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31・リーゼの行方
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それから。
私は王城で保護されることになった。
魔族──そしてリーゼ(?)の思惑は分からないが、私を狙いの対象にしている可能性は極めて高い。
前回は黒幕の算段が付いていかなかった。このままでは埒が開かないと思い、護衛はつけて、私は普段通りの生活を送った。
しかし今回は違う。
リーゼが黒幕なのでは、と分かっているのである。
ゆえに少なくとも彼女の身柄を拘束するまでは、王城で保護されることになったが……。
「リーゼが見つからない?」
私のために用意された王城内の一室。
コルネリアがそう教えてくれると、私は驚きで声を上げてしまった。
「ええ。学園に来ていないわ。親衛隊の人たちにも聞き込みをしたけど、リーゼの居場所については知らないみたいだし……」
「なんてこと……」
「もちろん、騎士や警備兵の方々が、今もリーゼを捜索している。王都内にあるリーゼの家に行っても、もぬけの空だったみたいで手がかりすらないのよ」
とコルネリアは頬に手を当て、困ったように言った。
今、このタイミングで行方をくらましている……?
今回のことで、さすがに自分が疑われると気付いたのだろうか。ゆえに姿を隠した……と。
「不気味ね」
「うん。いっそのこと、このまま諦めてくれればいいんだけど……楽観視もいけないわ」
リーゼはなにを考えているんだろう?
私が王城内で保護されている限り、手を出すのは難しい気がする。
ただでさえ、厳戒態勢を敷いているからだ。
となっては、このままいってもジリ貧。
他国にでも行って、そのまま戻ってこないつもりかしら?
「どうしよう……リーゼが見つからない限り、私も学園に通っちゃいけないわよね?」
「そうね。あまりに危険すぎる。だからリーゼが諦めたという確信があるまで、お城からは出せないと思うけど……あなたはそれでいい?」
「それについては問題ないわ。アロイス様に気を遣わせるのが申し訳ないくらい」
「そんなこと、考えなくていいのよ。なんなら、お兄様はあなたがいつも近くにいてくれて、喜んでくれるくらい」
暗い空気を吹き飛ばそうとしているのか、コルネリアが明るい声を出す。
ここにいれば、ひとまずは安全……なはず。
しかし、やはり胸騒ぎがする。
リーゼがこの程度諦めるとは思えないからだ。
「アロイス様と一度、お話しする必要があるわね」
そう言って、私は椅子から立ち上がる。
「アロイス様のところへ行きましょう」
「うん。お兄様なら、なにか良い案を出してくれるかもしれないしね」
確かに。
今まで、アロイス様を近くで見てきたが、「彼ならなんとかしてくれる」という安心感がある。
私一人でうだうだ悩んでいるよりも、まずはアロイス様に相談してみるべきだ。
「なにも起こらなかったらいいんだけど……」
しかし先ほどから胸の不安がなかなか解消されない。
こういう時の私の勘、良くも悪くも当たるのよね……。
私は退出して、アロイス様のところへ向かった──。
◆ ◆
〈アロイス視点〉
夜。
俺──アロイスは執務室で、とある書類に目を通していた。
リーゼに関する報告書である。
「うむ、リーゼの行方は不明……か」
書かれていた内容は芳しくない。
リーゼのような小娘一人が、半永久的に身を隠すことなど出来るだろうか?
王国は広い。だが、こちらはリーゼ捜索のためにかなりの人数を割いている。他国に亡命しようとも、リーゼは『聖女候補』として顔も割れており、有名だ。そう簡単に亡命出来るものとは思えない。
リーゼが類稀なる魔力の持ち主だと言われようが、それはまだ未完成。戦いや捜索に長けた魔法使いなら、こちらも多く抱えている。
それなのに、彼女は逃げ切れると思っているのだろうか?
「そもそも今回の一連の流れは、おかしなことばかりだ。まるで時間を稼いでいるかのよう」
仮にリーゼの目的が『ディアナ殺害』にあるとするなら、今までどうして自分で手を下そうとしなかった?
自分が手を汚すまででもない?
結果的に、何度も失敗しているではないか。
自分ではディアナを殺せない?
精神的には強いが、ディアナはか弱い女性だ。ちょっとしたナイフでもあれば、リーゼでもディアナを殺すことは出来る。中途半端に魔族を雇うから、こちらが警戒して、護衛を固めることになるのだ。
「いや……そもそもディアナを殺すべく魔族を差し向けたのは、ラヴェンロー伯爵子息だったな」
ラヴェンロー伯爵の子ども──マチアスがリーゼの命令を聞いて、魔族を雇ったということは絶対にない。それは前の調査で分かっていることだ。
ならば、マチアスにも媚薬を使い、リーゼが裏で操っていた? マチアスはそのことに気付かなかった。だからリーゼとマチアスは(親衛隊という繋がりはあるものの)無関係とされたのだ。
「リーゼがディアナを殺そうとする理由も分からん。逆なら分かるがな」
もっとも、ディアナが婚約者を取られた恨みでリーゼを殺すことは、万が一にでもない。
そういう女性ではないのだ。
隠された、本当の理由があるのかもしれない。
そのためにはディアナが邪魔だった……そう考えるべきだ。
「とうことは、これまでの推論を繋ぎ合わせば、一つの結論が出る。リーゼは時間を稼ぎ、ディアナを殺すための力──もしくは方法を見つけようとしていた。彼女を殺し、本当の理由を達成しようとした……と」
しかし現時点ではノイズが多すぎて、はっきりとした答えが出ない。
「……いかんな。考えが堂々巡りになっている。他の人間の意見も求めるべきか……」
そう思い立ちあがろうとすると、扉がノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「ディアナです。アロイス様にお話があります。入ってもいいですか?」
ディアナの声が扉の向こうから聞こえた。
俺は警戒を解かないまま、こう口を動かす。
「分かった。入ってくれ」
「はい、失礼します」
扉が開き、部屋にディアナが入ってきた。
ルビーの煌めきを秘めた赤髪。
少女の可憐さと、大人の美しさを両立した容姿。
間違いない。
ディアナの姿である。
「…………」
「……? どうされたのですか、アロイス様。先ほどから黙っていますが」
首を傾げるディアナ。
そういったさりげない動作も、彼女の魅力が詰まっていて、思わず頬が綻びそうになった。
「近付きますね。もっと近くで、あなたの顔が見たい──」
「動くな」
一歩踏み出そうとする彼女を、俺は制止させる。
「君はディアナじゃない。リーゼだな……?」
私は王城で保護されることになった。
魔族──そしてリーゼ(?)の思惑は分からないが、私を狙いの対象にしている可能性は極めて高い。
前回は黒幕の算段が付いていかなかった。このままでは埒が開かないと思い、護衛はつけて、私は普段通りの生活を送った。
しかし今回は違う。
リーゼが黒幕なのでは、と分かっているのである。
ゆえに少なくとも彼女の身柄を拘束するまでは、王城で保護されることになったが……。
「リーゼが見つからない?」
私のために用意された王城内の一室。
コルネリアがそう教えてくれると、私は驚きで声を上げてしまった。
「ええ。学園に来ていないわ。親衛隊の人たちにも聞き込みをしたけど、リーゼの居場所については知らないみたいだし……」
「なんてこと……」
「もちろん、騎士や警備兵の方々が、今もリーゼを捜索している。王都内にあるリーゼの家に行っても、もぬけの空だったみたいで手がかりすらないのよ」
とコルネリアは頬に手を当て、困ったように言った。
今、このタイミングで行方をくらましている……?
今回のことで、さすがに自分が疑われると気付いたのだろうか。ゆえに姿を隠した……と。
「不気味ね」
「うん。いっそのこと、このまま諦めてくれればいいんだけど……楽観視もいけないわ」
リーゼはなにを考えているんだろう?
私が王城内で保護されている限り、手を出すのは難しい気がする。
ただでさえ、厳戒態勢を敷いているからだ。
となっては、このままいってもジリ貧。
他国にでも行って、そのまま戻ってこないつもりかしら?
「どうしよう……リーゼが見つからない限り、私も学園に通っちゃいけないわよね?」
「そうね。あまりに危険すぎる。だからリーゼが諦めたという確信があるまで、お城からは出せないと思うけど……あなたはそれでいい?」
「それについては問題ないわ。アロイス様に気を遣わせるのが申し訳ないくらい」
「そんなこと、考えなくていいのよ。なんなら、お兄様はあなたがいつも近くにいてくれて、喜んでくれるくらい」
暗い空気を吹き飛ばそうとしているのか、コルネリアが明るい声を出す。
ここにいれば、ひとまずは安全……なはず。
しかし、やはり胸騒ぎがする。
リーゼがこの程度諦めるとは思えないからだ。
「アロイス様と一度、お話しする必要があるわね」
そう言って、私は椅子から立ち上がる。
「アロイス様のところへ行きましょう」
「うん。お兄様なら、なにか良い案を出してくれるかもしれないしね」
確かに。
今まで、アロイス様を近くで見てきたが、「彼ならなんとかしてくれる」という安心感がある。
私一人でうだうだ悩んでいるよりも、まずはアロイス様に相談してみるべきだ。
「なにも起こらなかったらいいんだけど……」
しかし先ほどから胸の不安がなかなか解消されない。
こういう時の私の勘、良くも悪くも当たるのよね……。
私は退出して、アロイス様のところへ向かった──。
◆ ◆
〈アロイス視点〉
夜。
俺──アロイスは執務室で、とある書類に目を通していた。
リーゼに関する報告書である。
「うむ、リーゼの行方は不明……か」
書かれていた内容は芳しくない。
リーゼのような小娘一人が、半永久的に身を隠すことなど出来るだろうか?
王国は広い。だが、こちらはリーゼ捜索のためにかなりの人数を割いている。他国に亡命しようとも、リーゼは『聖女候補』として顔も割れており、有名だ。そう簡単に亡命出来るものとは思えない。
リーゼが類稀なる魔力の持ち主だと言われようが、それはまだ未完成。戦いや捜索に長けた魔法使いなら、こちらも多く抱えている。
それなのに、彼女は逃げ切れると思っているのだろうか?
「そもそも今回の一連の流れは、おかしなことばかりだ。まるで時間を稼いでいるかのよう」
仮にリーゼの目的が『ディアナ殺害』にあるとするなら、今までどうして自分で手を下そうとしなかった?
自分が手を汚すまででもない?
結果的に、何度も失敗しているではないか。
自分ではディアナを殺せない?
精神的には強いが、ディアナはか弱い女性だ。ちょっとしたナイフでもあれば、リーゼでもディアナを殺すことは出来る。中途半端に魔族を雇うから、こちらが警戒して、護衛を固めることになるのだ。
「いや……そもそもディアナを殺すべく魔族を差し向けたのは、ラヴェンロー伯爵子息だったな」
ラヴェンロー伯爵の子ども──マチアスがリーゼの命令を聞いて、魔族を雇ったということは絶対にない。それは前の調査で分かっていることだ。
ならば、マチアスにも媚薬を使い、リーゼが裏で操っていた? マチアスはそのことに気付かなかった。だからリーゼとマチアスは(親衛隊という繋がりはあるものの)無関係とされたのだ。
「リーゼがディアナを殺そうとする理由も分からん。逆なら分かるがな」
もっとも、ディアナが婚約者を取られた恨みでリーゼを殺すことは、万が一にでもない。
そういう女性ではないのだ。
隠された、本当の理由があるのかもしれない。
そのためにはディアナが邪魔だった……そう考えるべきだ。
「とうことは、これまでの推論を繋ぎ合わせば、一つの結論が出る。リーゼは時間を稼ぎ、ディアナを殺すための力──もしくは方法を見つけようとしていた。彼女を殺し、本当の理由を達成しようとした……と」
しかし現時点ではノイズが多すぎて、はっきりとした答えが出ない。
「……いかんな。考えが堂々巡りになっている。他の人間の意見も求めるべきか……」
そう思い立ちあがろうとすると、扉がノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「ディアナです。アロイス様にお話があります。入ってもいいですか?」
ディアナの声が扉の向こうから聞こえた。
俺は警戒を解かないまま、こう口を動かす。
「分かった。入ってくれ」
「はい、失礼します」
扉が開き、部屋にディアナが入ってきた。
ルビーの煌めきを秘めた赤髪。
少女の可憐さと、大人の美しさを両立した容姿。
間違いない。
ディアナの姿である。
「…………」
「……? どうされたのですか、アロイス様。先ほどから黙っていますが」
首を傾げるディアナ。
そういったさりげない動作も、彼女の魅力が詰まっていて、思わず頬が綻びそうになった。
「近付きますね。もっと近くで、あなたの顔が見たい──」
「動くな」
一歩踏み出そうとする彼女を、俺は制止させる。
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