逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

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四章

36・魔族を返り討ちにする

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 一方、彼等が王都から追放されるよりも少し以前。
 アルフは……。

「大変だ! 魔族が村に襲撃しにくるぞ!」

 故郷の村でゆっくりくつろいでいると、そう叫びながら村中を走り回っている男を見かけた。

「やれやれ……魔族が襲撃ってどういうことだ?」

 そういや、先日倒したのは魔族だと名乗っていたな。

 そう思いながら、広場に行く。
 広場には村中の人達が集まっていた。
 みんな焦っているような、不安を感じているような表情をしていた。

 俺はみんなの話に、黙って耳を傾けた。


「ど、どどどういうことだ? どうして魔族なんかが、こんな村に来る?」
「分からねえ……だけど今日、森に行ったらウサギが殺されたんだ」
「ウサギ? それが魔族とどういう関係があるんだ?」
「そのウサギの腹に血で文字が書かれていたんだよ!
『お前等、人間共に復讐する。三日ほど前に殺されたルコシエルの仇を取る』
 って!」
「はあ? ルコシエル? 殺された? こいつ、なにか勘違いしてるんじゃねえか?」
「そう言って、おとなしく帰ってもらえると思うか?」
「……思わないな。例え最初は勘違いでも、俺達は殺されちまうだろう」


 ぶるぶると震えている。

 ふむ……ルコシエル。俺が殺した魔族で間違いない。
 復讐しにきた、ということか。
 ヤツ等の気持ちも分かるが、完全に逆恨みだ。

「逃げよう! この村から!」
「この村を置いていけと? それに俺達が外に出て、生き残れると思うか? 外にはモンスターがうじゃうじゃいるんだぞ!」
「だからって、ここに留まっていても死ぬだけだぞ!」

 みんなが言い争って、中には怒号が飛び交ったりもしている。
 子ども達はそんな大人を見て、怯えていた。
 平和な村に訪れた恐慌。

「なあなあ、みんな」

 俺は一歩前に出る。
 魔族が逆恨みかなんだろうが、この事態を招いたのは俺に一因がある。

 だから。

「安心してくれ。俺が魔族を返り討ちにしてやるから」

 俺が口にすると、みんなの注目が一気に集まる。

「そ、そうだ! アルフは勇者パーティーの一員だったんだ!」
「アルフだったら、この村を救ってくれるに違いない!」

 その瞳には希望が宿り、キラキラと輝いているように見えた。

 ——こんなに人から期待されるのは、いつ以来だろう?
 慣れていないのでむず痒いが、悪い気分じゃない。

「じゃあみんなは家の中にでも……」

 そう言いかけた時であった。

「来た! あれじゃねえか!」

 一人の男が空の方を指差して、叫んだ。

 俺は空を見上げる。

 突き抜けるような青空だ。
 だが、向こうのはぽつぽつとした黒点が。
 それは少しずつ大きくなっていき、やがて魔族ルコシエルのような形であることが視認出来た。


「魔族ってのは一体だけじゃなかったのか?」
「十体はいるぞ! さすがにアルフでもこれだけは……」


「だから安心しろって」

 何故なら。
 魔族をしっかりとこの目で捉えた瞬間、彼等には”みんな俺より弱くなって”もらっているのだから。

「愚かな人間共よ」

 十体を超える魔族は村の上空に止まり、俺達を見下しながら言葉を続けた。

『我らは復讐者なり。我が同士ルコシエルがこの近くの森にて息絶えていた』
『人間どもよ、調子に乗るなよ。ルコシエルは我が同士の中でも最弱。今から貴様等を根絶やしにしてくれるわ』

 ルコシエルってヤツより、人間の言葉を操っている。
 より高度な知能を持つ魔族であることが、ここからでも分かる。

 十体以上の魔族は一斉に村に向かって降下してきた。

「キャーーーーーーッ!」

 村に響き渡る悲鳴。
 そのまま魔族は風を切りさき、一人目の人間の手をかけようとした瞬間……地面にぶつかった。

『グハッ! どういうことだ!』
『いきなり飛行能力がなくなったぞ? それに力もなくなって……これは?』
「お前等にスマートな答えを教えてやろう」

 俺は腰からぶら下げていた剣をつかみ、

「俺が空なんて飛べないからだ」

 と地面で悶え苦しんでいる魔族の首を、一気に切断したのだ。

『貴様がルコシエルをやったんだなっ?』
「それがなにか?」
『我が同士の仇、取らせてもらおう』
「やれるもんならやってみろ」

 そこからは一方的な戦いであった。
 魔族どもが襲いかかってくるが、その動きがあまりにのろい。
 ゆっくりと首を切断し、羽をもぎ取り、命を刈っていった。

『どうしてだ! どうして魔法が使えなくなっている!』
『き、貴様……なにをしたんだ!』
「みんな俺より弱くなってもらったんだよ」

 いくら高度な知能を持っていようが、俺には関係ない。
 相手がどれほど強いだろうが、俺のスキルさえあればみんな仲良く底辺だ。


『き、貴様! 待て! これが見えぬか!』


 戦いに集中していると。
 少し離れたところで、魔族が一人の少女を後ろからつかみ、首に爪を当てていた。

「た、助けて……アルフさん」
「あの子は……」

 村の子どもだ。
 どうやら気を取られている隙に、魔族が子どもを人質に取ったらしい。

『ククク。分かるな? 今すぐその行いを止めないと、この少女を八つ裂きにする!』
「さすが魔族だな。汚い」
『勝てばそれで良かろう』
「今までそうやって戦ってきたのか?」
『フンッ。言わなくても分かるだろう』

 魔族がニヤリと口角を歪ませ、

『前、とある一国と戦った時は壮観だったなあ。千人の兵士相手に、我一人ではさすがに手に余った。だから転移魔法を駆使して、あいつ等の家族の何人かを人質に取ったのだ! さらに国の王様や大臣もな。我の力さえあれば、それすらも容易い』
「それで?」
『あいつ等は涙を流して降伏した。だが! 降伏しても、我に傷を負わせたのだ! 許すはずがない!』
「殺したのか?」
『もちろんだ。まずはあいつ等の目の前で、家族をな。涙を流していたよ。だが、我はそんなもの関係なしに、人質を取られて無抵抗なあいつ等の前で殺してやった! ハハハ! あれほど、愉快なことはなかなか起こらないだろうな! これだから人間狩りは止められない』
「やはり……お前等はあいつ等と一緒だな」
『あいつ等?』

 もちろん、勇者パーティーのあいつ等のことだ。
 性格がねじ曲がっているのに、それで自分がおかしいことに気付いていない。
 自負心だけ膨らませていって、今にも爆発しそう。
 こいつの言葉を聞いているだけで、不快な気分になった。

「それにお前知ってるか?」
『なにがだ?』
「人質ってのは、自分より弱いヤツを取ってはじめて成立するんだぜ? なあ、アビー」

 囚われている村の女の子……アビーの名を呼ぶ。

「アビーはこいつより強いから大丈夫だ。ちょっと肘で攻撃してみな」
「え……?」

 アビーは戸惑ったように口を開く。

「大丈夫。俺を信じて」
「……うん。分かった!」

 純粋で良い子だ。
 アビーはそのまま肘で魔族の腹あたりを思い切り突いた。

 すると……。

「グガアアアアアアアアアアアア!」

 腹に一撃をくらった魔族は、口から血を吐きながら後ろに吹っ飛んでいった。

「お前はもう弱くなってるんだ。子ども一人にも勝てないくらいにな」

 息絶え絶えの魔族に近付き、そのまま容赦なく剣で頭を突き刺した。

 ふう……これで最後か。
 気付けば地面には、襲撃をしかけにきた魔族全員分の死体が転がっていた。
 俺もこいつ等の返り血を浴びて、決してカッコ良い姿ではなかったが、

「ア、アルフ! さすが勇者パーティーの一員だ! 魔族をこんな一瞬で倒しちまうなんて!」
「この村の英雄アルフ! この村の誇りだ!」

 と村のみんなは俺のところに集まってきて、賞賛を繰り返してくれた。

「……こういうのも悪くないものだな」

 照れ隠しに頬をかいた。
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