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26・婚約お披露目パーティー

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 お披露目パーティー当日となった。
 王城のパーティー会場は、人でごった返しており、賑やかなで華やかな空気が流れている。

 ここにくると十三年前、アロイス様と初めて会った時を思い出す。
 もっとも、あの時の私は彼を『アロー君』として認識していたわけだけど。

 私もキレイなドレスを着させてもらって、本日の主役として挨拶回りに奔走ている。
 教育係のおかげで、ちょっとは次期王妃らしい行動が出来ているかしら?
 あとで怒られなかったら、いいけど。


「お兄様、ディアナ──何度でもいうけど、婚約おめでとう。自分のことのように嬉しいわ」


 そう言ってくれるのはコルネリア。

 彼女は淡い水色のドレスを纏っていた。
 それは夏の空を思わせるような、穏やかで涼しげな色合いで、彼女の魅力をより一層引き立たせている。

「僕からも言うよ。二人とも、おめでとう」

 彼女の隣にはサロモン様もいる。

 コルネリアとサロモン様の姿を見ているだけでも、二人の仲睦まじさが伝わってきた。

「ありがとうございます。これからはより一層、アロイス様の婚約者として、恥ずかしくない行動を心がけますわ」

 と二人に向けて、丁重に頭を下げる。

「そんなものは気にしなくていい。ほら、見てみろ。周囲の人間が君の美しさに酔いしれている」

 隣でアロイス様がそう口を挟む。

「もう……っ! アロイス様ったら」

 先日の恋人らしいことをやった一件以降。
 アロイス様との距離がぐっと縮まった気がする。

 そんな私たちの様子を眺めて、コルネリアとサロモン様も微笑ましそうだった。

「二人とも、見せつけてくれるわね。お似合いだわ」
「だけど僕とコルネリアも負けてないと思うよ? そこだけは譲れない」
「サロモン様は変なことを言わないでくださいませ」

 とコルネリアがサロモン様を嗜める。

 二人のラブラブっぷりには年季が入っている。前よりは距離が縮まったとはいえ、まだまだ二人には勝てる気がしない。

「それにしてもサロモン、我が国はどうだ? 楽しんで──」

 アロイスがそう言葉を続けようとした時であった。

 オレールさんがこちらに駆け足で来て、アロイス様に耳打ちする。
 その声が漏れ、近くの私にも二人の喋っている内容が少しだけ聞こえてきた。

「……アロイス様。実は……」
「ん? そんなことが」
「どうされますか?」
「そうだな……めでたいパーティーを台無しにしてしまうことは、万が一にでも避けなければならん。俺が行く」

 そう言って、アロイス様は私に視線を向ける。

「ディアナ。悪いが、仕事が出来た。すぐに戻ってくる。しばらく君一人にさせてしまうが、いいか?」
「それは問題ございませんが……なにかトラブルでも?」
「なあに、大したことはない。俺が行けば、すぐに解決する。オレール、君は引き続きディアナたちを護衛してくれ」
「承知しました」

 そんなやり取りの後、アロイス様は会場から去ってしまった。

「お兄様ったら、こんな時くらい仕事なんて忘れてもいいのに。婚約者を一人にさせるなんて、言語道断だわ」

 コルネリアは兄の行動に、少し憤りを感じているよう。

「まあまあ、アロイス様も大変なのよ。すぐに戻ってくると言ってるんだし、怒る必要はないわ」

 なんにせよ、私はアロイス様の重荷になりたくない。

 私と仕事、どっちが大切なの!
 ……なーんてことは、口が裂けても言いたくない。

「私も一通り挨拶回りが済んだし、パーティーを楽しもうかしら」
「それがいいわ、ディアナ。料理、美味しいわよ」
「うーん、緊張してあんまりお腹が空いていないし……」

 どうしようかと思っていた時であった。


「ディアナ……」


 最早、今となっては懐かしい声。

 反射的に声のする方に顔を向けると、そこにはフリッツが立ちすくんでいた。

「フリッツ……」

 フリッツはなにか喋りたそうだ。

 ディアナとオレールさんが警戒して、私の前に立った。

 しかし私はそれをさっと手で制する。

「大丈夫。彼と二人っきりで喋らせて」
「でも……」
「だから大丈夫だってば。私は次期王妃なのよ? なんかしてきたら、不敬罪で捕らえてあげるわ」

 もちろん、そんな風に権力を振りかざしはしないが、気合いを込める意味でもそう口にした。

 私は一歩踏み出し、フリッツに歩み寄る。

「よく出席出来たわね。まだ私になにか言い足りないことでも?」
「い、いや、そうじゃないんだ」

 久しぶりに真正面から見た彼は、くたびれているようにも思えた。

「そ、その……婚約おめでとう。君ならアロイス殿下の婚約者にふさわしい。この国の未来も安泰だね」
「あら……?」

 フリッツがそんなことを言い出すと思っていなかった。
 今までの彼ならこの期に及んで、婚約破棄を取り消してくれ……とでも言うと思っていたからね。

「意外ね。どういう風の吹き回し?」
「許してくれと言うつもりはない。僕は許されざることをやった。だけど……僕でも反省するんだ」

 そう言うフリッツの言葉は嘘ではなく、彼の本音が込められているように思えた。

 正直、困った。
 フリッツの顔を見たら「どう? あなたが捨てた女は、アロイス様の婚約者になったのよ?」と悪態でも吐いてやろうと思った。
 しかし今のフリッツの弱りきった姿を見ると、とてもじゃないが、そんなことは出来ない。

「今日、どうしても君にそれを伝えたかった。だからこそ招待状が来た時、迷ったけど、出席を決めたんだ」
「学園でいつも会ってるじゃない。その時に話してくれてもいいのに」
「学園じゃ、ろくに僕と視線を合わそうとすらしてくれないだろ? いや、僕も同じだったが」

 違いない。
 フリッツがそういう返しをしてくるとは思わず、つい笑いが零れてしまった。

「まあ……ありがとうと言っておくわ。あなたも早く、良い相手を見つけなさい。あっ、あなたにはリーゼがいたわね」
「リーゼか……君と婚約破棄をして以降、彼女とは一度しかまともに喋っていないよ」
「その時に私がアロイス様と婚約したことを、リーゼにバラしたのよね」
「そうだ。だが、君に叱られて反省して……それから彼女とは距離を置いている。それに……遠くから眺めているだけだが、最近の彼女はおかしくって──いや、今思えば変なのは前からかもしれないが」
「どういう意味?」

 思わず前のめりになって、問いかけてしまう。

 リーゼがおかしいことは知っていた。
 だが、いくら反省したとはいえ、フリッツの口からその言葉が飛び出すとは思っていなかったのだ。

「彼女と距離を置いてから、考えたんだ。どうして僕は君じゃなくて、リーゼを選びそうになったんだ……って。その時、一つの事実に気付いた。彼女は……」

 とフリッツが口を動かし──。


「火事だ!」


 それと同時、剣呑な声が会場に響き渡った。
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