逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

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四章

★38・幼馴染み、アルフと再会する

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「うわっ、なんだこいつは!」
「確か勇者パーティーの魔法使い?」
「王都から追放されたんじゃねえのか! どうしてこんな田舎村に?」

 うるさい。
 フェリシーは馬車に乗って隣町に辿り着いた瞬間、そこで殺戮を決行した。

「ははは。やっぱり力って正義だよ」

 建物を焼き払いながら、フェリシーは進んでいく。

 悲鳴が街中に響き渡る。
 それが心地良い音楽となって、奏でられていた。

「エリオット! マルレーネ! サラ! あいつ等は力を失ったけど、私には力がある! 力がある者はなにをしたっていいんだ! はははははははは!」

 高らかに笑いながら、フェリシーは魔法を放ち、ありとあらゆる金品を奪い去っていく。


「あ、悪魔だ……」
「いや、悪魔なんて生やさしい。こいつこそがモンスターだったんだ!」


「私が……モンスター?」
「ひっ!」

 彼女をバカにした村人まで近づき、その頭をわしづかみにした。
 もちろん、掴む力は魔法にて強くしてあるので、村人の骨がみしみしという音を立てる。

「誰がモンスターだって?」
「だ、だってそうじゃないか! こんなことをするなんて……お前が火炎魔法を放ったあの家には、生まれて一ヶ月の赤ちゃんが住んでるんだぞ! これをモンスターの所業と言わずになんという!」
「君達がお金を出し渋るから仕方ないじゃん」
「と、途中からは逆らわなかったじゃないか! それなのに——」
「ああ、もう君うるさいな」

 そのままフェリシーは顔を握る力を強くした。
 ブチッという音がして、反抗していた村人は死んでしまった。

「私に逆らうヤツはみんな死んじゃえばいいんだ」

 確かにフェリシーの求めていた金品類は手に入った。
 だが、それでは彼女の心の渇きは潤せない。
 この世界中の全てを破壊してやる。
 私の魔法さえあったら……それも出来るはずだ。

 そうだ。私は強い!
 エリオット達みたいに弱くならない!

「はははははははは! なんて楽しいんだろう!」

 ポンポン次から次へと魔法を放っていく。
【魔力貯蔵量無限】のスキルを持っている彼女にとっては、これだけ魔法を連発しても疲れるどころか、体がみなぎっていくように感じた。


 やがて、たっぷり二時間。
 一つの街を壊滅させるために、フェリシーは楽しんだ。


 建物は焼かれ、人々は一人残らず地面に倒れている。
 その光景を見て、フェリシーはブルッと震えた。

「うん! とっても良い光景だね。私みたいな美少女に張り合おうとするから、死んでしまっても仕方がなかったんだ! 二度と私に逆らおうとしないでね!」

 両手からはみ出るばかりの金貨を握りしめて、フェリシーは死体の頭を踏みつける。
 そうすると、だんだんと思い出してきた。

「そうだ……私は勝ち組なんだ」

 エリオット達はこれからますます堕ちていくだろう。
 だが、生まれながらの勝ち組である私はこの先も勝ち続ける。

 そうだ。
 アルフのヤツに会いに行ってもいいかもしれない。

 信じられないことなのだが、王様の話を聞く限り、アルフは英雄の階段を昇っているらしい。
 今までのアルフでは考えられなかったことだ。
 そこでフェリシーは一つの仮説を立てた。

(もしかして……新しいスキルをなにか得たんじゃ?)

 この歳になって、考えられにくいことだ。

 しかしエリオットもマルレーネもサラも、アルフに会ってからおかしくなった。
 なにか相手に呪いをかけるようなスキルに発言した?

「……もしアルフがすっごい力を持っていたら、エリオットから乗り換えてもいいかも。どうせ私が好き好き好き! って嘘吐いたら、バカのあいつだったら騙されてくれるだろうしね」

 となったら、まずは今アルフがどこにいるか情報収集をしなければならない。
 街の外に待たせている馬車に乗って、また隣町に向かうとするか。

 ボロボロになった街に背を向けて、再びフェリシーは歩き出した。


 彼女の頭の中には——アルフに自分がまさか呪いをかけられるとは、全くもって浮かんでいない。


 愚かなフェリシーはアルフに会って負け組となる。
 そのことを彼女が知るはずもなかった。

 ◆ ◆

 アルフの情報はすぐに集めることが出来た。
 なんでもチェールズに住んで、魔族の駆除をやっているらしい。

(アルフ一人で魔族に勝てるとは思えないけど……)

 だが、あのクソ王様も言ってたことだし、本当のことである可能性が高い。
 やはりアルフはフェリシー達がいない間に、新たな力に目覚めたというのか。

(だったら……籠絡ろうらくしてあげる! どうせあいつはバカだから、私の魅力さえあったらイチコロだよ!)

 とフェリシーはポジティブに考えていた。


 フェリシーはそのまま馬車をいくつか乗り継いで、生まれ故郷のチェールズまでやって来た。


 どうして馬車を乗り継いだのかというと、気に入らないことがあったら、いちいち御者を殺してしまっていたからだ。

 殺した御者の数は十に及ぶだろう。
 道中、立ち寄った村でも金品を奪いながら、村人を皆殺しにして……チェールズまでやっとのこさ辿り着いたのだ。

「懐かしいな……このなんにもない田舎村!」

 チェールズに足を踏み入れて、フェリシーは背伸びをした。
 アルフのことがない限り、今となってはなるべくこの村に近付きたくなかった。

 このさびれた田舎村は、彼女にとって負け組の象徴であった。
 外部からの情報もあまり仕入れられず、狭い空間で生きるだけの退屈な生活。
 それにうんざりしていた頃、元勇者エリオットに誘われてこの村を出たのだ。

「フェリシー……?」

 声をかけられる。
 フェリシーが振り向くと、醜い老婆がいた。

「えーっと……誰?」

 訝しむような視線をフェリシーが向けると、

「あんた、戻ってきていたんだね。それにしても私のことを忘れたのかい? フェリシーだろ?」
「私が老いぼれの名前を覚えているわけないよ! だって私は勝ち組なんだからね!」
「……あんた、変わっちまったね。アルフはちゃんと私の名前を覚えてくれていたのに」
「アルフっ? アルフはどこにいるの?」
「アルフは村はずれの花畑にいるはずだ」

 老婆は溜息を吐きながら、そう答えた。

 花畑——ああ。確かそんな場所があったように思える。
 昔、そこでなにかを作ってアルフにあげたような気がしたが……詳しいことは忘れた。
 フェリシーはチェールズで、その花畑だけが好きだった。


 駆け足でフェリシーは花畑に向かった。


 ……いた!
 アルフの後ろ姿だ。

 隣には……あれは誰だ?
 汚そうな獣人族だ。

「アルフ——」

 声をかけようとしたが、ここではじめてフェリシーは自分の姿に気付く。

 ……そういえば、最近お風呂に入っていなかった。
 忙しかったからな。つい忘れていた。
 血の匂いが体に染みついていて、髪もボサボサだ。

 でもここまで来てしまったのだから仕方がない。
 それに大した問題でもないだろう。
 だって私は美しいんだから! 可愛いんだから!
 こんなハンデもろともしないはずだ。

「アルフ!」

 フェリシーはもう一度手を挙げて、アルフに近付いていった。

「フェリシー……?」

 アルフは彼女を見るなり、目を見開いた。

 やっぱり、私のことがまだ好きなんだ!
 フェリシーはアルフの表情を見て、確信した。

(……アルフが本当に力に目覚めているのか分からないけど、キープしてても問題ないよね? ダメそうだったら、どうせまた捨てればいいし)

 元勇者エリオットのように。

 フェリシーはアルフの目を見て、

「ごめん! アルフ君! あの時の私はどうかしてたんだっ。もう一度、アルフ君の『彼女』に立候補していいかな?」

 と手を合わせ、頭を下げた。

 しばしの沈黙。
 やがてアルフの口がゆっくりと開き、


「は? していいわけないだろうが」


 フェリシーの頭にが振り下ろされた。
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