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12・親友との楽しいひととき
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フリッツとの婚約破棄も無事に成立し、彼も学園に通ってくるようになった。
しかし久しぶりに学園に来た彼は、今までと雰囲気が違っていた。
なんというか、常に俯き加減で纏っているオーラも暗いのだ。
ろくにご飯を食べていないのか、頬が少し痩せこけている気がする。
周りのクラスメイトはフリッツの変貌っぷりに、戸惑いを隠しきれないようだった。
だけど私がどうこう出来る問題でもない。
なのでいつもと変わらず授業を受け、放課後となった。
「ディアナ、よかったわね」
帰り支度をしていると、コルネリアが話しかけてきた。
『よかったわね』というのは当然フリッツのことだろう。
もちろん、親友のコルネリアには婚約破棄が成立したことを、既に伝えている。
「ええ」
「すっきりした顔をしているわよ。なにか変わった?」
「うーん……どうかしら」
もっと気持ち的にはすっきりすると思ったが、なにせまだ日が浅いせいで実感が湧かない。
フリッツとの件だけでもお腹がいっぱいなのに、その上アロイス様との婚約話もあるからね。
考えることが多すぎて、頭がショートしそうだ。
「ほら、他の男たちもちらちらとあなたを見ているわよ」
確かに。
コルネリアの言った通り、クラスメイトの私を見る視線の種類が明らかに変わったことは気付いていた。
「今はみんな、あなたがフリッツと婚約していると思っているから、声をかけてこない。だけどあれが知れ渡れば、また違ってくるわよ」
「コルネリア、ちょっと声が大きいわ」
「あら、ごめんね」
悪びれずにコルネリアが小さく舌を出す。
放っておいても、私がフリッツと婚約破棄をしたことはみんなに知れ渡ると思う。
そしていずれはアロイス様のことも……。
フィンロスク子爵のように一部は知っているかもしれないが、まだ周知されているわけではなさそうだ。
「ここじゃあ、ちょっと喋りにくいわね。ディアナ、この後の予定なにかある?」
「特にないけど」
「だったら、喫茶店でも行かない? 美味しいスイーツを出す店を見つけたのよ」
「ぜひ!」
即答する。
甘いものには目がないのだ。
「じゃあ行きましょう」
コルネリアに手を引っ張られて、教室を出る。
その際、フリッツの横を通り過ぎた。彼は手を伸ばし、なにかを喋りそうになったけど……すぐに口を閉じた。
婚約破棄の話し合いをしたばっかりだっていうのに、まだ言い足りないのかしら?
でもお生憎様。あなたとお喋りしている時間なんてないわ。
頭の中であっかんべーと舌を出し、私はコルネリアと喫茶店に急ぐのであった。
「美味しい!」
喫茶店にて。
私は美味しいカヌレと紅茶に舌鼓を打ち、そう声を上げた。
「気に入ってもらえて、よかったわ。ここのカヌレ、美味しいでしょ?」
「うん!」
口に入れるだけでカラメルの甘さが伝わってきた。
甘ったるくなった口に紅茶もよく合う。
よほど美味しそうにカヌレを食べていたのか、対面のコルネリアが私を眺めている。
コルネリア・ベラドリア。
繰り返すようになるけど、この国の第三王女。
それなのに良い意味で王女らしくなく彼女の性格は、みんなから受け入れられている。
王位継承の可能性がほとんどない王女ということもあって、コルネリアは比較的自由にさせてもらっている。
ゆえにこうして私たちは二人っきりで、喫茶店でスイーツの味に酔いしれていた。
昔、「護衛も付けないで大丈夫?」とコルネリアに聞いてみたことがあったが、どうやらいないわけではなく、見えない位置から彼女を見守っている護衛がいるらしい。
そりゃそっか。護衛もなしに王女が街中を歩くのは、さすがに危険が多いしね。
こうしている間にも、どこかで護衛がコルネリアを見守っているはず。
なにかあればすぐに対応してくれるだろう。
「それで……教室にいる時の会話に戻るけど、婚約破棄の件が知れ渡れば、色んな男性があなたに声をかけてくると思うわ。婚約者になってくれ……って」
「そんな、まさか」
「自覚はないみたいだけど、今のあなたはそれほど魅力的。あなたほど美しい女性を放っておくほど、学園の男どもはバカじゃないわ。もっとも……それに気付かなかった愚か者もいるみたいだけど」
と肩をすくめるコルネリア。
無論、愚か者とはフリッツのことだろう。
「でも……困っちゃうわ。アロイス様の話もあるし」
「困る必要なんてない。それにお兄様のことなら、気にしなくていいのよ? まだ婚約の話をされただけなんだから。他の男の方がよかったら、そちらを優先してもいい」
「そういうわけにはいかないでしょ。相手はこの国の第一王子なのよ?」
「将来的に国を背負うかもしれない立場なのに、たった一人の女を落とせないくらいなら王子なんてやめてしまえばいいのよ。もっとも、ディアナはそんなに安い女じゃないけど」
簡単に言ってくれるわね……。
自分のことじゃないからなのうか、コルネリアはさっきから随分と楽しそうだ。
「だけどやっぱりダメ。まだそういうのは、ちゃんと考えられないわ」
「ゆっくり考えたらいいと思うわ。あなたが男漁りするような女じゃないと分かってるしね。誰かさんみたいに」
『誰かさん』というのはリーゼのことだろう。
色んな男に声をかけるリーゼは、男漁りをしに学園に来たのだとしか思えない。
これが平民の学校ならいいかもしれない。
学校のうちに、たくさんの恋を経験するのもあながち間違いではないだろう。
しかし私たちが通うのは貴族の学園。
既に婚約者がいる男性もたくさんいる。それらにまとめて声をかけるリーゼは、やはり目に余るとしか言いようがない。
「知ってる? リーゼさんを囲む男性たちで結成される『親衛隊』なんかも出来たらしいわよ」
「親衛隊」
「うん。ディアナなら言わなくても分かってると思うけど……あの子には気を付けなさい。フリッツのことがなくなった以上、もう関係ないかもしれないけど……なにかあるかもしれないから」
「もちろん」
私はそう頷く。
それにしても……リーゼはなにを考えているんだろう?
学園内で男に声をかけまくれば、無用なトラブルを生むだけだっていうのに……そんなことも分からないくらいバカってこと?
なんにせよ、コルネリアの言う通りリーゼの動きには注視すべきだ。
しかし久しぶりに学園に来た彼は、今までと雰囲気が違っていた。
なんというか、常に俯き加減で纏っているオーラも暗いのだ。
ろくにご飯を食べていないのか、頬が少し痩せこけている気がする。
周りのクラスメイトはフリッツの変貌っぷりに、戸惑いを隠しきれないようだった。
だけど私がどうこう出来る問題でもない。
なのでいつもと変わらず授業を受け、放課後となった。
「ディアナ、よかったわね」
帰り支度をしていると、コルネリアが話しかけてきた。
『よかったわね』というのは当然フリッツのことだろう。
もちろん、親友のコルネリアには婚約破棄が成立したことを、既に伝えている。
「ええ」
「すっきりした顔をしているわよ。なにか変わった?」
「うーん……どうかしら」
もっと気持ち的にはすっきりすると思ったが、なにせまだ日が浅いせいで実感が湧かない。
フリッツとの件だけでもお腹がいっぱいなのに、その上アロイス様との婚約話もあるからね。
考えることが多すぎて、頭がショートしそうだ。
「ほら、他の男たちもちらちらとあなたを見ているわよ」
確かに。
コルネリアの言った通り、クラスメイトの私を見る視線の種類が明らかに変わったことは気付いていた。
「今はみんな、あなたがフリッツと婚約していると思っているから、声をかけてこない。だけどあれが知れ渡れば、また違ってくるわよ」
「コルネリア、ちょっと声が大きいわ」
「あら、ごめんね」
悪びれずにコルネリアが小さく舌を出す。
放っておいても、私がフリッツと婚約破棄をしたことはみんなに知れ渡ると思う。
そしていずれはアロイス様のことも……。
フィンロスク子爵のように一部は知っているかもしれないが、まだ周知されているわけではなさそうだ。
「ここじゃあ、ちょっと喋りにくいわね。ディアナ、この後の予定なにかある?」
「特にないけど」
「だったら、喫茶店でも行かない? 美味しいスイーツを出す店を見つけたのよ」
「ぜひ!」
即答する。
甘いものには目がないのだ。
「じゃあ行きましょう」
コルネリアに手を引っ張られて、教室を出る。
その際、フリッツの横を通り過ぎた。彼は手を伸ばし、なにかを喋りそうになったけど……すぐに口を閉じた。
婚約破棄の話し合いをしたばっかりだっていうのに、まだ言い足りないのかしら?
でもお生憎様。あなたとお喋りしている時間なんてないわ。
頭の中であっかんべーと舌を出し、私はコルネリアと喫茶店に急ぐのであった。
「美味しい!」
喫茶店にて。
私は美味しいカヌレと紅茶に舌鼓を打ち、そう声を上げた。
「気に入ってもらえて、よかったわ。ここのカヌレ、美味しいでしょ?」
「うん!」
口に入れるだけでカラメルの甘さが伝わってきた。
甘ったるくなった口に紅茶もよく合う。
よほど美味しそうにカヌレを食べていたのか、対面のコルネリアが私を眺めている。
コルネリア・ベラドリア。
繰り返すようになるけど、この国の第三王女。
それなのに良い意味で王女らしくなく彼女の性格は、みんなから受け入れられている。
王位継承の可能性がほとんどない王女ということもあって、コルネリアは比較的自由にさせてもらっている。
ゆえにこうして私たちは二人っきりで、喫茶店でスイーツの味に酔いしれていた。
昔、「護衛も付けないで大丈夫?」とコルネリアに聞いてみたことがあったが、どうやらいないわけではなく、見えない位置から彼女を見守っている護衛がいるらしい。
そりゃそっか。護衛もなしに王女が街中を歩くのは、さすがに危険が多いしね。
こうしている間にも、どこかで護衛がコルネリアを見守っているはず。
なにかあればすぐに対応してくれるだろう。
「それで……教室にいる時の会話に戻るけど、婚約破棄の件が知れ渡れば、色んな男性があなたに声をかけてくると思うわ。婚約者になってくれ……って」
「そんな、まさか」
「自覚はないみたいだけど、今のあなたはそれほど魅力的。あなたほど美しい女性を放っておくほど、学園の男どもはバカじゃないわ。もっとも……それに気付かなかった愚か者もいるみたいだけど」
と肩をすくめるコルネリア。
無論、愚か者とはフリッツのことだろう。
「でも……困っちゃうわ。アロイス様の話もあるし」
「困る必要なんてない。それにお兄様のことなら、気にしなくていいのよ? まだ婚約の話をされただけなんだから。他の男の方がよかったら、そちらを優先してもいい」
「そういうわけにはいかないでしょ。相手はこの国の第一王子なのよ?」
「将来的に国を背負うかもしれない立場なのに、たった一人の女を落とせないくらいなら王子なんてやめてしまえばいいのよ。もっとも、ディアナはそんなに安い女じゃないけど」
簡単に言ってくれるわね……。
自分のことじゃないからなのうか、コルネリアはさっきから随分と楽しそうだ。
「だけどやっぱりダメ。まだそういうのは、ちゃんと考えられないわ」
「ゆっくり考えたらいいと思うわ。あなたが男漁りするような女じゃないと分かってるしね。誰かさんみたいに」
『誰かさん』というのはリーゼのことだろう。
色んな男に声をかけるリーゼは、男漁りをしに学園に来たのだとしか思えない。
これが平民の学校ならいいかもしれない。
学校のうちに、たくさんの恋を経験するのもあながち間違いではないだろう。
しかし私たちが通うのは貴族の学園。
既に婚約者がいる男性もたくさんいる。それらにまとめて声をかけるリーゼは、やはり目に余るとしか言いようがない。
「知ってる? リーゼさんを囲む男性たちで結成される『親衛隊』なんかも出来たらしいわよ」
「親衛隊」
「うん。ディアナなら言わなくても分かってると思うけど……あの子には気を付けなさい。フリッツのことがなくなった以上、もう関係ないかもしれないけど……なにかあるかもしれないから」
「もちろん」
私はそう頷く。
それにしても……リーゼはなにを考えているんだろう?
学園内で男に声をかけまくれば、無用なトラブルを生むだけだっていうのに……そんなことも分からないくらいバカってこと?
なんにせよ、コルネリアの言う通りリーゼの動きには注視すべきだ。
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