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13・リーゼとお話し。反省している?
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翌日。
放課後、リーゼに呼び出された。
「なにを考えているのかしら?」
このタイミングだとフリッツとの一件についてだろう。
リーゼには屋上に私一人で来るように言われている。
彼女のこれまでの行動から考えるに、否応がなしに警戒してしまう。
しかし無視するわけにはいかない。
リーゼはあんな子だけど、男性からの人気は高い。ここで私が約束をすっぽかせば、あとでなにを言いふらされるのか分かったものではないわ。
「ディアナ、気を付けてね」
「分かってる」
相談していたコルネリアに見送られ、私は屋上に向かった。
屋上に着くと、リーゼが既にいた。
私たち以外に人はいない。複数人で待ち構えられているんじゃないか……と警戒していたが、取りあえずそれはないらしい。
なにを言い出すかと思っていたが、リーゼは私の顔を見るなり、
「ごめんなさい!」
開口一番、勢いよく頭を下げた。
「フリッツ様との話を聞きました」
「話?」
「彼と婚約を破棄されたんですよね?」
はあ……。
思わず、頭の中で溜め息を吐いてしまう。
私からは喋っていない。なのにリーゼは知っている。
コルネリアは面白がって話を広げる傾向があるが、こういう本当に喋ってはいけないことには口が固い。
そうなると、考えられることは一つだけ。
フリッツが彼女にぺらぺらと喋ったものとしか思えない。
なんで、よりにもよってリーゼに言うのよ……!
いずれはリーゼも知るようになるが、わざわざフリッツが教える必要もない。
彼の軽率さに怒りを覚えた。
「そうよ」
「わたしのせいですよね……先日のパーティーが原因でしょう?」
肩を落として口にするリーゼ。
「今日、ディアナ様を呼び出したのは謝りたくって」
「謝る必要はないわ。だってもう終わった話ですもの」
こいつもフリッツみたいに「誤解がある」と言い訳するつもりだろうか?
しかし予想とは違い、リーゼは真面目な顔をしてこう続けた。
「軽率な真似をしてしまい、すみませんでした。あの時は気が動転してしまいましたが、言い訳はしません。わたしの責任です。どのような報いも受けるつもりです」
「……へえ」
思わず声を漏らしてしまう。
よくよく考えると彼女の態度こそ正解かもしれない。
だけどフリッツの惨めったらしい言い訳を経験済みだったので、やっぱり意外だった。
リーゼは顔を上げ、私の瞳を真っ直ぐ見つめる。瞳には力強い光が宿っていた。
「いいのよ。最初にも言った通り、もう終わった話だから。どちらにせよ、私とフリッツの関係は終わっていた。あれは引き金になっただけ」
実際のところ、私はフリッツへの怒りの方が何倍も大きい。
リーゼになにを言われようが、それに乗ってしまったのはフリッツだからだ。
「……自分は平民だと言い訳をするのは間違っていますが、わたしはまだ貴族の作法を分かっていなくって。わたしの出身の村では、男女の隔たりなく自由に話していました」
「まあ貴族じゃなかったら、そういうものかもしれないわねえ」
「わたしはその気がないのに、男子たちは近寄ってきて……仲良くしてくれるのが嬉しくて接していたら、大ごとになることも多いんです。こんなのはダメだダメだ……と思っていても、あちらから話しかけてきたら無碍にするわけにもいかず……」
それは分かる。
今まで貴族の世界しか知らなかった男性たちは、リーゼのような天真爛漫な子は魅力的に見えるんだろう。
そうじゃなくても、リーゼは可愛らしい女の子だからね。
平民であるリーゼは失礼な態度を取らないように心がけているんだろう。
それを男たちが「自分に気があるんじゃ?」と勘違いする。
男ってバカねえ。
それにしても、リーゼもリーゼでもっとやり方があっただろうが。
「その辺のいなし方は徐々に覚えていくしかないでしょうね。だけどそれが分かるまで、気を付けた方がいいわよ」
「はい。これまでより一層、そうしたいと思います」
素直に頷くリーゼ。
この子……意外と良い子?
ほだされるわけではないが、最初に抱いていた彼女よりは幾分かイメージがよくなっていた。
そもそも私は彼女のことを警戒はしているものの、嫌いではない。
「わたし、ディアナ様のような女性に憧れているんです。最近はさらにおキレイになって……」
「あら、ありがとう。あなたも十分可愛いと思うわ」
「ありがとうございます。恐縮です。あなたのことは周りの男子も噂しているんですよ? 素敵な女性だ。婚約者いなかったら、俺が求婚していたのに……って」
男って現金なものねえ。見た目を変えたくらいで、すぐにそんなことを言い出すなんて。
それを思えば、十三年前から私のことを想ってくれていたアロイス様は、かなり誠実な方かもしれない。
彼の端正な顔立ちが頭の中に浮かんだ。
「そんなあなただからこそ、あの方に求婚されたんでしょうね。全く不思議ではありません」
「はい?」
正直彼女の話を軽く聞き流していたが、聞き捨てならない言葉が聞こえてきて、つい変な声を上げてしまう。
「あなた、なんと言ったの?」
「え? フリッツ様から聞いていますよ。この国の第一王子──アロイス様に婚約を申し込まれたって」
放課後、リーゼに呼び出された。
「なにを考えているのかしら?」
このタイミングだとフリッツとの一件についてだろう。
リーゼには屋上に私一人で来るように言われている。
彼女のこれまでの行動から考えるに、否応がなしに警戒してしまう。
しかし無視するわけにはいかない。
リーゼはあんな子だけど、男性からの人気は高い。ここで私が約束をすっぽかせば、あとでなにを言いふらされるのか分かったものではないわ。
「ディアナ、気を付けてね」
「分かってる」
相談していたコルネリアに見送られ、私は屋上に向かった。
屋上に着くと、リーゼが既にいた。
私たち以外に人はいない。複数人で待ち構えられているんじゃないか……と警戒していたが、取りあえずそれはないらしい。
なにを言い出すかと思っていたが、リーゼは私の顔を見るなり、
「ごめんなさい!」
開口一番、勢いよく頭を下げた。
「フリッツ様との話を聞きました」
「話?」
「彼と婚約を破棄されたんですよね?」
はあ……。
思わず、頭の中で溜め息を吐いてしまう。
私からは喋っていない。なのにリーゼは知っている。
コルネリアは面白がって話を広げる傾向があるが、こういう本当に喋ってはいけないことには口が固い。
そうなると、考えられることは一つだけ。
フリッツが彼女にぺらぺらと喋ったものとしか思えない。
なんで、よりにもよってリーゼに言うのよ……!
いずれはリーゼも知るようになるが、わざわざフリッツが教える必要もない。
彼の軽率さに怒りを覚えた。
「そうよ」
「わたしのせいですよね……先日のパーティーが原因でしょう?」
肩を落として口にするリーゼ。
「今日、ディアナ様を呼び出したのは謝りたくって」
「謝る必要はないわ。だってもう終わった話ですもの」
こいつもフリッツみたいに「誤解がある」と言い訳するつもりだろうか?
しかし予想とは違い、リーゼは真面目な顔をしてこう続けた。
「軽率な真似をしてしまい、すみませんでした。あの時は気が動転してしまいましたが、言い訳はしません。わたしの責任です。どのような報いも受けるつもりです」
「……へえ」
思わず声を漏らしてしまう。
よくよく考えると彼女の態度こそ正解かもしれない。
だけどフリッツの惨めったらしい言い訳を経験済みだったので、やっぱり意外だった。
リーゼは顔を上げ、私の瞳を真っ直ぐ見つめる。瞳には力強い光が宿っていた。
「いいのよ。最初にも言った通り、もう終わった話だから。どちらにせよ、私とフリッツの関係は終わっていた。あれは引き金になっただけ」
実際のところ、私はフリッツへの怒りの方が何倍も大きい。
リーゼになにを言われようが、それに乗ってしまったのはフリッツだからだ。
「……自分は平民だと言い訳をするのは間違っていますが、わたしはまだ貴族の作法を分かっていなくって。わたしの出身の村では、男女の隔たりなく自由に話していました」
「まあ貴族じゃなかったら、そういうものかもしれないわねえ」
「わたしはその気がないのに、男子たちは近寄ってきて……仲良くしてくれるのが嬉しくて接していたら、大ごとになることも多いんです。こんなのはダメだダメだ……と思っていても、あちらから話しかけてきたら無碍にするわけにもいかず……」
それは分かる。
今まで貴族の世界しか知らなかった男性たちは、リーゼのような天真爛漫な子は魅力的に見えるんだろう。
そうじゃなくても、リーゼは可愛らしい女の子だからね。
平民であるリーゼは失礼な態度を取らないように心がけているんだろう。
それを男たちが「自分に気があるんじゃ?」と勘違いする。
男ってバカねえ。
それにしても、リーゼもリーゼでもっとやり方があっただろうが。
「その辺のいなし方は徐々に覚えていくしかないでしょうね。だけどそれが分かるまで、気を付けた方がいいわよ」
「はい。これまでより一層、そうしたいと思います」
素直に頷くリーゼ。
この子……意外と良い子?
ほだされるわけではないが、最初に抱いていた彼女よりは幾分かイメージがよくなっていた。
そもそも私は彼女のことを警戒はしているものの、嫌いではない。
「わたし、ディアナ様のような女性に憧れているんです。最近はさらにおキレイになって……」
「あら、ありがとう。あなたも十分可愛いと思うわ」
「ありがとうございます。恐縮です。あなたのことは周りの男子も噂しているんですよ? 素敵な女性だ。婚約者いなかったら、俺が求婚していたのに……って」
男って現金なものねえ。見た目を変えたくらいで、すぐにそんなことを言い出すなんて。
それを思えば、十三年前から私のことを想ってくれていたアロイス様は、かなり誠実な方かもしれない。
彼の端正な顔立ちが頭の中に浮かんだ。
「そんなあなただからこそ、あの方に求婚されたんでしょうね。全く不思議ではありません」
「はい?」
正直彼女の話を軽く聞き流していたが、聞き捨てならない言葉が聞こえてきて、つい変な声を上げてしまう。
「あなた、なんと言ったの?」
「え? フリッツ様から聞いていますよ。この国の第一王子──アロイス様に婚約を申し込まれたって」
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