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27・そう簡単にお披露目パーティーは終わらないようです
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火事……?
よりにもよって、こんな時に?
疑問に思っていると、パーティー会場があっという間に黒い煙で充満した。
みんなは咳払いをして、この場から逃げようとする。
しかし。
「と、扉が開かない!?」
誰かがそう叫び、会場の人たちの混乱が最高潮に達する。
他の人たちもなんとか脱出経路を探ろうとするが、窓も扉も全て鍵がかけられているようだ。
窓ガラスを割ろうとしても、不思議なことに、全く破損しない。まるで結界が張られているみたい。
「結界……?」
違和感が湧く。
オレールさんに伝えようとするが、煙のせいで視界が遮られ、みんなとはぐれてしまった。
まずい──。
そう考え、誰か護衛騎士を探ろうとするが。
「今だ! やっちまえ!」
「人間どもを皆殺しだ!」
声が二重に重なっているような、そんな不思議な音。
「ま、魔族だと!? パーティーの興奮に紛れて、襲撃をかけてきたか!」
護衛騎士らしき男の声も聞こえてくる。
魔族。
それは私にとっても記憶に新しい。
人の姿を模しているものの、人間とは相容れない存在。
数ヶ月前にはラヴェンロー元伯爵の子息、マチアスの暴走によって、私は魔族に殺されそうになった。
「皆の者! 冷静になれ! ここには騎士が控えている! やつらは今日こそが好機だと思ったようだが、それは間違いだ。今が一番、城の守りが固い!」
オレールさんの声だ。
それを合図に、至るところから戦いの音が聞こえてくる。
ここで私が出しゃばっても、足を引っ張るだけだ。彼らにとって、私は守る対象なのだから。
だから見つからないように、なるべく戦いの音から離れるようにした。
「だけど……そのせいでオレールさんや、他の護衛騎士と合流出来ないわね」
とはいえ、こんなに視界が悪い中で動き回っていては、それこそ「狙ってくれ」と言っているようなものだ。
ゆえに不用意に動かず、戦いが終わるのを待った。
幸いなことに、どうやらこちら側優勢で戦いが進んでいるよう。
音を聞いたり、かすかに見える光景から判断しているわけだけど……このまま時間が経てば、直に混乱もおさまるだろう。
しかし私の中の違和感がさらに大きくなっていく。
どうして、魔族はこの日に襲撃をしかけたんだろうか?
この黒い煙は、いわば結界のようなものだろう。これにより参列者を会場内に閉じ込めた。
他から救援が来るのを防ぐ狙いもある。これだけ用意周到なら、突発的な襲撃ではないはずだ。
だが、魔族たちの思惑に反して、戦いはあちらが圧倒的に劣勢。
オレールさんが叫んだ通り、お披露目パーティーのために護衛騎士を場内──そして会場に配置していたので、なんなら別の日より守りが固い。
やつらの目的である『人間の皆殺し』を達成するには、いくら国中の貴族が集まっているとはいえ、今日という日を選ぶのは悪手な気がする。
準備もしていたのに、魔族はそんなことにも頭が回らなかったのか?
護衛騎士たちの戦力を見誤った?
なんなら、『人間の皆殺し』という目的は彼らにとって目眩し。本当の目的は別にあって……。
私はその理由に思い当たり、さーっと血の気が引いていくのを感じる。
「狙いは……私?」
アロイス様や国王陛下という線も考えた。
しかし陛下は今この場にいないし、アロイス様も別のところで事件があったみたいで不在。
となると、この場で次に重要な人物……アロイス様の婚約者である私だ。
戦いが終わるのを待っている場合ではない……?
だが、動いたら余計に事態を悪化させるのでは……?
時間にしては僅かだっただろう。
その間隙を縫うようにして、後ろから邪悪な声が聞こえた。
「ここにいたか」
ぞっとして、振り返る。
私の目の前には魔族がいた。魔族は腕を魔力で包み、それで私の胸を貫こうとする。
「……っ!」
怯えのせいで、上手く叫び声を発することが出来ない。
「悪いな。お前にはなんの恨みもないが、これも姫の指令なんだ。死んでもらう」
姫……?
誰のことだ?
その疑問に対する答えを出せないまま、次に襲いかかる痛みに備え、咄嗟に目を瞑り──。
「ディアナ!!」
しかし悲劇は訪れなかった。
恐る恐る目を開けると、私と魔族の間に一人の男が割って入っていた。
そのおかげで魔族の攻撃は彼に阻まれ、私は無傷。
だが、魔族の攻撃は彼の体を貫いていた。
私を助けてくれたのは……。
「フ、フリッツ!?」
その名を叫ぶ。
フリッツはゆっくりとこちらを振り向き、寂しい笑顔を浮かべた。
「よかった……君が無事で」
「なんであなたが……」
問いかける間もなく、フリッツがゆっくりと床に倒れていった。
「ちっ……邪魔が入ったか。仕切り直し──」
「ディアナ様!」
魔族が再び私を殺すべく魔力を纏うが、それより早くオレールさんが駆けつける。
オレールさんは剣を一閃。
あっという間に魔族を葬ってしまった。
「ディアナ様! ようやく見つけました! ご無事ですか!?」
「わ、私は大丈夫。だけど……フリッツが」
そう言って、前のめりに倒れているフリッツに視線をやる。
彼の背中から血がじわりと滲み出ている。呼びかけても返事はなく、微動だにしない。
私は最悪の事態を想定し、言葉を失ってしまう。
「……いえ、まだ息があります。すぐに治療すれば、助かるでしょう」
私の想像を打ち消すように、オレールさんがそう言った。
「それは本当!?」
「はい。まもなく、戦いも我らの勝利で終わります。ディアナ様は俺から離れないように。どうやら、彼らの狙いはディアナ様なのですから」
「う、うん……」
頷く。
フリッツ……大丈夫よね?
魔族が襲ってくる前、私になにか言いかけていていたわよね?
のことも聞いてないし、私を助けた理由も……だ。
お願い、生きて!
オレールさんの言う通り、程なくして魔族との戦いは終わり、私たち人間の勝利で幕を閉じたのであった。
よりにもよって、こんな時に?
疑問に思っていると、パーティー会場があっという間に黒い煙で充満した。
みんなは咳払いをして、この場から逃げようとする。
しかし。
「と、扉が開かない!?」
誰かがそう叫び、会場の人たちの混乱が最高潮に達する。
他の人たちもなんとか脱出経路を探ろうとするが、窓も扉も全て鍵がかけられているようだ。
窓ガラスを割ろうとしても、不思議なことに、全く破損しない。まるで結界が張られているみたい。
「結界……?」
違和感が湧く。
オレールさんに伝えようとするが、煙のせいで視界が遮られ、みんなとはぐれてしまった。
まずい──。
そう考え、誰か護衛騎士を探ろうとするが。
「今だ! やっちまえ!」
「人間どもを皆殺しだ!」
声が二重に重なっているような、そんな不思議な音。
「ま、魔族だと!? パーティーの興奮に紛れて、襲撃をかけてきたか!」
護衛騎士らしき男の声も聞こえてくる。
魔族。
それは私にとっても記憶に新しい。
人の姿を模しているものの、人間とは相容れない存在。
数ヶ月前にはラヴェンロー元伯爵の子息、マチアスの暴走によって、私は魔族に殺されそうになった。
「皆の者! 冷静になれ! ここには騎士が控えている! やつらは今日こそが好機だと思ったようだが、それは間違いだ。今が一番、城の守りが固い!」
オレールさんの声だ。
それを合図に、至るところから戦いの音が聞こえてくる。
ここで私が出しゃばっても、足を引っ張るだけだ。彼らにとって、私は守る対象なのだから。
だから見つからないように、なるべく戦いの音から離れるようにした。
「だけど……そのせいでオレールさんや、他の護衛騎士と合流出来ないわね」
とはいえ、こんなに視界が悪い中で動き回っていては、それこそ「狙ってくれ」と言っているようなものだ。
ゆえに不用意に動かず、戦いが終わるのを待った。
幸いなことに、どうやらこちら側優勢で戦いが進んでいるよう。
音を聞いたり、かすかに見える光景から判断しているわけだけど……このまま時間が経てば、直に混乱もおさまるだろう。
しかし私の中の違和感がさらに大きくなっていく。
どうして、魔族はこの日に襲撃をしかけたんだろうか?
この黒い煙は、いわば結界のようなものだろう。これにより参列者を会場内に閉じ込めた。
他から救援が来るのを防ぐ狙いもある。これだけ用意周到なら、突発的な襲撃ではないはずだ。
だが、魔族たちの思惑に反して、戦いはあちらが圧倒的に劣勢。
オレールさんが叫んだ通り、お披露目パーティーのために護衛騎士を場内──そして会場に配置していたので、なんなら別の日より守りが固い。
やつらの目的である『人間の皆殺し』を達成するには、いくら国中の貴族が集まっているとはいえ、今日という日を選ぶのは悪手な気がする。
準備もしていたのに、魔族はそんなことにも頭が回らなかったのか?
護衛騎士たちの戦力を見誤った?
なんなら、『人間の皆殺し』という目的は彼らにとって目眩し。本当の目的は別にあって……。
私はその理由に思い当たり、さーっと血の気が引いていくのを感じる。
「狙いは……私?」
アロイス様や国王陛下という線も考えた。
しかし陛下は今この場にいないし、アロイス様も別のところで事件があったみたいで不在。
となると、この場で次に重要な人物……アロイス様の婚約者である私だ。
戦いが終わるのを待っている場合ではない……?
だが、動いたら余計に事態を悪化させるのでは……?
時間にしては僅かだっただろう。
その間隙を縫うようにして、後ろから邪悪な声が聞こえた。
「ここにいたか」
ぞっとして、振り返る。
私の目の前には魔族がいた。魔族は腕を魔力で包み、それで私の胸を貫こうとする。
「……っ!」
怯えのせいで、上手く叫び声を発することが出来ない。
「悪いな。お前にはなんの恨みもないが、これも姫の指令なんだ。死んでもらう」
姫……?
誰のことだ?
その疑問に対する答えを出せないまま、次に襲いかかる痛みに備え、咄嗟に目を瞑り──。
「ディアナ!!」
しかし悲劇は訪れなかった。
恐る恐る目を開けると、私と魔族の間に一人の男が割って入っていた。
そのおかげで魔族の攻撃は彼に阻まれ、私は無傷。
だが、魔族の攻撃は彼の体を貫いていた。
私を助けてくれたのは……。
「フ、フリッツ!?」
その名を叫ぶ。
フリッツはゆっくりとこちらを振り向き、寂しい笑顔を浮かべた。
「よかった……君が無事で」
「なんであなたが……」
問いかける間もなく、フリッツがゆっくりと床に倒れていった。
「ちっ……邪魔が入ったか。仕切り直し──」
「ディアナ様!」
魔族が再び私を殺すべく魔力を纏うが、それより早くオレールさんが駆けつける。
オレールさんは剣を一閃。
あっという間に魔族を葬ってしまった。
「ディアナ様! ようやく見つけました! ご無事ですか!?」
「わ、私は大丈夫。だけど……フリッツが」
そう言って、前のめりに倒れているフリッツに視線をやる。
彼の背中から血がじわりと滲み出ている。呼びかけても返事はなく、微動だにしない。
私は最悪の事態を想定し、言葉を失ってしまう。
「……いえ、まだ息があります。すぐに治療すれば、助かるでしょう」
私の想像を打ち消すように、オレールさんがそう言った。
「それは本当!?」
「はい。まもなく、戦いも我らの勝利で終わります。ディアナ様は俺から離れないように。どうやら、彼らの狙いはディアナ様なのですから」
「う、うん……」
頷く。
フリッツ……大丈夫よね?
魔族が襲ってくる前、私になにか言いかけていていたわよね?
のことも聞いてないし、私を助けた理由も……だ。
お願い、生きて!
オレールさんの言う通り、程なくして魔族との戦いは終わり、私たち人間の勝利で幕を閉じたのであった。
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