逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

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四章

★33・勇者の追放

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 もうあんな戦争は参加したくない。

 エリオットは戦争から帰還した後、ただひたすら部屋の片隅でブルブルと震えていた。

(一体……僕はどうなってしまったんだ? あんなに戦いが怖いと感じたことなんてはじめてだ……!)

 今まで戦いを怖いなんて思ったことはなかった。
 魔王ですら、一発で粉砕してきたからだ。
 目の前に出てくるモンスターや魔族なんて虫けらのたぐいにしか思っていなかった。

 自分に出来ないことは、なに一つなかった。
 今までそんな僕を人々は賞賛してくれていた。

 だけど——今となっては、遠い過去の出来事のようだ。

「アハハハハハ! チョウチョですわ! こーんなにいっぱいのちょうちょが飛んでいますわ!」
「エリオット、結婚式はどうする? 二人きりの新婚旅行もどこに行くか悩むな。だが、そのためにはフェリシーとマルレーネが邪魔だが……」

 あれだけ美しかったマルレーネとサラ。
 エリオットのハーレムパーティーの一員だ。

 見ているだけで、目が潤った。
 そんな彼女達を、エリオットは好き勝手に出来たのだ。

 だが、今となってはその面影もない。

「うるさいうるさいうるさい!」

 エリオットは二人に向けて叫ぶ。

「うるさいんだよ! マルレーネ、どうしてチョウチョの死骸しがいを大事そうに持っている? サラ、僕は結婚なんてするつもりねえんだよ! 結婚なんてしたら、他の女と遊べなくなっちまうじゃねえか! さすがに不倫なんかしてたら、世間への体裁が悪くなるだろうが!」

 大股で二人のもとへ近付く。
 エリオットは腰から下げていた剣を抜き、刀身を向ける。

 しかし二人は全く臆する様子はなく、

「エリオット様? なにをおっしゃっているんですか。これは幸運を呼ぶチョウチョですわ! 見るだけで最高の幸運が訪れると言われていますの!」
「エリオット、そんなバカなことを言ってないで結婚式の日取りについて話すぞ。いつがいい? 出来るだけ早い方がいいよな。明日とかはどうだ?」

 エリオットの憤怒に二人は気付いている様子なく、ただ一方的に話し続ける。
 そんな変わり果てた二人の姿を見て、さらにエリオットは激昂げっこうした。

「うるさいうるさいうるさい!」
「キャッ!」
「グバッ!」

 勢いに任せて拳を振るうと、二人の頬にめり込み壁に叩きつけられた。


 ——本来、弱くなったエリオットではそんなことをしただけで、幼女の平手くらいのダメージしか与えられないだろう。
 しかし今回、マルレーネとサラも『みんな俺より弱く』なってしまっているのだ。
 だからこそダメージが通るわけだが——まだアルフのやったことに気付いていないエリオットには、頭になかった。


「はあっ、はあっ……黙る気になったか?」
「ああ! 幸運を呼ぶチョウチョを踏みつけてしまいましたわ。でも安心してくださいませ。チョウチョならいーっぱいいますから!」
「エリオット、私が悪かった。許してくれ、うぐっうぐっ」
「……はあ」

 溜息を吐く。
 マルレーネは変わった素振りを見せないし、サラはブルブルと震えて嗚咽を漏らしている。
 さっき殴ったせいで、ボコボコになった二人の顔がさらにオークみたいになっている。

 殴っても気が晴れない。
 それどころかさらに不快になっただけだ。

「フェリシー……こいつ等はどうなってしまったんだよ」

 気分転換にベッドに腰掛けていたフェリシーに声をかけた。

「えっ? 私に話、振っちゃうの?」

 きょとんとした顔で、フェリシーを目を丸くする。

「フェリシー以外に誰がいるんだ? 僕はもう君しか頼れる人はいないんだ」

 ゆっくりとした足取りでフェリシーのもとに向かい、両腕で抱きつこうとした。

「キャッ! 臭……ちょ、ちょっと!」

 だが、そんなエリオットの両腕がフェリシーに払いのけられる。

「フェリシー……?」
「あっ、ごめんごめん! 急に来るものだから、反射的に手が出ちゃったよ。アハッ」

 フェリシーはごまかすようにして頬をかいて、視線を逸らした。

 なんださっきのは?
 どうして僕を拒むんだ!

 頭に血が昇って、フェリシーに問い詰めようとすると、


「失礼しますぞ。勇者殿」


 と部屋に騎士団長がずかずかと入ってきた。

「どうしたんだ、騎士団長。ノックもなしに。君の行動は不敬罪に——」

 エリオットは言葉を紡ごうとした。
 しかし止まってしまう。

 何故なら。
 入ってきたのは騎士団長一人だけではなく、他の兵士達もぞろぞろと入ってきたからだ。

 さらに一番最後に入ってきたのは、

「お、王様っ?」

 思わず素っとんきょうな声を上げてしまうエリオット。

 一体なにしにきたんだ?
 異質な雰囲気に、エリオットの背筋も自然と伸びる。

「今回は勇者殿——いやエリオットに言いたいことがあってな」
「僕に?」
「うむ」

 と騎士団長は持ってきていた紙をバッと広げ、高々とこう告げたのであった。


「元勇者エリオットの王都からの追放を、ここに宣言する!」


「……は?」

 あまりに突拍子もない出来事に、エリオットの思考が止まってしまった。

 そんな彼に対して、騎士団長は話を続ける。

「我々の話し合いの結果、エリオットは王都に対して『詐欺』を働き、国民達に多大なる不信感を抱かせた、と判断した」
「ど、どどどいういうことだっ? お前の方こそ僕に一体なにを言う? は、反逆罪だ! そうですよね、王様!」
「——それは私も同じ事だ」

 王様がヒゲを撫でながら言う。
 エリオットを汚いものを見るような目で見下している。

「そもそもエリオットよ、お主は本当に魔王を倒したのか?」
「なにを言うんですか! 倒したじゃないですか! あんなに立派な凱旋パレードもやって、一体なにを言い出すんですか?」
「よくよく考えたのじゃが、お主が倒したという証拠がない」
「……は?」
「なにか証拠でもあるのか? 魔王を倒した」

 なにもない。
 というかそんなもの考えたこともなかった。
 魔王を倒して、平和になった。
 その事実だけで十分じゃないか、と。

 それに今までエリオットがもたらした功績によって、王様や騎士団長は彼に絶対なる信頼を抱いていた。
 エリオットが「魔王を倒した」と言ったら、盲目的に信じてしまうくらいに、だ。

「でも事実魔王を倒して平和になりました! このことはどう説明を付けるつもりですか!」

 エリオットは必死に反論する。
 だが、それに対して王様達は予定していたのか、

「一つ考えたのじゃが……お主の仲間にアルフという男がいたな」

 と即答した。

「はい。あの雑用係のアルフですが……」
「あのアルフは今どこにおる?」
「ア、アルフですか?」

 そんなもの、パーティーを追放してしまったから今どこにいるか分からない。
 サラの生まれ故郷にいたらしいが……もうどこかに行ってしまってる可能性もある。
 それに伝えたところで、なんになるというのだ?

「アルフは……僕達のパーティーを抜けました。アルフだけ戦闘能力を持ちません。なので僕達のレベルに付いていけなくなり、罪悪感を抱いた……と考えられます。そんなこと考えなくていいのに」

 エリオットはすらすらと口から嘘を吐いた。

「アルフだけ戦闘能力を持たない? もしかしたら、それはお主の嘘だったのではないか?」
「……は?」
「アルフについては、色々と情報を聞いておる。なんでもお主の勇者パーティーを抜けてから、各地で活躍しているそうではないか。腐敗した教会を弾劾だんがいしたヒーロー。ストローツという街でも、モンスターをたくさん倒して人々に安穏をもたらした。さらに最近では残党の魔族達を退治しているらしいぞ?」
「ア、アルフが?」

 ありえない。
 アルフは弱い。エリオットは強い。
 それは決してされないはずだったのに。

 本当になにが起こっているんだ?

 エリオットが愕然としていると、

「とにかくもう決まったことのなのじゃ」
「納得したか? エリオット」

 王様と騎士団長が声を揃える。
 そして最後は王様が手で払うようにして、

「エリオット。王都からの追放を宣言する。本当なら処刑するところであるが、こちらも確固たる証拠はないからな。この辺りで許しておいてやる!」

 と城内に響き渡るような声で告げた。

 エリオットは手足の震えが止まらず、吐き気と頭痛が止まらなくなっていた。
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