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四章
★35・パーティー脱退者
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五日後。
辿り着いた街でエリオットは途方に暮れていた。
「一体これからどうすればいいんだ……?」
まずは金を稼がなければならない。
今のエリオットは銅貨の一枚も持っていない。
ゆえに金がなければ食うものにすら困り、行き着くところは餓死だ。
(勇者が餓死……?)
そんなバカなことがあってたまるか!
百歩譲ってダンジョンの中とかなら分かるが、ここは平和な街の中だ。
みっともない真似は出来るわけがない。
だが……。
「アハハハ! ここは天国ですわね! 全てのものが新しく見えますわ!」
「ひゃひゃひゃ。エリオット、ここで私達は暮らしてくんだよな? 今思えば王都は騒がしかった。それに比べここは静かだ。私達が新居を構えるには良いだろう」
相変わらずおかしくなままの二人。
(早く力を取り戻してくれればいいんだが……)
最悪マルレーネだけでもいい。
マルレーネの治癒魔法があれば、なんとかなるからだ。
戦わなくても、治癒魔法で稼がせればいい。
だが……今のところ、マルレーネが正気に戻るような気配はない。
「エリオット君」
フェリシーに名前を呼ばれ、振り返る。
「ギルドに行ってみない? ここにもあるみたいだし。私達みたいなのがお金を稼ごうと思ったら、ギルドで日雇いの仕事をもらうしかないよ……」
「うん、分かってる。モンスター退治だね」
「……エリオット君。いつまでそんなこと言ってるの?」
「は?」
言葉が詰まる。
フェリシーは真っ直ぐ彼を見つめ、捲し立てるように続けた。
「エリオット君、なんでかよく分からないけど弱いじゃん。調子が悪いだけなのかもしれない、って思ってた。でもそれにしては、いくらなんでも悪すぎるよ」
「そ、そうだ! 大スランプなんだ! それにスライムくらいなら倒せる——」
「倒せる? 今までスライムに何回もやられてるのを見てるけど? もし死にかけになったら、マルレーネも治癒魔法を使えない。致命的だよ。動けなくなったら、さらにお金を稼ぐことも出来ない……悪循環。だからエリオット君達は土木作業とかやった方がいいと思うんだ」
「ゆ、勇者の僕が……そんなことを?」
「もしくは薬草摘みとかさ。モンスターがいるところだったら危ないから、そういうところは避ければいいし……まあ危険じゃないところの薬草摘みって、報酬も少ないと思うけど。仕方ないよね」
この世界にとって、モンスターを華麗に退治し、報酬を得ることがカッコ良いこととされている。
なのでフェリシーの言った通り、地味な仕事はエリオットは一度も手を染めたことがなかった。
それどころか、戦闘能力を持たない人達のことを、彼は内心見下していたのだ。
(そんな仕事を……僕がする……?)
エリオットは逡巡する。
フェリシーの言っていることはもっともだ。
戦い以外、なんら技術も持たない彼に出来ることは、そういった仕事になってくるだろう。
しかし今まで華やかな仕事にしか目を向けてこなかったのだ。
ゆえに。
「バ、バカなことを言うな! それに解決方法は他にもあるじゃないか!」
と激昂した。
「他にも?」
「お前が戦え! お前だったら、ドラゴンの一体二体。楽に倒せるだろうが!」
そうなのである。
パーティーにかけられた『弱体化』の呪い(?)は、フェリシーだけが免れているようだ。
フェリシーだったら、モンスター討伐もやってのけるだろう。
当面、フェリシーの魔法にかけるしかない。
「私だけが働くの……?」
フェリシーが目を丸くする。
「ああ。それ以外にどんな方法がある? 働けるヤツが働けばいいだけの話だろう」
吐き捨てるようにエリオットは言った。
「じゃあその間、エリオット君はどうしてるの?」
「どうするって……スランプを脱出するまで、宿屋かそこらで待機するしかないさ」
「私、魔法使いだって知ってる? 前衛がモンスターを食い止めてくれないと、強い魔法なんてまともに放てないよ。私一人で戦えるほど……強くないよ」
「うるさいな!」
エリオットが大声を上げると、フェリシーの肩がビクッと上下に震えた。
「文句文句文句ばっかり! 僕のために働けよ! それがお前等、女の喜びってヤツだろ? 僕がこんなに苦労してるのに、お前はなにもしてないじゃないか!」
「私が……なにもしていない……?」
「そうだろ? 魔法使いってヤツは偉そうなくせに、前衛がいなきゃ~ってすぐに文句を言う。僕達のような前衛が動き回ってるのに、魔法使いは後ろでただ突っ立ってるだけ。今までそれがむかついてたんだ!」
怒りの丈をぶつける。
……よし。吐き出したら、ちょっと胸がすーっとしてきた。
どうやら自分でも知らないうちに、ストレスが溜まっていたらしい。
今までアルフにストレスの全てをぶつけていたので、気が付かなかったことだ。
「…………」
そんなエリオットの言葉を聞いて、一瞬フェリシーは目を細めた。
(なんだこの間は? 嫌な予感がする……)
とエリオットが思っていると、フェリシーが一転してパッと笑顔になり、
「じゃあ私。このパーティー抜けるよ」
と口にした。
「ああ? それってどういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。私がこのパーティーにいる理由なんて、一つもないからね。バイバイ、エリオット君。君がそんな役立たずになるとは思っていなかったよ」
「おい、ちょっと待てよ!」
エリオットがフェリシーに手を伸ばす。
だが、フェリシーは虫を払うようにして、
「触らないでよ! 今までの君じゃないんだ。負け組がうつるじゃん!」
「負け組? ぼ、僕が……?」
絶句するエリオット。
「エリオット君がお金とか力とかなくしたら、急にバカバカしくなってきた。なんでこんな男に私が惚れていたのか理解に苦しむよ」
「だ、だから今は大スランプ中で……またすぐに力は戻る……」
たどたどしい言葉でエリオットは言い訳を続けるが、自分でも苦しいと感じていた。
それを感じ取ったのか、フェリシーは「プッ」とバカにするようにして吹き出す。
「いつ戻るの? 例え戻ったとしても、こんな平和な世の中でエリオット君の力が役に立つのかな? それに待つのはもう疲れたよ。もう私は行くから、追ってこないでね」
「ちょ、ちょっと待て! 話し合いを!」
今、フェリシーに抜けられると痛すぎる!
フェリシーという女はどうでもいいが、彼女の魔法は金を稼ぐにあたって役に立つ!
慌てて再度手を伸ばして、彼女を止めようとしたが。
「アハハハ! 見てください、エリオット様。街の人がみんな、わたくしを見ていますわ! きっとわたくしが美しすぎるからでしょう!」
「エリオット。早く新居を見に行こうじゃないか。私としては、こじんまりとしたところが良いと思うんだ。狭い部屋の方が、いつでもエリオットにハグ出来るからな」
マルレーネとサラがまとわりついてきた。
「は、離せ! フェリシーがいなくなったら、金に困るだろうが!」
「なにを言っていますの、エリオット様。わたくしの治癒魔法があれば全て解決ですわ! 見てくださいね。ヒールヒールヒール!」
「そうだ、エリオット。私と一緒に喫茶店で働こう。きっと美男美女の店員がいるって街中の噂になるだろうなあ」
振り払おうとするものの、二人の力は意外にも強かった。
「待て! フェリシー!」
だから声だけで彼女を止めようとするが、歩みは止まる気配がない。
(ああ、どうしてこうなったんだ……)
フェリシーの背中がとても遠くに感じた。
辿り着いた街でエリオットは途方に暮れていた。
「一体これからどうすればいいんだ……?」
まずは金を稼がなければならない。
今のエリオットは銅貨の一枚も持っていない。
ゆえに金がなければ食うものにすら困り、行き着くところは餓死だ。
(勇者が餓死……?)
そんなバカなことがあってたまるか!
百歩譲ってダンジョンの中とかなら分かるが、ここは平和な街の中だ。
みっともない真似は出来るわけがない。
だが……。
「アハハハ! ここは天国ですわね! 全てのものが新しく見えますわ!」
「ひゃひゃひゃ。エリオット、ここで私達は暮らしてくんだよな? 今思えば王都は騒がしかった。それに比べここは静かだ。私達が新居を構えるには良いだろう」
相変わらずおかしくなままの二人。
(早く力を取り戻してくれればいいんだが……)
最悪マルレーネだけでもいい。
マルレーネの治癒魔法があれば、なんとかなるからだ。
戦わなくても、治癒魔法で稼がせればいい。
だが……今のところ、マルレーネが正気に戻るような気配はない。
「エリオット君」
フェリシーに名前を呼ばれ、振り返る。
「ギルドに行ってみない? ここにもあるみたいだし。私達みたいなのがお金を稼ごうと思ったら、ギルドで日雇いの仕事をもらうしかないよ……」
「うん、分かってる。モンスター退治だね」
「……エリオット君。いつまでそんなこと言ってるの?」
「は?」
言葉が詰まる。
フェリシーは真っ直ぐ彼を見つめ、捲し立てるように続けた。
「エリオット君、なんでかよく分からないけど弱いじゃん。調子が悪いだけなのかもしれない、って思ってた。でもそれにしては、いくらなんでも悪すぎるよ」
「そ、そうだ! 大スランプなんだ! それにスライムくらいなら倒せる——」
「倒せる? 今までスライムに何回もやられてるのを見てるけど? もし死にかけになったら、マルレーネも治癒魔法を使えない。致命的だよ。動けなくなったら、さらにお金を稼ぐことも出来ない……悪循環。だからエリオット君達は土木作業とかやった方がいいと思うんだ」
「ゆ、勇者の僕が……そんなことを?」
「もしくは薬草摘みとかさ。モンスターがいるところだったら危ないから、そういうところは避ければいいし……まあ危険じゃないところの薬草摘みって、報酬も少ないと思うけど。仕方ないよね」
この世界にとって、モンスターを華麗に退治し、報酬を得ることがカッコ良いこととされている。
なのでフェリシーの言った通り、地味な仕事はエリオットは一度も手を染めたことがなかった。
それどころか、戦闘能力を持たない人達のことを、彼は内心見下していたのだ。
(そんな仕事を……僕がする……?)
エリオットは逡巡する。
フェリシーの言っていることはもっともだ。
戦い以外、なんら技術も持たない彼に出来ることは、そういった仕事になってくるだろう。
しかし今まで華やかな仕事にしか目を向けてこなかったのだ。
ゆえに。
「バ、バカなことを言うな! それに解決方法は他にもあるじゃないか!」
と激昂した。
「他にも?」
「お前が戦え! お前だったら、ドラゴンの一体二体。楽に倒せるだろうが!」
そうなのである。
パーティーにかけられた『弱体化』の呪い(?)は、フェリシーだけが免れているようだ。
フェリシーだったら、モンスター討伐もやってのけるだろう。
当面、フェリシーの魔法にかけるしかない。
「私だけが働くの……?」
フェリシーが目を丸くする。
「ああ。それ以外にどんな方法がある? 働けるヤツが働けばいいだけの話だろう」
吐き捨てるようにエリオットは言った。
「じゃあその間、エリオット君はどうしてるの?」
「どうするって……スランプを脱出するまで、宿屋かそこらで待機するしかないさ」
「私、魔法使いだって知ってる? 前衛がモンスターを食い止めてくれないと、強い魔法なんてまともに放てないよ。私一人で戦えるほど……強くないよ」
「うるさいな!」
エリオットが大声を上げると、フェリシーの肩がビクッと上下に震えた。
「文句文句文句ばっかり! 僕のために働けよ! それがお前等、女の喜びってヤツだろ? 僕がこんなに苦労してるのに、お前はなにもしてないじゃないか!」
「私が……なにもしていない……?」
「そうだろ? 魔法使いってヤツは偉そうなくせに、前衛がいなきゃ~ってすぐに文句を言う。僕達のような前衛が動き回ってるのに、魔法使いは後ろでただ突っ立ってるだけ。今までそれがむかついてたんだ!」
怒りの丈をぶつける。
……よし。吐き出したら、ちょっと胸がすーっとしてきた。
どうやら自分でも知らないうちに、ストレスが溜まっていたらしい。
今までアルフにストレスの全てをぶつけていたので、気が付かなかったことだ。
「…………」
そんなエリオットの言葉を聞いて、一瞬フェリシーは目を細めた。
(なんだこの間は? 嫌な予感がする……)
とエリオットが思っていると、フェリシーが一転してパッと笑顔になり、
「じゃあ私。このパーティー抜けるよ」
と口にした。
「ああ? それってどういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。私がこのパーティーにいる理由なんて、一つもないからね。バイバイ、エリオット君。君がそんな役立たずになるとは思っていなかったよ」
「おい、ちょっと待てよ!」
エリオットがフェリシーに手を伸ばす。
だが、フェリシーは虫を払うようにして、
「触らないでよ! 今までの君じゃないんだ。負け組がうつるじゃん!」
「負け組? ぼ、僕が……?」
絶句するエリオット。
「エリオット君がお金とか力とかなくしたら、急にバカバカしくなってきた。なんでこんな男に私が惚れていたのか理解に苦しむよ」
「だ、だから今は大スランプ中で……またすぐに力は戻る……」
たどたどしい言葉でエリオットは言い訳を続けるが、自分でも苦しいと感じていた。
それを感じ取ったのか、フェリシーは「プッ」とバカにするようにして吹き出す。
「いつ戻るの? 例え戻ったとしても、こんな平和な世の中でエリオット君の力が役に立つのかな? それに待つのはもう疲れたよ。もう私は行くから、追ってこないでね」
「ちょ、ちょっと待て! 話し合いを!」
今、フェリシーに抜けられると痛すぎる!
フェリシーという女はどうでもいいが、彼女の魔法は金を稼ぐにあたって役に立つ!
慌てて再度手を伸ばして、彼女を止めようとしたが。
「アハハハ! 見てください、エリオット様。街の人がみんな、わたくしを見ていますわ! きっとわたくしが美しすぎるからでしょう!」
「エリオット。早く新居を見に行こうじゃないか。私としては、こじんまりとしたところが良いと思うんだ。狭い部屋の方が、いつでもエリオットにハグ出来るからな」
マルレーネとサラがまとわりついてきた。
「は、離せ! フェリシーがいなくなったら、金に困るだろうが!」
「なにを言っていますの、エリオット様。わたくしの治癒魔法があれば全て解決ですわ! 見てくださいね。ヒールヒールヒール!」
「そうだ、エリオット。私と一緒に喫茶店で働こう。きっと美男美女の店員がいるって街中の噂になるだろうなあ」
振り払おうとするものの、二人の力は意外にも強かった。
「待て! フェリシー!」
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