目が覚めました 〜奪われた婚約者はきっぱりと捨てました〜

鬱沢色素

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7・次のお相手? 早すぎない?

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 あれから数日が経った。

 フリッツはあれから、学園に来ていない。きっと婚約破棄の通知が届いたのだろう。
 彼が学園に来なくなったのは、多分彼の父──フィンロスク子爵の案に違いない。

 その考えは正解。
 フリッツ、学園に来て私と顔を合わせたらなにを言い出すか分からないからね。
 だったら家でおとなしくさせておいた方が、フィンロスク子爵も安心出来るといったところか。

 フィンロスク子爵は聡明な貴族だった。
 ゆえに私のお父様も、彼の息子であるフリッツとの婚約を許した。
 それなのに、息子であるフリッツはどうしてああなってしまったのか……子爵の教育が間違っていたと言わざるを得ない。

 そういうわけで、私はしばらく平和な日常を過ごしていた。

 ある日、学園から帰宅すると、お父様に呼び出された。

「ディアナ」

 応接間。
 私の対面に座り、お父様はこう口を動かす。

「二つ報せがある。一つは君にとってはどうでもいいかもしれない報せ。そしてもう一つは、私でも良いのか悪いのか分からない報せだ。どっちから聞きたい?」
「はい?」

 つい素っ頓狂な声を上げてしまう。
 普通こういうのって『良い報せ』と『悪い報せ』の二択を上げるもんじゃない?

 ……まあいっか。
 後者は悪い可能性がある報せ。ならば前者のどうでもいいかもしれない報せで、心の準備をしておきたい。

「どうでもいいかもしれない報せでお願いします」
「分かった。ディアナならそう言うと思っていたよ」

 お父様は苦笑しつつ、こう続ける。

「まず、フィンロスク子爵から手紙が届いた。今回の婚約破棄について、話し合いたいらしい」
「ああ……それ」

 なるほど、確かに私にとってはどうでもいい報せである。

 格上であるシュミット侯爵側が婚約破棄を申し出ているのだから、フィンロスク子爵家は受け入れるしかない。
 だが、そう簡単に諦められない理由がある。格下であるフィンロスク子爵家は、シュミット侯爵家との関係が悪くなるのを避けたいからだ。
 ダメ元かもしれないが、話し合いでなんとか丸く収めようという魂胆だろう。

「仕方がありません。話し合いましょう。もっとも……話し合ったところで、私の気が変わることは断じてありませんが」
「うん。私もそうするべきだと思う。あちらが悪いこととはいえ、筋は通すべきだろう」
「フリッツ本人も来るのかしら?」
「間違いなく来るだろうね。ディアナがフリッツと顔を合わせたくないなら、君は話し合いの場に出席しなくていい。どうする?」
「ふふっ」

 お父様がそんなことを言うとは思わず、つい笑いがこぼれてしまう。

「私も出席します。だって私が当事者ですもの。逃げるわけにいきませんわ」
「分かった。こちらとしても、そう言ってくれると助かる。君は本当に心が強い女性に育ってくれたね。我が家の誇りだ」
「だけど……フリッツと顔を合わせたら、悪態の一つでも吐きたくなるかも。喧嘩になったら、ごめんなさい」
「なあに。それくらいは問題ない。やつらは私の大事な娘を傷つけてくれたんだ。君がなにを言わなくても、私が手を出してしまうかもしれない」

 冗談だと思うけど、お父様はニヤリと笑う。

 それにしても……フリッツなら婚約破棄と聞いたら、訪問の約束を取り付ける手紙を出さずに、シュミット侯爵家に乗り込んでくると思った。
 彼はそういう人間なのだ。良くも悪くも、感情が先走ってしまう。
 それとも、案外フィンロスク子爵に止められとか?

 ……有り得る。
 冷静になっているフリッツなんて、私には想像出来ない。

「じゃあ、フィンロスク子爵に返事の手紙を出しておくよ。話し合いの日時はいつにする?」
「すぐに……って言いたいけど、まだ先日の怒りがおさまっていないの。冷静に話し合いが出来ないかもしれません。だから少し日を空けてもらっても構わないですか?」
「了解。まあ、あまり日を引き延ばすことも出来ないけどね。フィンロスク子爵の事情というより……これは私の感情だ。この件を早く終わらせたい」

 そう語るお父様の顔は、心なしかくたびれているように思えた。

 無理もない話ね。だって私が先日の一件を打ち明けてから、お父様はあちらこちらへと奔走していたからだ。

「どうでもいい話は終わりですね。もう一つの良いか悪いのか分からない話とは……?」
「うん。こっちの方が重要かもしれないんだ」

 ピリッと空気が引き締まった感覚がした。
 フリッツのことを話している時とは、また違う空気感だ。
 これには私も息を呑む。

「じゃあ言うよ」

 緊張のせいか、お父様の声がじゃっかん震えていた。

 そしてお父様の言ったことに、私は耳を疑ったのだ。


「君と婚約したいという申し出がきている。お相手は──この国の第一王子。アロイス王子殿下だ」
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