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21・窮地に現れるヒーロー
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それから程なくして、戦いは終わった。
魔族は全員倒されて、砂になっている。
マチアスは捕えられ、護衛騎士の手によって頭を床に押さえつけられていた。
「くっ……僕に触るな、たかが騎士が! 僕は貴族なんだぞ! お前らごときが触れていい存在じゃないのだ!」
さっきから、ぎゃあすかぎゃあすかと騒いでいる。
それを見て、アロイス様は顔を顰める。
「嘆かわしいことだ。貴族としての誇りも忘れ、それだけではなく魔族と手を組むとは……」
「その通りですね」
アロイス様の言葉に、私は頷く。
「アロイス様、どうしてあなたがここに?」
事前にしていた話では、オレールさんと護衛騎士の何人かがラヴェンロー伯爵家に突入してくるはずだった。
まさかアロイス様が来るとは聞いていない。
彼は騎士顔負けの剣捌きだった。アロイス様があんなに強いなどと思っていなかった。
私が問いかけると、アロイス様はしてやったりといった顔で。
「君一人を危険にさらして、俺だけが安全圏でぬくぬくと待っておくのは我慢出来なかったんだ」
「そんなこと思わなくてもいいのに……この国にとって、あなたの方が大切な存在です。もし魔族に殺されてしまったら、この国はどうなるんですか?」
ちょっと抗議の意味合いも持たせて、アロイス様を詰める。
「絶対大丈夫だという確信があった。オレールもいたしな。しかし……まあ、俺がわざわざ出しゃばるほどではなかったかもしれない。だからこれは俺の我儘だ」
「我儘?」
「好きな人にカッコいいところを見せたい。好きな人をこの手で守りたい。そう考えるのは、おかしいか?」
「──っ!」
アロイス様の顔を見てられなくって、咄嗟に顔を背けてしまう。
好きな人。
そんなこと言われたら……顔が真っ赤になってしまう!
嬉しさが爆発して、どうにかなってしまいそうだ。
「で、ですが、それなら私に言ってくれてもよかったじゃないですか。ビックリしましたよ」
「君に言ったら必ず止められると思ったからな。だから内緒にしておいた。まあ……そうじゃなくても、オレールに止められたしな」
「殿下には困ったものですよ。あの時は大変でした」
オレールさんが近寄ってきて、そう声を発する。
「ですが……助かりました。アロイス殿下がいてくれたからこそ、戦いを早く終わらせることが出来ましたので」
「たまには剣を振るわないと、鈍ってしまいそうだしな。そういう点でも丁度よかったかもしれない」
よくよく考えてみれば、アロイス様は学園在学中に文武両道と言われていた。
学園内で行われた剣術大会でも、在学中三年間全て優勝をおさめていた。
その剣の腕は国内でも随一とも言われる。
王子という立場でなければ、騎士団長になっていたとも。
だが、私はアロイス様の戦いっぷりを見るのが初めて。
ここまでとは思っていなかったのも事実だ。
「殿下! 殿下! 僕の話を聞いてください! その女は稀代の悪女です! 僕は彼女に鉄槌を下そうとしただけ! 僕は悪くありません!」
マチアスが組み伏せられたまま、アロイス様に訴える。
アロイス様はゴミを見るような目でマチアスに視線を向ける。
「稀代の悪女? なにを言っている」
「その女は学園内の男たちを誑かしています! 騙されないでください!」
「彼女はそんな人間ではない。誑かしているというのなら、なにか証拠はあるのか?」
「…………」
マチアスからの答えはない。
きっと彼は他人から聞いた話を鵜呑みにしたんだろう。
人は自分が信じたいものを信じる。
私が『稀代の悪女』だという情報は、彼にとって都合がよかった。
ゆえに荒唐無稽な話でも信じたのだ。
「まあ、話ならあとでたっぷり聞かせてもらおう。ディアナ──今日はよく頑張った。礼を言う」
そう言って、アロイス様は私の頭をポンポンしてくれる。
こんな状況だけど……デートの時以上に、胸の鼓動が早まったのであった。
◆ ◆
その後、マチアスへの尋問が行われた。
私の予想通り、今回の件はラヴェンロー伯爵に黙ってマチアスが勝手に暴走した結果らしい。
ラヴェンロー伯爵がマチアスの狼藉を知った時、彼の狼藉を嘆き、そして激怒した。
どうして魔族を雇ってでも、私を殺そうとしたのか?
その理由も予想通り。
リーゼ親衛隊にとって、私は敵。
リーゼになにか言われようとも、私を排除しようという過激な人物が中にはいた。
それがマチアスだ。
魔族と繋がっていただけでも大罪なのに、人一人を殺そうとしたのだ。
彼の罪は重い。
マチアスは処刑。
さらにラヴェンロー伯爵家の取り壊しが決まった。財産を全没収され、平民として暮らしていくことになるらしい。
こうして今回の事件は幕を下ろした。
……あっ、そうそう。
マチアスが勝手にやったこととはいえ、彼はリーゼ親衛隊の一人。当然ではあるが、彼女自身も疑われることになった。
しかし彼女は、本当にマチアスのやろうとしたことを知らなかったみたい。
親衛隊の私に対する過激な行動に、頭を悩ませていた立場だった。
王宮の厳しい調査・尋問でも、そのような結果しか出なかった。リーゼの証言は本当だろう。
よって、リーゼは厳重注意はなされたものの特に罪に問われることはなかった。
これだけは少し思うところがある結末だったけど……マチアスの件に関しては、リーゼは(全く関係がないとは言えないかもしれないけど)無関係なことは事実。
しかも彼女は聖女候補。
彼女の処遇に対しては、政治的な動きが働いたとも聞いた。
ゆえにリーゼは罪状にもならないような軽い罪で、終わったということだった。
それから数日が経過しても、私とその周りでは事件らしい事件が起こらなかった。
ようやく日常が落ち着きを取り戻し始めたわけだが、そのタイミングで私は王城に出向くことを決めた。
一つの『答え』を持って。
私はアロイス様に伝えなきゃいけないことがある。
魔族は全員倒されて、砂になっている。
マチアスは捕えられ、護衛騎士の手によって頭を床に押さえつけられていた。
「くっ……僕に触るな、たかが騎士が! 僕は貴族なんだぞ! お前らごときが触れていい存在じゃないのだ!」
さっきから、ぎゃあすかぎゃあすかと騒いでいる。
それを見て、アロイス様は顔を顰める。
「嘆かわしいことだ。貴族としての誇りも忘れ、それだけではなく魔族と手を組むとは……」
「その通りですね」
アロイス様の言葉に、私は頷く。
「アロイス様、どうしてあなたがここに?」
事前にしていた話では、オレールさんと護衛騎士の何人かがラヴェンロー伯爵家に突入してくるはずだった。
まさかアロイス様が来るとは聞いていない。
彼は騎士顔負けの剣捌きだった。アロイス様があんなに強いなどと思っていなかった。
私が問いかけると、アロイス様はしてやったりといった顔で。
「君一人を危険にさらして、俺だけが安全圏でぬくぬくと待っておくのは我慢出来なかったんだ」
「そんなこと思わなくてもいいのに……この国にとって、あなたの方が大切な存在です。もし魔族に殺されてしまったら、この国はどうなるんですか?」
ちょっと抗議の意味合いも持たせて、アロイス様を詰める。
「絶対大丈夫だという確信があった。オレールもいたしな。しかし……まあ、俺がわざわざ出しゃばるほどではなかったかもしれない。だからこれは俺の我儘だ」
「我儘?」
「好きな人にカッコいいところを見せたい。好きな人をこの手で守りたい。そう考えるのは、おかしいか?」
「──っ!」
アロイス様の顔を見てられなくって、咄嗟に顔を背けてしまう。
好きな人。
そんなこと言われたら……顔が真っ赤になってしまう!
嬉しさが爆発して、どうにかなってしまいそうだ。
「で、ですが、それなら私に言ってくれてもよかったじゃないですか。ビックリしましたよ」
「君に言ったら必ず止められると思ったからな。だから内緒にしておいた。まあ……そうじゃなくても、オレールに止められたしな」
「殿下には困ったものですよ。あの時は大変でした」
オレールさんが近寄ってきて、そう声を発する。
「ですが……助かりました。アロイス殿下がいてくれたからこそ、戦いを早く終わらせることが出来ましたので」
「たまには剣を振るわないと、鈍ってしまいそうだしな。そういう点でも丁度よかったかもしれない」
よくよく考えてみれば、アロイス様は学園在学中に文武両道と言われていた。
学園内で行われた剣術大会でも、在学中三年間全て優勝をおさめていた。
その剣の腕は国内でも随一とも言われる。
王子という立場でなければ、騎士団長になっていたとも。
だが、私はアロイス様の戦いっぷりを見るのが初めて。
ここまでとは思っていなかったのも事実だ。
「殿下! 殿下! 僕の話を聞いてください! その女は稀代の悪女です! 僕は彼女に鉄槌を下そうとしただけ! 僕は悪くありません!」
マチアスが組み伏せられたまま、アロイス様に訴える。
アロイス様はゴミを見るような目でマチアスに視線を向ける。
「稀代の悪女? なにを言っている」
「その女は学園内の男たちを誑かしています! 騙されないでください!」
「彼女はそんな人間ではない。誑かしているというのなら、なにか証拠はあるのか?」
「…………」
マチアスからの答えはない。
きっと彼は他人から聞いた話を鵜呑みにしたんだろう。
人は自分が信じたいものを信じる。
私が『稀代の悪女』だという情報は、彼にとって都合がよかった。
ゆえに荒唐無稽な話でも信じたのだ。
「まあ、話ならあとでたっぷり聞かせてもらおう。ディアナ──今日はよく頑張った。礼を言う」
そう言って、アロイス様は私の頭をポンポンしてくれる。
こんな状況だけど……デートの時以上に、胸の鼓動が早まったのであった。
◆ ◆
その後、マチアスへの尋問が行われた。
私の予想通り、今回の件はラヴェンロー伯爵に黙ってマチアスが勝手に暴走した結果らしい。
ラヴェンロー伯爵がマチアスの狼藉を知った時、彼の狼藉を嘆き、そして激怒した。
どうして魔族を雇ってでも、私を殺そうとしたのか?
その理由も予想通り。
リーゼ親衛隊にとって、私は敵。
リーゼになにか言われようとも、私を排除しようという過激な人物が中にはいた。
それがマチアスだ。
魔族と繋がっていただけでも大罪なのに、人一人を殺そうとしたのだ。
彼の罪は重い。
マチアスは処刑。
さらにラヴェンロー伯爵家の取り壊しが決まった。財産を全没収され、平民として暮らしていくことになるらしい。
こうして今回の事件は幕を下ろした。
……あっ、そうそう。
マチアスが勝手にやったこととはいえ、彼はリーゼ親衛隊の一人。当然ではあるが、彼女自身も疑われることになった。
しかし彼女は、本当にマチアスのやろうとしたことを知らなかったみたい。
親衛隊の私に対する過激な行動に、頭を悩ませていた立場だった。
王宮の厳しい調査・尋問でも、そのような結果しか出なかった。リーゼの証言は本当だろう。
よって、リーゼは厳重注意はなされたものの特に罪に問われることはなかった。
これだけは少し思うところがある結末だったけど……マチアスの件に関しては、リーゼは(全く関係がないとは言えないかもしれないけど)無関係なことは事実。
しかも彼女は聖女候補。
彼女の処遇に対しては、政治的な動きが働いたとも聞いた。
ゆえにリーゼは罪状にもならないような軽い罪で、終わったということだった。
それから数日が経過しても、私とその周りでは事件らしい事件が起こらなかった。
ようやく日常が落ち着きを取り戻し始めたわけだが、そのタイミングで私は王城に出向くことを決めた。
一つの『答え』を持って。
私はアロイス様に伝えなきゃいけないことがある。
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