場を一旦後にする。

 式の途中までは、いたっていうのに……一体どこで道草を食っていることやら。

 だけど私には心当たりがあった。
 真っ直ぐと、その場所まで歩みを進める。

「あ」

 やっぱりいた。
 中庭の片隅で、アロイス様は一人ぽつんと佇んで、青空を見上げていたのだ。
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